ともに考え、ともにつくる インタビュー(エステー 鈴木貴子社長)
はじめに

 さまざまな分野で活躍する方々を渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の第14回は、気づきや感覚を生かした経営に取り組むエステーの鈴木貴子社長にご登場いただきました。


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【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
女性ユーザーに寄り添い「情緒」を重視した商品づくりを
( エステー・鈴木貴子社長×朝日新聞社・渡辺雅隆社長 )


▼ エステー・鈴木貴子社長 のプロフィールはこちら

 

渡辺雅隆社長(以下、渡辺) 創業家のご出身ですが、入社前は少し変わった形でエステーと関わっていらっしゃいましたよね。


鈴木貴子社長(以下、鈴木)  当時社長だった叔父の鈴木喬(たかし)から「商品のデザイン革命をしたい」と請われ、デザインコンサルタントとしてエステーに関わりました。商品のデザインの方向性や、起用するデザイナーを提案する仕事でした。


渡辺  外部の立場からエステーをご覧になってどのようなことを感じましたか。


エステー・鈴木貴子社長

鈴木  当時の社員にとって、商品の価値とは機能を重視した「機能的価値」でした。でも、日用品業界は相当成熟していて競争も激しいので、機能的価値での差別化は難しくなっています。すると残されているのは価格競争です。他社よりいかに大容量でお得かといったことです。
 しかし、これは不毛な競争です。新しい価値をつくっていこうという努力がありませんし、何より仕事をしていてもあまり楽しくありません。私はそれは問題だと感じました。そこで、デザインや香りなど、情緒的なことに重きを置いた「情緒的価値」を説いたのです。なかなか理解されませんでしたが。



渡辺  情緒的価値を考えるにあたっては、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」などを扱うLVJグループにいた経験が影響しているのでしょうか。


鈴木  LVJグループで扱っていた商品の価格は同じカテゴリーの平均単価の10倍以上でしたが、お客様は喜んで買って下さいました。それは、商品には情緒的な価値があり、その商品を使うことで気持ちが高揚していつもよりハッピーな気持ちになるという考え方があるからです。ブランドにはしっかりとした背景があります。エステーに関わり始めた当時、強いブランドが有する力を理解してもらえませんでした。


渡辺  情緒的な価値と言われると苦手意識を覚える人もいます。鈴木さんにとっては当たり前のことが通じない場合、相手とのコミュニケーションに相当苦労されたのではないかと思いますが、どのように克服したのですか。


鈴木  例えば、一部の人はピンクは全部同じだと思い込んでいます。でも、ピンクには上品なピンクも、下品なピンクも、気持ちを落ち着かせるピンクも、そうでないピンクもあります。それがなかなか理解されません。そこで、あるピンクの見本を見せて「これは今、私たちが目指しているピンクではないよね」という対話を重ね、共通言語をつくっていきました。それまで何の疑いもなく続けてきたことを否定する言い方をしてもなかなか通じ合いません。
 外部デザイナーの力を借りたこともあります。ある商品の次のモデルを提案してもらったのですが、その際、10個以上の模型をもとに話をしてくれました。デザインには様々な広がりや方向性があり、商品の本質を考えたとき、その中から何を選んでいくのか。それを検討する大切さを外部デザイナーは示してくれました。
 私が考えるデザインとは、本質を際立たせることです。装飾を重ねるのではなく、余計なものがあれば取り除く必要があります。何を加え、何を加えないのか、ということです。
 特定の商品に対する私自身の意見も伝えました。それまで、トイレで使う「消臭力」という商品には便器の絵柄が全面に描かれていました。私は自分の家に便器の絵がついたものを置きたくないと訴えてデザインを変えてもらいました。私たちのユーザーの7割以上は女性です。女性ユーザーの気持ちにもっと寄り添った商品が必要なのです。


女性目線でデザインを変えた商品

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経営者になり企業で使われている言葉に違和感

渡辺  「企業で使われている言葉は戦争用語が多い」とおっしゃっています。


鈴木  タスクフォース、ロジスティクス、戦術戦略などですね。


朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  それらは競合相手に向けた言葉です。企業の目的はライバルに勝つことではなく、お客様に何を届けるかであるはずですが、私たちはそういった言葉を日常的に使っていて、意識を変えるのは難しいです。


鈴木  社長に就任する前は、男性経営者も女性経営者も同じだろうと思っていました。でも実際になってみると、こうした言葉をはじめとする多くの違いに気づきました。男性経営者が圧倒的多数なので言葉ひとつでも違和感を覚え、声をあげる人がいないのではないでしょうか。理想のリーダー像を問われたとき、戦国武将の名を挙げる経営者が多いですよね。私は織田信長やナポレオンのようになりたいとは思いませんので、やはり違うと思いました。
 それともうひとつ。社内で昇進するにつれて、社内政治だとかパワーゲーム、忖度、といったものが必要になってきます。社外では競合他社と、社内では社員とそれぞれ闘うわけです。そうまでして管理職になりたくないと思う人がでてくるのも納得できます。
 女性の活躍について議論する時、「管理職や幹部にはなりたくない」という女性側の意識にも問題があるという声があり、私も最初はその通りだと考えていました。でも、多くの女性たちが会社で働く一方で子育てをし、介護をし、家庭を守っています。そのうえ、さらに社内外で闘うのはちょっと勘弁してよ、という気持ちになるのは仕方ないのではないかと次第に思うようになりました。
 ただ、こうした考えを私が繰り返し発信することによって、男性社員は、自分たちが男性社会の常識で動いてきたということを認識するようになったと感じていますし、アンケートで管理職になりたいと答える女性社員の割合は以前に比べるとかなり増えました。社員の意識はすごく変わりました。


渡辺  弊社は新聞を発行していますが、政治、経済、スポーツ面は何ページもあるのに対して生活面は1、2ページしかありません。社会の状況や、人々の関心が変化し、多様化している中、決定権のあるポジションに女性も増えないと変わっていかないですね。


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暮らしのゆとりが仕事に新発想を

渡辺  働き方改革についてはどのようなお考えをお持ちですか。


鈴木  今、叫ばれている日本の働き方改革は、世の中の流れに押されて「とにかくやらなければ」「他社に遅れないようにしなければ」という側面が大きく、その過程にある大切なことが抜け落ちている気がしてなりません。
 私が前にいた欧州の会社では、遊び心やゆとりをもって仕事をしていました。8月は1カ月間の夏季休暇、12月半ばごろからクリスマス休暇。社員が不在になります。普段も遅くまで残って仕事をしません。それでも結果的にすべきことができていました。時間や場所にとらわれずに働いているのだと思います。私が推進したいのはそういうことです。
 私たちの会社の使命は「空気」を通して人の暮らしを明るく元気にすることですが、それを目指している社員に余裕がなく、言われる仕事だけをしていては人をハッピーにする商品を生み出せるわけがありません。まず私たち自身の会社生活をゆとりある幸せなものにして初めて、お客様を幸せにすることができる。それが基本的な考えです。
 多様性も同様です。以前、私がいた会社の社員はフランス人、スイス人、スペイン人、ベルギー人、と国籍がものすごく多岐にわたり、色々な背景をもった人たちが集まっていました。日本で常識とされていることが常識ではなく「目からうろこ」の経験ばかりですが、イノベーションはそういうところからこそ生まれるのではないでしょうか。日本で目指されている多様性はそこまで踏み込まれているのか、少し疑問です。


渡辺  鈴木さんのような考えのもとで社員の働き方は変わってきていますか。


鈴木  フレックスタイムを導入しているのですが、その成果を検証しようと言うと、経営管理部門は残業がどれだけ減ったかを数字で出そうとします。でもそれだとフレックスを入れていることの本当の成果はわかりません。働いている人に尋ねると「今までは半休をとらなければできなかったことが休みをとらずにできる。気持ちの負担がなくなってすごく助かっている」という感想を聞くことができました。
 私自身、夜遅くまで会社にいたら行けないようなところへ出かけ、その経験を社員によく話します。伝えることで働き方改革をする真意がわかってもらえ、社員の暮らしにゆとりが生まれることによって、仕事にも新しい考え方が出てくると私は信じています。


渡辺  会議を短くする工夫もしていらっしゃるのですよね。


鈴木  紙に書いてあって読めばわかることは会議で言わず、掲示事項にとどめるようにと指示しています。役員会でも議案の中から討議に値すると私が判断したものを選んで議論しています。最終的なアウトプットを明確にしたうえで議論を広げ、絞り込み、必ず結論を出すようにします。社員向けには「会議シート」というものを作り、埋めればそれがそのまま議事録になるようにもしています。だらだらと議論を続ける会議はだめだということです。


エステー・鈴木貴子社長×朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  意識改革の一環として、男性社員が女性社員と一緒に街に出て様々な体験をする取り組みをしていらっしゃいます。


鈴木  女性向けの新しい商品を考えるにあたり、女性同士ならわかり合える感覚や共通認識が男性にはなかなか通じないことがあります。それでは正しい意思決定ができませんし、商品を生み出すまでに時間もかかります。今の女性たちが何に興味を持ち、何をしているかについて男性社員もアンテナを張れるようしているのです。


渡辺  具体的にはどういうことをするのでしょう。


鈴木  表参道のカフェでスムージーから始まるサラダランチを食べたり、コスメサロンやセレクトショップに足を運んだりしています。


渡辺  参加する男性社員はどう選ぶのですか。


鈴木  企画やマーケティングといった、アンテナを張る必要がある人たちが対象です。


渡辺  指導役の女性社員はどういう方々ですか。


鈴木  女性は部署にこだわらず、若くて感性が豊かな社員です。


渡辺  社内コミュニケーションにもつながりそうですね。


鈴木  男性社員はコミュニケーションというと夜に居酒屋で飲み会をすることを思い浮かべがちですが、それよりも昼間に日の光を浴びながらサラダを食べる方がヘルシーです。男性社員も楽しんでいるようです。


渡辺  確かに健康的ですね。


鈴木  海外ゲストのアテンドも若い女性を積極的に起用するようにしています。これまでは社長と役員という組み合わせで、商品を扱っている量販店や工場見学へお連れするだけになりがちでした。せっかく日本には色々なことが起きていて、おもしろいところがたくさんあるので、新しくできたショッピングエリアやアートスポットなどへ若手と一緒にご案内するようにしました。国内の取引先との会食も同じように、若い社員を連れて行きます。まだ少し早いぐらいの若い社員に学んでもらう機会をつくりたいのです。


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「空気の価値の最大化」を業務用領域でも

渡辺  企業のスローガン「空気をかえよう」を軸に新たな分野にも進出しています。


鈴木  「クリアフォレスト」事業では北海道のトドマツから抽出した香り成分配合の花粉対策製品や、ホテルなどに向けた業務用の消臭ミストに参入しています。これまでは主に家庭用の分野で事業を進めてきましたが、空気の価値を最大化するという企業目的を考えた時、最大化は家庭に限らず宿泊施設、工場、駅、空港など、もっと広い空間でもできると思いました。業務用の消臭ミストは非常に反響が大きく、年間目標の採用部屋数を半年で達成しました。
 消臭・芳香剤を拡散する業務用ディフューザーを手がける会社には、消臭・芳香剤の中にトドマツの香り成分を入れてもらい、介護施設などでご利用いただいています。森林の香りそのものがするので入居されている方にリラックスしてもらえますし、介護している方にも「いい香りで癒やされます」と好評です。
 「使い捨てカイロ」という呼び方で一般化している商品を、冷え性の女性に夏でも使っていただけるよう新しい価値を提案する商品も生み出しています。クオリティーの面で各社に大差がない商品には新たな価値をつけて市場をつくるのです。


渡辺  カイロは実際、寒い時に限らず、体を温めるものとして日常的にそういう使われ方をしていますよね。機能を明確にし、はっきりと見える形で新しい価値としているのですね。
 最後に、今のメディアに対するご要望をお聞かせ下さい。


鈴木  実家では別の新聞をとっていましたので、大学生になると自分で朝日新聞を買って読んでいました。独自の視点で論評をするジャーナリズムについて考えさせてくれたのは朝日新聞だった、という気持ちがあります。今、インターネットの普及により、ものすごい量の情報があふれる中、自分の頭で考えることをおろそかにしているのではないかという危惧があります。そうした時、これまで権力を監視し、日本の民主主義社会に寄与してくれた朝日新聞には「らしさ」をきわめてほしいと思います。朝日新聞のコアバリューは何かということを全社で共有し、それをもっと磨いていってほしいです。


顧客の問題解決プロセス

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  プロフィール

鈴木貴子(すずき・たかこ)氏 鈴木貴子(すずき・たかこ)氏 プロフィール
 すずき・たかこ
 1962年生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業後、日産自動車で中南米地域の輸出業務を担当。LVJグループ(現LVMHグループ)などの外資系企業をへて独立。10年にエステーに入社。13年、取締役兼代表執行役社長に就任。



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  エステー

 鈴木社長の父・鈴木誠一氏が「エステー化学工業所」を1946年に設立し、07年に「エステー」に。社名のエステー(ST)は「社会に対する奉仕(SERVICE)と信頼(TRUST)を信条とし、製品については最高(SUPERTOP)を求める事」から。消臭芳香剤、防虫剤、除湿剤などを手がける。従業員数948人、19年3月期の売上高は約477億円(ともに連結)。


 

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