ともに考え、ともにつくる インタビュー(Bリーグ 大河正明チェアマン)
はじめに

 さまざまな分野で活躍する方々を朝日新聞社の渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の第7回は、男子プロバスケットボールリーグ・B.LEAGUE(Bリーグ)の大河正明チェアマン(理事長)にご登場いただきました。朝日新聞社はBリーグのサポーティングカンパニーでもあります。銀行勤務をへてBリーグの立ち上げに関わるようになった経緯や、Bリーグの運営を通して願うスポーツのあり方などについてお聞きしました。

 「ともに考え、ともにつくる インタビュー」は、3カ月ごと年4回のペースで更新していく予定です。


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【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
スポーツをみんなが楽しめる国に
( Bリーグ・大河正明チェアマン × 朝日新聞社・渡辺雅隆社長 )


▼ Bリーグ・大河正明チェアマン のプロフィールはこちら

 

銀行辞め「縁」ありプロバスケットボールの新リーグ設立に参画

渡辺社長(以下、渡辺) まずは大河さんご自身のことをお聞かせ下さい。中学校、高校でバスケットボールをされていて、社会人になってからは銀行にお勤めでした。サッカー・Jリーグの仕事も経験されたんですよね。


Bリーグ・大河正明チェアマン

大河正明・Bリーグチェアマン(以下、大河)   1991年に設立されたJリーグには95~97年、銀行から出向という形で行きました。新しい組織で総務関係をしっかりしたいので銀行から人を出してほしい、というJリーグ側の意向があったのです。


渡辺  銀行に戻ったものの会社を辞め、正式にJリーグに入ったのち、今度はバスケットボールの世界へ行きました。


大河  銀行に戻ってからも、「Jリーグで仕事をしないか」というありがたいお話を何度かいただき、決心してJリーグに行きました。ただその時、Jリーグは設立から20年近くたち、それなりの組織基盤ができていました。

 そういう中で、自分がかつてやっていたバスケットボール界が2014年に国際試合の出場資格を停止されるという処分を受けました。当時、男子の国内リーグはNBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)とbjリーグがあり、国際連盟からずっと是正勧告があったにもかかわらず、まとまることができなかったからです。銀行を辞めてJリーグに行く以上にチャレンジングでしたが、バスケットボールの世界で男子プロリーグの組織作りを手がけることにしたのです。


渡辺  きちんとした組織がない中、男子リーグを何とかしなければ立ちゆかないという状況ですね。


大河  事態解決のための改革チームが設置され、そのトップになったのがJリーグの立ち上げに尽力した川淵三郎さん(日本サッカー協会最高顧問)です。Jリーグなどでお世話になった川淵さんが本当に苦労されていた様子を目の当たりにして、力になれるのであれば自分も一肌脱ごうと思いました。もともとバスケットボールをしていましたし、バスケットボールが大好きだったので、そのためにできることがあればと決意しました。


渡辺  大河さんは転機の時に「縁」という言葉をよく使われます。


大河  銀行に入ってそれなりに仕事をしていた30歳ぐらいの時に体調を崩して、大事な会議の時にどうしても出られないこともありました。会社での約30年をフルマラソンの42・195キロに例えると、まだ10~15キロを走っているくらいの若い時に、けいれんして足がつったランナーのようになりました。自分なりに頑張って走らせてもらいましたが、その悔しい経験があり、何かに大きくチャレンジしたいという気持ちがあるようです。川淵さんがまとめ役を担わなければ、僕にお声はかからなかったでしょう。そういう意味で、今回もやはり「ご縁」があって、今この仕事をしているのだと感じます。


渡辺  決意にあたっては、戦国武将・毛利元就のことなどを頭に思い浮かべたそうですね。


大河  毛利元就もそうですし徳川家康にも当てはまりますが、本人にとって礎になった出来事が、当時の50代後半、もう60歳に手が届こうとする時に起きたというのは、今で言うと70歳ぐらいのことなのではないかと思います。バスケットボールの世界へ再び足を踏み入れたのは56歳の時でしたが、それを考えると、まだまだ若いつもりでやっていけばいいかなと思いました。


 B.LEAGUE (Bリーグ) が誕生するまで


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バスケットボールで豊かな国を目指す

Bリーグ 大河正明チェアマン×朝日新聞社 渡辺雅隆社長

渡辺  新リーグ設立にあたっては、実業団主体であるNBLとプロのbjリーグをそれぞれ一度壊して再構築する形をとったのですよね。


大河  そのまま統合してもうまくいかないので、新しい組織を作りました。はじめは従業員も売り上げもゼロです。人がいないと始まらないので、人を集めるのがまず大変でした。


渡辺  新しい組織を動かすにあたり、どういうことを考えましたか。


大河  スポーツの地位を向上させたい、と強く思いました。Jリーグには、朝日新聞社さんにパートナーになっていただいた「Jリーグ百年構想」があります。サッカーを通して、あらゆるスポーツをみんなが楽しめる豊かな国を目指すための振興です。あれが僕の原点で、バスケットボールでも、そうしたことを実践したいです。豊かな国というのは少し抽象的ではありますが、そこを目指して今、この仕事をさせていただいているので、それをぶれないようにやりたいです。


渡辺 大河さんは現場主義で各クラブにもよく足を運んでいらっしゃいます。


大河  銀行に勤めている時、「現場百回」とよく言われました。銀行には本部と支店がありますが、本部の机上の空論で考えると間違えることがたくさんあり、その経験が身に染みついています。やはり現場に出て、見て感じることが、自分のやり方の一丁目一番地です。


渡辺 私たちもまったく同じです。朝日新聞社も全国に、総局や取引先の朝日新聞販売所があり、それら一つひとつはすべて状況が違います。本社にいて報告は聞きますが、その話と、現場に行って自分で聞く話や感じることは、違うこともあります。


大河  本当は、もう一歩踏み込んでタウンミーティングのようなことをしたいのです。例えば、ファンの方と一緒に話をしたり、スポンサーや行政の方に向けてBリーグは今、何を考え、何を発信したいと思っているのかを直接お話しさせていただく機会を設けたりすることです。次のステップとして必要だと感じています。


渡辺 私たちも、お客さまに集まっていただいて車座集会で直接、ご意見を伺ったことがあるのですが、これもまた、本社にいて聞くお客さまからの声とは違うことがあります。


大河  ややもすれば声の大きな人の話がよく入ってきますが、サイレントマジョリティー(声なき多数派)がいるかもしれません。場数を踏み、自分でそれを確認することで、声の大きな人に対して「みんながそう思っているとは限らないと僕は感じる」と言えます。そうしないと、声の大きな人に振り回されてしまいます。リーグというのは難しくて、36クラブの多様な考えがございます。自分たちがぶれることなく方向性を考える上でも、声には出さないけれどものすごくいい意見を持っている方を大事にしたいです。

 あとは「飲みニケーション」も含めて、クラブの社長とは一対一で徹底的に会話することを心がけています。Bリーグは会員クラブの集合体の公益社団法人ですから、それぞれがどういう気持ちで働いているのかを把握するのです。


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アリーナを街づくりの核にしてスポーツを成長産業に

朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  試合会場のアリーナを拠点とするビジネスについて、どう考えていらっしゃいますか。


大河  アリーナもサッカーのスタジアムも、ファンや地元の人にとってみんなが集まれる家だと考えています。日本はそういう観戦環境がまだまだ整っていませんが、アメリカやヨーロッパに行くと、スポーツが文化そのものです。毎週末、地元のチームがどうなるのかということを楽しみに一週間を過ごしている人が、いっぱいいます。

 プロ野球ですと、日本は全国区で人気のチームがありました。Jリーグができてからようやく、地域に根ざすチームが理解されるようになり、今は野球でも「北海道日本ハムファイターズ」や「東北楽天ゴールデンイーグルス」などが生まれました。

 バスケットボールに話を戻すと、きちんと試合が見られて、試合がなくても毎週集いたくなるようなアリーナが、地域の街づくりの核として存在感を示せれば、アリーナは利益を生むプロフィットセンターにできると思います。スポーツが成長産業となるための、大きなポイントの一つだと思います。


渡辺  そのためには、アリーナ自体に魅力が必要ですね。


大河  クラブハウスや練習拠点がもっと大事だと思っています。高校野球でも、熱心な方はバックネット裏に毎日来て、好きなチームの練習を見ていますよね。バスケットボールも、市民に開かれたチームであることが、地域密着のために必要です。練習風景を見てもらえて、終わったら選手とも話せる。その延長線上にアリーナがあり、非日常はそこで感じてもらう。そういうサービスを提供することが理想です。


渡辺  日本の体育館は、試合はできても観戦する立場でのつくりになっていないように感じます。


大河  まだまだですが、少しずつ工夫は始まっています。愛知県の企業・アイシン精機さんが母体となっている「シーホース三河」は、だいぶ独自色があります。ゴール後方の一番上の席は最も売りにくいのですが、本拠地ではそこに畳を敷いて掘りごたつを置き、寝転んだり足を伸ばしたりしながら観戦できるようになっています。逆に一番いい席は、L字型のソファの前にテーブルがあり、飲食をしながら観戦できるようにしています。

 アリーナは、試合をぐるっと取り囲んで見ることができると同時に、きちんとしたコンコースがあり、そこで飲食ができたり物が買えたりして、一日楽しめる劇場空間のような場所にしたいです。お客さまの満足度をもっと高くすることができるでしょう。


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デジタルツールの活用でファン増やしBリーグを大きく

渡辺  デジタル戦略として顧客データベースの構築に取り組んでいますね。


大河  36クラブの個人情報を統合したバスケットボール界全体のデータベースを構築しようとしています。お客さまの中には、グッズを買う人、ファンクラブの人、年間シートの人がそれぞれいます。加えてバスケットボールの競技者登録をしている人がいますし、審判や指導者も試合を見に来られます。こういう人たちの行動をひとつにまとめ、試合予定や新商品のご案内ができれば、クロスセル(組み合わせ販売)の機会があるでしょう。それをマーケティングにつなげていくことが狙いです。一方で、最初にどうやって試合を見に来てもらうかという課題に関しても、SNSなどのデジタルツールを活用したいと思っています。


渡辺  スマートフォンを軸に、ファンとのコミュニケーションを活性化させることもしていらっしゃいます。


大河  使い勝手などまだまだ改善点はあるものの、スマートフォンのアプリひとつで、いろいろなことが便利に、そして楽しくできるようにしています。電子チケットを購入し、ペーパーレスで入場できます。名場面やハイライト映像を提供する一方、お客さま自身は会場で撮った写真をアップロードして、自分だけの観戦アルバムを作れるようになっています。映像などはシェア・拡散してもらい、一度来た方にリピーターになってもらえるようにしたいです。こうしたサービスを利用する会員をどれだけ増やしていけるかということも、Bリーグが大きくなっていくための勝負どころです。


渡辺  アプリの利用者は今どのくらいですか。


大河  十数万人です。


渡辺  バスケットボールは、世界的に見れば競技者が最も多いスポーツだと言われています。


大河  はい。約4億5千万人います。


渡辺  バスケットボールは、10~30代の若い女性の観戦意向が強いという調査もあります。


大河  若い女性が何を考え、バスケットボールの何に魅力を感じているのかを、掘り下げて理解しているわけではありません。ただ、アリーナだと雨が降ってもぬれませんし、サッカーほど跳びはねて応援しなくてもいいし、ファッショナブルなところが支持されているのかもしれません。


渡辺  1試合あたりの入場者数5千人、1チームの年間予算は10億円以上を目指すなど高い目標を掲げていらっしゃいます。経営目標の定め方に関する大河さんの考え方はどういうものでしょうか。


大河  銀行やJリーグで見てきましたが、積み上げてできた目標を掲げると低いものにしかなりません。例えばバスケットボールの選手の年俸について、サッカーの日本人選手の1人あたりに追いつこうとすると、その数値がまず大きな目標になります。そのために何をすべきかを考えると、チケット収入やグッズ販売でどのくらい売れればいいのかの内訳が見えてきます。そして、それだけ売れるポテンシャルがあるのかないのかを見極めます。すると、目標値も決して不可能な数字ではないと思います。そこにアリーナという起爆剤が入れば、さらに大きな数字を目指せます。


渡辺  私たちは、メディアとして情報やサービスを提供することで、より豊かな暮らしや、心や体の豊かさに貢献したいと思っています。大河さんのお立場からメディアへの注文があれば、お聞かせ下さい。


大河  権力に対して、中立の立場で客観的に物を言うことは、とても大事だと思います。こびへつらったり、常に反対したりする必要はなく、中立に、客観的に、ということがメディアに求められるのではないでしょうか。それをどう読み解くかは、読んだり聞いたりした人によって変わります。残念ながら紙媒体がだんだんと読まれなくなって広告も減る一方、デジタルでのニュースは重要になってくるでしょう。ウェブ上にしっかりとした情報提供がなされることへの期待は、高いと思います。


渡辺  20年には東京でのオリンピック・パラリンピックもあり、スポーツへの関心が高まる時期でもあります。Bリーグさんと一緒にできることがあれば、ぜひよろしくお願いします。


全国のBリーグチーム


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大河正明(おおかわ・まさあき)氏

大河正明(おおかわ・まさあき)氏 大河正明(おおかわ・まさあき)氏 プロフィール
 おおかわ・まさあき
1958年生まれ、京都府出身。
バスケットボールを始めた中学時代に全国4位。京都大学卒。81年に三菱(現・三菱東京UFJ)銀行入行。95年にJリーグへ出向、総務部長。出向終了後に鎌倉・町田などの支店長を経て、2010年退行。同年Jリーグに入局し、14年に常務理事。15年に日本バスケットボール協会専務理事・事務総長(現在は副会長)、Bリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)チェアマン。



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B.LEAGUE(Bリーグ)

 2015年に設立。初代チェアマンは、Jリーグの初代チェアマンも務めた川淵三郎氏。B1(1部)とB2(2部)があり、各18チームが6チームずつ3地区に分かれ、交流戦を挟みながら60試合のリーグ戦をする。B1は、各地区の上位2チームと、残りのチームの中で勝率上位2チームの計8チームが、チャンピオンシップに進出して優勝を争う。


 リーグ初年度は16年9月に開幕。開幕戦は東京・国立代々木競技場第一体育館で、「世界初」と銘打ち、床上の巨大なLEDモニターに映し出したコートで実施するなど、革新性とエンターテインメント性が強く打ち出された。初代優勝チームは栃木ブレックス。1年目で約226万人だった年間総入場者数を、20年までに300万人に増やすことを目標に掲げる。試合はインターネットを中心にライブ中継されている。


【→ B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト】


(企画構成・霜田 紗苗、撮影・林 正樹、ウェブデザイン・田渕 裕美)


 

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