ともに考え、ともにつくる インタビュー(旭化成 小堀秀毅社長)
はじめに

 さまざまな分野で活躍する方々を朝日新聞社の渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の第11回は、旭化成の小堀秀毅社長にご登場いただきました。積極的に進める海外企業に対する大型M&Aや組織のあり方・人材育成の見直しで、新たな価値をつくる挑戦を続けています。


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【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
知恵を「コネクト」 社内も社外も
( 旭化成・小堀秀毅社長×朝日新聞社・渡辺雅隆社長 )


▼ 旭化成・小堀秀毅社長 のプロフィールはこちら

 

渡辺雅隆社長(以下、渡辺) 小堀さんは2016年4月に旭化成の社長に就任されました。スタートするにあたっての思いや、就任して手がけたことは何ですか。


小堀秀毅社長(以下、小堀)  現場に対する感度の重要性を、改めて訴えていこうとしました。そのためのキーワードは何だろうか、と考えました。そこでまず三現主義です。現場に行き、現物を見て、現実を知る。これは古くから言われている言葉ではありましたが、もっと社内に徹底させていきたい、というところからのスタートでした。


渡辺  就任したころ、取材に対しても、そのようにおっしゃっていましたね。


小堀  社長に就任したのは、中期経営計画(中計)のスタートの時期でした。この中計を実際に執行するにあたってのキーワードも考えました。純粋持株会社制から事業持株会社制に変えて迎えた新年度でもありました。例えば(多くの事業がある中で)繊維やケミカル、エレクトロニクスを一つの大きな領域で「マテリアル」とくくる。こうして会社全体がもう一度しっかり結束しなければ、という思いで「コネクト」を打ち出しました。それにコンプライアンス、コミュニケーション、そしてチャレンジ。この三つのCも加えて、Cs for Tomorrowを中計の名前として掲げたんです。それから3年近く、ことあるごとに三現主義、コネクト、三つのCの実行を呼びかけ続けています。



渡辺  それぞれの事業や部門でどうしても部分最適に意識がいってしまうことがあると思います。どう意識改革してもらうかが大変です。


小堀  現場で働いている人と、リーダーとして会社を引っ張る層の視点はおのずと違ってきます。現場は一生懸命、目の前の課題に取り組んでいますから。私たちは中長期のあるべき姿を格好良く言うだけではなく、現実を理解しなければならない。理想に対する現実のハードルの高さを認識して、達成に向けてどうリソース(経営資源)をかけていくか。そのために、上と下とのコミュニケーションをはかることが重要になります。


旭化成グループの主な事業


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M&Aのポイントは事業だけでなく人材

渡辺  コミュニケーション活性化のために、この3年間どう取り組んできましたか。


旭化成・小堀秀毅社長

小堀  まず中計について、主要な各部署や地域を回って説明してきました。東京なら1千人程度を集め、会社の状況や、各部門に期待することを話します。5月から夏ごろまでかけて、国内だけでなく海外も回ります。それから、社内サイトで全社員へのメッセージを出して、三現主義や「C」を実行するように繰り返し繰り返し発信しています。


渡辺  多くの社員が集まって、18年11月に研究発表会を開いたそうですが、これも「コネクト」の一つでしょうか。


小堀  全社研究発表会は3年に1度行っています。技術陣中心に約1400人集まりました。重点領域の口頭発表に加え、研究の成果を紙にまとめて発表するポスターセッションがあります。そこでは約170件もの発表がありました。旭化成は繊維、ケミカル、エレクトロニクス、住宅、医薬品など様々な事業や技術があります。新製品開発もいろいろ行っているので、参加者がそれぞれ発表の場を聞いて回って、「一緒にやったら面白いね」などと交流する。そこで、いろんな部署をコネクトした研究テーマが出てきました。ようやく社内でもコネクトが進みつつあります。この発表会を、新たな化学反応を起こす機会にできればと期待しています。


渡辺  製品化のスピードを加速させることが求められるようになってきました。


小堀  AIやIoTなどの新たなテクノロジーを活用していくことが大切です。かつては大企業が人材を集めて世界の産業をリードしていましたが、今はベンチャーが台頭しています。外部とのコネクトで、自社にない人材や知恵を取り込んでスピードを上げないと生き残れない時代です。


渡辺  メディアもそうです。競争に勝つために新しい風をとりこまないといけません。旭化成は18年7月、米国の自動車内装材大手のセージ・オートモーティヴ・インテリアズを約7億㌦(約800億円)で買収すると発表しました。自動車関連事業の売上高を、25年度には15年度比で3倍にする目標を掲げましたね。


小堀  大きな買い物をしたので、3倍よりもっと増やさなきゃいけないと思っています。
 かつてはエンジンを中心に多くの部品を組み合わせて車をつくる「組み立て産業」が車産業の軸でした。今は、各自動車メーカーがリチウムイオンバッテリーを動力源とする電気自動車の開発や、自動運転技術の開発を加速させています。電気自動車はガソリン車と比べて大幅に部品数は少なくなります。さらに電気自動車は、エンジン音がしないため、車の中が静かになりますね。この静かな空間の中で何ができるか。会議室になるかもしれない。リビングになるかもしれない。


渡辺  自動車の中の空間が別物になるという感覚ですか。


小堀  そうするとシートの概念も変わってきます。シートの清潔さや消臭力などニーズも変わりますね。私たちはシートのための繊維や、車に使われるプラスチックのほかにセンサーの技術も持っています。例えばCO2濃度が高くなると眠くなります。だから、CO2センサーを車内に入れると、眠気が起きる前に自動的に換気を行い、居眠り防止に役立ちます。脈拍センサーで運転手の健康状態をチェックすることもできます。


渡辺  いろんな活用があるんですね。


小堀  電気自動車や自動運転技術の進展は、車そのものの価値だけでなく、「車内で何ができるのか」という新たな成長領域を生み出しています。私たちは、様々な技術をトータルで組み合わせて、(新しい自動車のコンセプトを)新たな価値として、提案・創造していきたいと考えています。


渡辺  ここでもコネクトが必要とされている。


小堀  はい、言い続けています。


渡辺  今まで持っていたものを活用しながら新しいジャンルへ乗り出す。それには実行していく人材が必要です。


小堀  戦略を描いてもそれを実行できる人がいなかったら絵にかいた餅です。M&A(企業合併・買収)では、事業だけでなく自社に足りない人材を確保することも一つのポイントです。


渡辺  旭化成のM&Aで、いちばん大切にされていることは何ですか。


小堀  M&Aは事業拡大のための、あくまで手段です。目的は何なのかを常に見失わないようにしています。M&Aをすること自体が目的になってしまうと、買収した後に「で、どうするの?」「なんでこの会社を買ったの?」という話になりかねません。買収後にどういう経営をするのか想定しなくてはならない。そこで、早い段階から獲得後にマネジメントする人材を参画させます。相手の会社にほれこんで、実際に責任を持って当初の目的を達成する人材です。現場がやりたくないものを、トップがやれといっても無理ですから。


渡辺  そこもきちんとコミュニケーションをとっていくことが必要ですね。


小堀  当然、会社としてもしっかりサポートします。でも現場のシナジー(相乗効果)を出すために、部門の責任者と買収する企業とのコミュニケーションがないとうまくいきません。社外の人間に任せるとしても、どこまで任せるのか、私たちがどの事項を重点的に管理するのかも考えておく必要があります。


旭化成 小堀秀毅社長×朝日新聞社 渡辺雅隆社長

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経営陣に「ものが言える」仕組みを

渡辺  こういった人材の育成についておうかがいします。大規模な会社になると、働き方も多様化して、育成もたいへんになってきますよね。


小堀  やはり若いうちにいくつかの仕事や部署を経験することが重要だと思います。マテリアル領域だけでも、中身はまったく違った分野があるので、その領域の中でも、30代半ばぐらいまでには二つか三つの部署を経験してほしいです。


渡辺  経営幹部の育成はどうですか。


小堀  私自身を含めた経営会議メンバーは外部のコンサルタントからコーチングを受けています。例えばアンケート評価。私の活動や発信の方法・内容などがどう見えているのか。理解されているか。直属の役員二十数人が無記名で回答し、コンサルタントがまとめて私に報告します。辛辣(しんらつ)なことを書かれることもありますが、自分にはいい気づきになります。グループ役員や事業部長クラスにも、コーチングを受けてもらいます。絶対的な権力を持つと周囲がものが言いにくくなり、会社がおかしくなる可能性がありますから。


渡辺  朝日新聞社も双方向評価があります。管理職になって、評価されて。がっかりすることはありますけど、確かに気づきはあります。


小堀  それから役員候補の人材評価・育成については、経営会議メンバーで議論して文書化しています。かつては、部門のトップが気に入った人材を推薦する傾向がありました。そうではなく、本当に役員にする資質があるのか見える化しないといけません。コンサルタントにも、それぞれどんな特徴があるかをコメントしてもらっています。


渡辺  手間暇かかるけど、とても大事なことですよね。個々でやるのではなく、全体として見ていかなければなりません。


小堀  現在最適や部分最適を考えている現場と、全体最適や将来性を考える経営陣を、うまくつなげていく必要があります。自部門のことを考えるだけでは、部門が多い会社ではまとまらない。高度成長期だったらそれでもどうにかなりましたが、今は新たなイノベーションが求められます。従来の産業がそのまま伸びるとは限りませんから。


渡辺  襟元にSDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)のバッジをつけていらっしゃいますね。今、様々な事業をSDGsに関連づけて進めている企業が多くなっているように思います。


小堀  意識しています。当社は「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します」をグループ理念に掲げ、中計では「クリーンな環境エネルギー社会」と「健康・快適で安心な長寿社会」をうたっています。この実現に向けた課題解決型事業に集中していく。これは個別にやっているだけじゃ外部には伝わらないんですね。日本の企業は理念やビジョンがあっても発信があまり上手ではない。私たちもそこは大きな反省点です。次の中計では、ESG(環境・社会・企業統治)の概念を意識した取り組みを打ち出していきたいと考えています。


渡辺  SDGsやESGは投資家の判断材料にもなっていますね。もともと企業は、自分のところだけもうかればいいわけではなく、何らかの社会貢献、課題解決が目標ですから。それを奥ゆかしくやっていては伝わりません。


小堀  米国の企業は発信力にたけています。日本の企業としても、海外からしっかり投資してもらうために見える形で発信していく。これがマネジメントの大きな仕事だろうと思います。


SDGsと旭化成グループの活動


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質の向上には現場の感度が重要

渡辺  若い世代と話していると、待遇や処遇はもちろん気にしていますが、この会社に入って社会にどう貢献できるのか、と考えていることがわかります。とても心強い一方で、貢献できる人材にどう育てていくかも課題だと思います。


小堀  実感するには時間がかかる場合もあります。私がエレクトロニクス系の部門のトップのときは、工場に行って説明していました。私たちが作っている製品はどういうものに使われているか、世の中のどんなことに役に立っているか。私たちがやっていることは非常に重要なことなんだ、と。やはり企業には理念が必要です。グローバルに展開すればするほど、多様な人材が入ってくるので、その軸になるビジョンやバリュー、スローガンが求められます。旭化成にはCreating for Tomorrowというスローガンがあります。


渡辺  企業の意思を感じる言葉ですね。


小堀  これは買収する企業にも伝わりやすかったです。特にアメリカの企業でしたから。社会貢献するということを長く説明するより、このひと言の方が、受けがよかったです。


朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  私たちは「ともに考え、ともにつくる~みなさまの豊かな暮らしに役立つ総合メディア企業へ」を掲げています。今日より明日がもっとよくなるように、と。その一方で今、メディアは激しい混沌(こんとん)の中にあります。メディアに期待することは何でしょうか。


小堀  難しいお話です。紙からウェブへの変化などメディアのあり方は大きく変わりつつあります。それでも変わらないのは、質を追求するという姿勢だと思います。その質を高めるベースは現場なんですよね。記者など現場の人たちの感度や意識が非常に重要。そのレベルを上げるために、会社としてどう対応するか。そして、常にレベル向上を求めていく姿勢を期待したいですね。それから、新聞を読んで世の中の出来事を若いうちから把握することは、単なる学力としてではなく、人間形成の上で重要なことだと思います。


渡辺  大学で1、2年生が新聞を読むという講義をしていただいています。大学の先生たちによると、学生たちの会話の中身が変わってきたそうです。例えばトランプ米大統領だとか、政治の話だとかですね。こういうことを、私たちはもっと進めていかないといけないと思います。


小堀  しっかり広げていかなくてはいけませんね。何人かで共有することでコミュニケーションも生まれます。そういう学びの状況をつくりあげていくことが重要だということを、メディア業界全体で訴え続けてほしいです。


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  プロフィール

小堀秀毅(こぼり・ひでき)氏 小堀秀毅(こぼり・ひでき)氏 プロフィール
 こぼり・ひでき
 1955年生まれ、金沢市出身。神戸大学経営学部を卒業後、旭化成工業(現旭化成)に入社。エレクトロニクス部門を長く担当。2012年取締役常務執行役員、14年代表取締役兼専務執行役員、16年4月に旭化成社長に就任。



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  旭化成

 1931年設立で、宮崎県延岡市発祥。本社は東京都千代田区。マテリアル領域(繊維、ケミカル、エレクトロニクス)、住宅領域(住宅、建材)、ヘルスケア領域(医薬、医療、クリティカルケア)など事業を展開し、海外拠点も多く持つ。従業員3万4670人(2018年3月31日現在)。18年3月期の連結営業利益は1984億7500万円。


 

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