ののちゃん 先生、この間、歌舞伎を見に行ったよ。
藤原先生 先生も歌舞伎、大好きなんだ。面白かった?
ののちゃん 難しいかなあと思ってたけど、すごく面白かったよ。役者さんや舞台の色がきれいだった。演じている人が全員男の人だと聞いて、びっくりしたなあ。だって、あんなに美しいんだもん。
藤原先生 最初は女の人だけで演じる遊女歌舞伎(ゆうじょかぶき)だったの。それから今のジャニーズみたいな美少年たちだけの若衆歌舞伎(わかしゅかぶき)になった。でも、そのたびにものすごく人気が出ちゃって、世の中を乱すと当時の徳川幕府が禁止してね、それで、今みたいに男だけでの「野郎歌舞伎(やろうかぶき)」になったの。女性を演じる役者は女形と呼ぶのよ。
ののちゃん 色がきれいなだけじゃなくて、三味線とかの音も美しかったよ。それから客席で食べたお弁当! おいしかったなあ。藤原先生 そうそう。歌舞伎の魅力はね、色や音、においや味がごちゃまぜになっているところにあると思うわ。知識があると深く楽しめるけど、何も知らなくても、あるがままの歌舞伎を体じゅうで受け入れれば、きっと幸福な気分になれるよ。
◆400年前京都で誕生、演じるのは全員男性
劇場に入ると、お客さんたちのざわめきが聞こえ、着物の女性客の香水がかおってきます。あっ、どこかからおいしそうなお弁当のにおいもしています。
幕が開いて目の前に現れるのは、うっとりしてしまうような女の人、顔じゅうに赤い筋を書いた、アニメのようなヒーロー。金ぴかの着物を何重にも着込んだ人がいれば、着物をたくしあげて、ぞうりを履いている人もいます。
歌舞伎は、東京では歌舞伎座や国立劇場、シアターコクーンなど、関西では京都の南座、大阪松竹座、また名古屋の御園座、博多の博多座などで見ることができます。
歌舞伎が生まれたのは京都です。出雲(いずも)の阿国(おくに)が始めたといわれています。阿国は女性で、男性の格好をして踊ったそうです。今から400年ほど前、江戸時代が始まったのとほぼ同じころ。戦乱の世が終わり、平和なムードが広がり始めていました。
●反抗心を表現
平和な時代、世の中への反抗心が強い若者たちは、派手な衣装に身を包み、長い刀をぶら下げて町を練り歩いていました。現代の日本にも、いきがって格好をつけた若者たちがいますね。歌舞伎は、こうした反抗心を表現した「かぶく」から名付けられた言葉なのです。
その後、歌舞伎の演じ手は女性だけ、若い男性だけという時代を経て、成人男性だけになりました。これが現在まで続く「野郎歌舞伎」です。
元禄時代、その一つの集大成がありました。上方(京阪地域)に「和事(わごと)」という柔らかな芸を得意とする坂田藤十郎、江戸には「荒事(あらごと)」という豪快な芸を得意とする市川団十郎が登場しました。2人の名を名乗る歌舞伎俳優が今でも活躍しています。四代目藤十郎と十二代目団十郎です。
男性だけなので、女性役も男性が演じなくてはなりません。女形はこうして生まれ、現代でも、坂東玉三郎や中村福助らが、女性よりも女性らしく「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」などを踊ったり、演じたりしていますね。
●時代物と世話物
演目は、大きく「時代物」「世話物」に分けられます。時代物は「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」や「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」などが代表作。主に武士が出てきます。世話物はたいてい町人や庶民たちが主役。上方の「曽根崎心中(そねざきしんじゅう)」や江戸の「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」など多種多彩です。尾上菊五郎、松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門らがしびれる芝居をしています。
その時々の流行を何でもかんでも吸収し、歌舞伎は豊かになってきました。明治時代になると、西洋演劇とぶつかりながら、新しい工夫を採り入れました。今でも、市川猿之助の「スーパー歌舞伎」や中村勘三郎の「平成中村座」などが日本の若者にも人気を博し、外国人のお客さんにもアピールしています。
歌舞伎は、05年にユネスコの無形文化遺産に選ばれました。古くからのファンをうならせる熟成した芸は、絶対になければなりません。それと同時に、欠かせないのが若手花形です。今は市川海老蔵、尾上菊之助らが舞台に花を咲かせていますよ。
と、難しい解説はこれくらいにして、まずは劇場へどうぞ。 (米原範彦)
<調べてみよう>
●歌舞伎の演目にはどんなものがあるだろう
●文楽や落語など、歌舞伎以外の古典芸能に共通する演目を探してみよう
●役者たちの見せ場で「大向こう」さんが掛ける「屋号」には何種類くらいあるかな
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