JSEC2013の審査講評                                          審査委員一覧

■総評

 本年度は212件の応募が129校からあり、応募研究、学校数とも過去最多となりました。予備審査で59作品が選択され、さらに一次審査を経て30作品が最終審査に進出しました。この30作品の内、個人研究は12件、チーム研究は18件でした。応募作品は、年々その優秀性が向上しており、今回の全ての応募作品は、生徒諸君の工夫と努力が十分認められる研究でした。最終審査に進んだ30作品は、研究の目的や研究の内容の他、創意工夫が分かりやすくまとめられており、より高い評価を得ることができました。

 最終審査会でポスタープレゼンテーションを行った30作品は総じて立派な研究でした。その結果、プレゼンテーションでの質疑応答を通して「研究を行った生徒諸君がどこまで自らの研究を掘り下げて考えているか」を評価することが大切な審査ポイントとなりました。

■最終審査の分野別講評と上位受賞研究の評価ポイント

【動物科学】【微生物学】

 動物科学では27件の応募のうち10件が予備審査を通過し、内5件が最終審査に進みました。微生物学では12件の応募から3件が予備審査を通過、内1件が最終審査に進みました。

 これらの6件はオリジナリティも高く、自分で創意工夫と努力を積み重ねているものでした。単に観察や計測だけをまとめたものではなく、そこにみられる現象について、工夫しながら色々な方面からアプローチして自分なりの結論を導き出し、問題点を明らかにしている姿勢が良かったといえます。

 動物科学の研究にあたっては、動物実験の倫理上の問題や手法などについて充分に考慮する必要があります。また、季節や観察地、個体差など、色々な条件の変化によって得られる成果や結果の導き方も異なってくるため、方法や観察の仕方も明確にする必要があります。そして、何よりもなぜ自分がこのような研究をしようとしたのかという動機、生物への愛着、研究していくうちにどんどん面白さが高まっていく過程、そういった観点からも、最終審査作品に選ばれた研究は優れていました。

 また、プレゼンテーションもポスターも英語で行っていた人もいるなど、年々レベルも高くなっており、これをきっかけに更に大きく発展していく可能性があると思います。

◎文部科学大臣賞「ダンゴムシの左右交互に曲がる行動がどのように起こるか〜触角の役割からそのメカニズムに迫る〜」

 林君(富山県立高岡高等学校)は、小学4年生の時にこのダンゴムシの行動に興味を持って7年余りも観察と工夫を重ねてきました。足の負荷よりも触角が行動に大きく関与していることを見出し、色々な装置を自作し、傾きの変化等によって生じる触角の位置と行動との関係も明らかにしました。観察の結果から解析を充分に行って結論を導き出している力作です。

◎科学技術振興機構賞「ハクセンシオマネキの歩行の数理モデル化」

 この研究は、シオマネキの行動パターンをビデオカメラで長時間追跡し、各個体の間の距離と行動範囲を、個別と集団全体の双方向から色々な組み合わせによって解析しています。ボロノイ図を作成し、それらをもとに行動様式と個体間の関係を、数式に見事に示せるところまで分析を進めました。更に、その後、これが正しいのかについて精度の検証や評価を行っており、多方面から実証しているところが高く評価できます。

◎審査委員奨励賞「発光バクテリアの照明への応用における可能性の考察」

 発光のもととなる物質とその酵素の反応は知られていますが、発光を開始させる「自動誘導物質」に着目し、どのような糖類が一番効果的かを調べ、二糖と多糖が発光強度を強くしていること、また、それらの組み合わせも大切であることを示しました。発光バクテリアを照明に応用するという観点から重要なのは、菌体数よりも自動誘導物質の量であることを導き出しています。そして、自分で発光させた光で約3時間読書が可能であることを実証しました。着想と、発光というエコシステムを生物学的に示したことが大変ユニークでした。

【細胞・分子生物学】

 本分野への応募5件のうち、3件が予備審査を通過し、その中から2件が最終審査作品に選ばれました。応募総数に比べて最終審査まで進んだ研究が多かったのは、それぞれの作品の内容が充実していたことの証でしょう。

◎花王特別奨励賞「タマネギの体細胞分裂にリズムはあるか〜細胞と遺伝子からのアプローチ〜」

 このチーム研究は根の分裂組織の細胞分裂の日周変動を観察したものでした。過去の先行研究との矛盾を証明すべく、単なる染色体の染色と顕微鏡観察にとどまらず、細胞分裂に関わる因子(サイクリンB)の遺伝子発現に着目したり、そのcDNAの取得をめざしたりした内容は、高校生のレベルを超えた内容の研究として評価できます。高校生でDNA Data Bank of Japan (DDBJ)に初めて塩基配列情報を登録したと主張していたのが印象的でした。ただ、高校生ならではの知識と経験の限界もあり、解析が不十分な部分があったことは否めません。今回得られた経験を生かして、今後の研究の発展を期待しております。

【化学】

 33件あった化学分野での応募のうち、9件が予備審査を通過し、その中から5件が最終審査作品に選ばれました。最終審査会におけるこの5件の発表は、いずれも熱意に満ちたもので、それぞれ、従来より知られている化学物質が発現する物理現象を論理的に解明することを目指した内容であり、努力のあとが十分読みとれるものでした。その一方で、とりわけこの分野では、実験を通してのデータ収集に当たっては、そのデータの信憑性に対する裏付けが必須です。その意味で、実験結果の再現性の検証などへの認識が必ずしも明確に示されていない研究については、厳しい評価が下されることがあります。また、研究遂行上の安全性の確保についても、様々な化学物質を扱うことの多いこの分野では特に意識して明示されることが望まれます。

◎テレビ朝日特別奨励賞「トマトの茎、葉を原料とした機能性梱包容器の開発」

 福島県立郡山北工業高等学校によるこの研究は、トマトの茎・葉という、本来廃棄物となるはずの部位を、そのエチレン除去機能を確認した上で果物の鮮度維持のために活用しようという着眼の素晴らしさと、その発想を着実に実用化につなげて行く研究姿勢が高く評価されました。現時点でこの研究はまだ完結してはおりませんが、今後の研究継続によって、より一層環境に貢献する材料の創出につながることが期待されます。

【コンピューター科学】

 この分野への応募は5件あり、うち2件が一次審査に進み、最終審査に進んだのは1件でした。その1件が、グランドアワードと特別協賛社賞(富士通賞)のダブル受賞となりました。

◎科学技術政策担当大臣賞、富士通賞「ユーザーインタラクションを用いた楽曲の構造理解システム ―ボーカロイドとニコニコ動画を題材に―」

 本研究の内容は高度で,最先端の技術を試しています。「ニコニコ動画」や「ボーカロイド」という題材の設定が「現代的な高校生らしい」という印象を醸し出しているようですが、研究の根幹部分は「データマイニング」あるいは「テキストマイニング」に関連し、現代のネットワーク社会においては必須かつ重要な技術です。研究を行った矢倉君は自分一人で考えた着想を大切にし,そのアイデアを実際にプログラミングとして実現させる能力が高く、「机上の空論」では終わらない点が高く評価されました。さらに,自分の研究成果に謙虚であり,他の先行研究や分野の動向についても情報収集し、よく勉強をしていることが理解できました。

【地球惑星科学】

 9件あった本分野での応募のうち、3件が一次審査に残り、そのなかから1件が最終審査作品に選ばれました。最終審査会でのプレゼンテーションの結果、その1件が協賛社賞(JFEスチール賞)を受賞しました。

◎JFEスチール賞「縞状鉄鉱層の形成過程」

 学校にあった石の標本(縞状鉄鉱層)に興味を持ち、この縞模様はなんだろうという素朴な疑問を投げかけ、わからないところを、自分の力で着実にひとつずつ解いていったところに、この研究の素晴らしさがあります。まず、似た石をインターネットで検索し、オーストラリアの特定の地域に産する縞状鉄鉱層と同定しました。次に薄片にして、顕微鏡観察で微細構造を観察し、堆積物であることを確定し、微小な堆積構造の乱れをみつけ、それは堆積時の環境によると推測しました。規則的に繰り返す縞は、潮の満ち干ではないかと仮説をたてました。論理的考察と注意深い観察で迫っていきました。論理の飛躍がなく、また、既存の研究に頼ることなく、自分のできる方法で迫りました。そこに本研究の醍醐味があります。

【電気工学・機械工学】

 本分野には10件の応募があり、そのうち一次審査に3件が進み、最終審査には1件が採択されました。いろいろなものを自ら製作することが多い重要な分野ですが、10件の応募数は期待より少ないように思われました。

 自分たちにとって未経験なものを作るときには、いろいろな経験や動作原理に関する知識が必要な場合が多く、応募研究の種類に応じて生徒諸君の様々な努力が感じられました。このため、研究を始めてから失敗を繰り返し、これらを通していかに自らの経験と知識を蓄積して応募作品の研究成果に至ったか、が大変興味のある点でした。最終審査に進んだ1件は、完成に至ってはいませんが、この点が大変優れていると評価されました。

◎審査委員奨励賞「自律航行ができる無人型潜水機(AUV)の開発と水底堆積物のガンマ線量測定」

 受賞作品は、目の役割をする画像認識システムを活用して自律航行できる潜水機を製作し、これにシンチレータを搭載して水底に堆積した放射性物質から放出されるガンマ線量を水中で測定・記録して、最終的に水底にある放射性物質の分布を調査することをめざしたものです。チームのメンバーが分担と密接な連携を行い、加えて悪戦苦闘の結果アイデアを出し合うことによって製作に至ったものです。小さなプールの底に沈めた密封放射線源から放射されるγ線の強度分布を捉えることに成功しました。自分たちでほとんどすべての要素部分の試作を繰り返し最終的な潜水機の製作に至りました。その結果として改良に必要な問題点も十分把握することができました。これらによって、まだまだ未完成というべき開発研究でしたが高い評価を得ました。

【エネルギー・運輸】

 エネルギー・運輸分野での応募5件のうち2件が予備審査を通過し、その中の1件が最終審査作品に選ばれ、協賛社賞(アジレント・テクノロジー賞)を受賞しました。

◎アジレント・テクノロジー賞「塩害に強いあじさいを用いた色素増感太陽電池〜被災地から復興へ」

 本研究は、津波によって塩害を受けた土壌で生育し土壌の浄化作用もある身近なアジサイを用いて、アジサイの赤、青、紫色の花弁、葉から色素を抽出し、クリーンな電力エネルギー源となる色素増感太陽電池の作製を目指した研究です。青色花弁を用いること、花弁を乾燥させること、色素に超音波をあてることが非常に効果的であるなど、アジサイがクリーンな電力エネルギー源となりうることを示した本研究は、日本全体に明るい希望を与えるもので、その点が高く評価されました。

【環境科学】

 17件あった環境科学分野での応募のうち、4件が予備審査を通過し、1件が最終審査作品に選ばれました。その「プラナリアを用いた水質監視装置の開発」(山口県立山口高等学校)は、安全な飲み水確保のために用いられる水質監視装置に、従来は脊椎動物に分類される魚類が用いられていたのを、生命倫理の観点からこれを無脊椎動物であるプラナリアに置き換え、かつ小型で安価なものを作ることを目指した研究です。関連する先行研究を精査した上で、手軽に使える簡易型の監視装置を自ら作り上げた成果が評価されました。

【数学】

 26件あった数学分野での応募のうち、7件が一次審査に進み、その中から5件が最終審査作品に選ばれました。最終審査会におけるこの5件の発表は、いずれも程度の高いもので、大学院生レベルのものもありました。また、研究成果は甲乙つけがたく審査も簡単ではありませんでした。ただ、レベルの高い研究でも、今後の展開が見込まれる結果を出すのはなかなか難しく、必ずしも高い評価が与えられません。

 最終審査作品に選ばれた研究だけでなく、応募された他の研究にもさらなる発展が見込まれるものがあり、引き続き研究を進めることを期待します。

◎審査委員奨励賞「石取りゲームの変種である不等式を満たすチョコレートゲーム」

 3人チームによる本研究は、これまでの成果も踏まえ、Grundy Numberを導入して新しいゲームを提案したもので、今後の展開も期待できます。また暗号への応用を試みたことも評価される点です。

【物理学・天文学】(天文学以外について)

 物理学・天文学分野への応募は30件、そのうち一次審査に10件が進み、最終審査には5件が採択されました。この5件のうち天文学以外の物理学分野の作品は3件でした。いろいろな物理現象に関する研究が応募されましたが、最終審査に臨んだ3件の研究は、優劣の付けがたい研究であり、それぞれが実験による現象の正確な把握のための工夫、加えて得られた実験結果を数学的に、すなわち定量的に解析する試みが行われていた点に特徴がありました。高校では習わない力学や数学を利用する必要があり、複雑な現象から重要な基本現象の抽出へ向けて何処まで自分なりに深く考えているかという点が特に今回の評価ポイントとなりました。

◎朝日新聞社賞「泥団子が球形を維持できるのはなぜか―粒径と表面張力の観点から―」

 本研究は、泥団子が形を保つことが出来るという現象に着目し、[水]の存在によって土の微粒子間に働く力を一歩一歩追求した研究です。自分が置かれた設備環境において行わざるを得ない実験において明確な創意工夫が認められ、さらに土の粒子の大きさや液体の種類の影響などを考慮して表面張力の役割について一歩踏み込んだ解析と、これによって必要となった実験が多彩に行われていた点が高く評価されました。また、自ら行った研究の問題点を的確に理解し今後の課題についても極めて具体的に把握している点も評価されました。

【物理学・天文学】(うち天文学)

 天文学の分野では、金星大気および短周期食変光星に関する2件が最終審査作品に選ばれました。どちらも実際の観測データを解析することによって新たな知見を得ようとするもので、その努力が評価されたものです。ガリレオの時代から見れば観測技術がはるかに進んだ現在でも、宇宙には不思議なことが多く残されており、その謎をひとつずつ解明しようとしているところです。天文学分野の作品は惜しくも上位の賞の受賞を逃しましたが、新しい観測装置や解析方法を開拓しようとする意欲は高く評価されますので、これからも多くの研究が出てくることを期待しています。

【植物科学】

 15件あった植物科学分野での応募のうち、3件が予備審査を通過し、そのなかから2件が最終審査作品に選ばれました。最終審査に進んだ2件の発表は、いずれも高校生らしい着想で身近な興味を丹念に解析したものであり、地道な努力と忍耐が感じられるすばらしい研究でした。

◎花王賞「ヒマワリの種子の配置・成長と繁殖戦略」

 ヒマワリの花冠の種子の配置が単位面積あたりに最も効率よく種子を配置する法則に則っていることをモデルを用いて示し、実際のヒマワリの種子の大きさ(質量)と発芽率の関係を一つ一つの種子について地道に解析した力作です。その結果、一定以上の質量を持つ種子の発芽率が顕著に向上するということを明瞭に示すことができたと思われます。実際の花冠における種子の位置関係と質量および発芽率の関係まで踏み込み、登熟期間の天候の変化と合わせて考察し、種子生産を効率化するための条件の検討まで視野に入れられれば、さらに高度な研究となると思われます。


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