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「3」を究める

5月5日付け朝刊16ページ 科学1

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 昭和を象徴する巨人軍・長嶋茂雄選手は「背番号3」。古くから伝わる「三種の神器」「御三家」、「仏の顔も三度」「石の上にも三年」といったことわざから、現代の「3K職場」まで、日本の文化には3が欠かせません。算数を学ぶうえでも、3は格別の力を発揮するといいます。きょうは、こどもの日。不思議な数「3」を究めてみましょう。(松井潤)

 ○「じゃんけん」は三すくみ

 「じゃん、けん、ぽん!」

 なにかを決めるとき、日本人ならまずじゃんけんだ。じゃんけんは「グー」「チョキ」「パー」の三すくみと相場が決まっている。

 三すくみは、三者が互いに牽制(けんせい)し合い、いずれも自由に行動できないことだ。中国の道家思想の書「関尹子(かんいんし)」に、ナメクジはヘビを、ヘビはカエルを、カエルはナメクジを食う、とあるのに由来するそうだ。

 出す手が4通りの四すくみや、5通りの五すくみのじゃんけんがあってもよさそうなものだが、そうはいかない。数学者の芳沢光雄・桜美林大教授の指導で考えてみた。

 四すくみなら、自分が出した手と違う手が三つある。その全部に勝ったり負けたりしては四すくみにならないから、二つの手に勝って一つの手に負けるか、一つの手に勝って二つの手に負けるかのどちらかだ。

 「でも、一般には二つに負ける手を出すのは最初から不利と思われるので、公平な勝ち負けを決めるゲームにはなり得ません」と芳沢さん。

 それなら、「火」「木」「水」「紙」「石」の五すくみはどうか。

 「火」は「木」と「紙」に勝って「水」と「石」には負ける――。そんなふうに、どの手もほかの2手に勝ち、2手に負けるルールにすれば、公平に勝負がつきそうだ。

 しかし、芳沢さんによると「五すくみだと10通りの勝ち負けのルールを覚えなければならない。3通りですむ三すくみと比べ、あまりに多すぎます」。三すくみが広まったわけが、なんとなく見えてきた。

 芳沢さんは市民講座や出前授業で、じゃんけんのような「3」のおもしろさや重要性を説いている。「数学的な思考力を育むうえでも重要」と考えているからだ。

 たとえば、三段論法。(1)殺人事件の容疑者Aが犯人なら事件発生時に現場にいた(2)事件発生時に現場にいた全員が写真に写っている――とすれば、(3)Aが犯人なら写真に写っている、と必然的に導き出せる。

 ところで、じゃんけんは「グー」「チョキ」「パー」のどれを出しても、原理的には勝つ確率は3分の1のはず。ところが、芳沢さんらが大学生・社会人の725人に、延べ1万1567回のじゃんけんをしてもらったら、グーは4054回、パーは3849回、チョキは3664回だった。人は警戒心をもつと拳を握る傾向があるともいわれるが、グーが多くてチョキが少ない。この結果からすれば、じゃんけんは「パーが有利」といえそうだ。

 ○「3」が大スター生んだ?

 高度成長期の昭和30〜40年代、野球少年たちは「背番号3」を奪い合った。ここぞというときの打撃に、華やかなグラブさばき。巨人軍の長嶋茂雄選手がいたからだ。

 思えば、野球は3ずくめ。ストライク三つで三振。3アウトでチェンジ。3かける3の9回を9人対9人で争う。

 打率、本塁打、打点の「三冠王」に、打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプル3」。背番号3も米大リーグのベーブ・ルース、日本初の三冠王の中島治康(巨人)、鉄人・衣笠祥雄(広島)とスター選手が目白押し。昨季限りで引退した清原和博選手も西武時代は3だった。

 「3は日本人にとって特別な力を秘めているのではないか」と、3大ランキングなどを収集、研究しているのが「日本三大協会」だ。放送作家の加瀬清志さん(56)らが92年3月3日に設立した。

 歴代天皇が受け継ぐという鏡、剣、曲玉の「三種の神器」。徳川幕府の「御三家」「三奉行」。大相撲では大関、関脇、小結の「三役」。街では「三人娘」が輝き、周囲を見れば、きつい、危険、汚い、の「3K職場」――。ざっと1万件の「3」を、同協会は収集している。

 活動の原動力は「物事は『3』の原理ですべて説明できる」という大胆な仮説。同協会は「長嶋選手が活躍したから背番号3が光ったのではなく、3が格好いいから長嶋選手が光り輝いた」という立場をとる。

 加瀬さんは「野球を美しく印象づける数字が3。それを長嶋選手が体現していた。引退後、巨人が低迷したのは、長嶋選手の不在より、永久欠番で『3』が不在になったことのほうが大きい」という。

 日本人はなぜ3が好きなのか。

 同協会によると、理由のひとつは「良い加減」の象徴としての3の存在だ。物事を「大か小か」「白か黒か」といったふうに二つに割り切らず、三つ目を登場させることが、懐の深さや柔軟性を好む国民性にあっているというのだ。

 「『おや、まあ、なるほど』と、日本人の心は3回で納得する。そんなところも関係しているのではないか」と加瀬さんは指摘する。

 ○3けた、かけ算の極意

 「『3』がいかに大事かということを、指導要領をつくった人たちは、わかってないのではないか」

 この4月から一部先取りで実施されている新しい小学校の算数の学習指導要領に、数学者の関沢正躬(まさみ)・東京学芸大教授は大いに不満だ。

 新指導要領は、小学3年で「2けたや3けたの数に1けたや2けたの数をかけるかけ算の計算の仕方を考え……」とする。

 「ゆとり」を掲げた現行の指導要領は「2けたや3けたの数に1けたの数をかけたり、2けたの数に2けたの数をかけたり……」。これと比べれば、ましにはなったが、「3けたの数かける3けたの数までやらないと、かけ算の体系を教えたことにはならない」と関沢さん。

 関沢さんは90年代初め、『わかって楽しい算数教室』という6冊シリーズの小学生用の教材をまとめた。第1巻の「かけ算とわり算」の項目に「139×604」という3けたの数同士のかけ算が載っている。

 これを計算するには、139に4をかけた答えの556に、139に6をかけた答えの834を、位(くらい)をずらして足し合わせる。注意がいるのは604の十の位にある「0」だ。

 2けたまでの数は、真ん中に0はない。だから3けたの数同士のかけ算を教えないと、位取りの仕方がわからず、答えを139に64をかけた8896と間違えるおそれがある。

 かけるほうにも、かけられるほうにも間に0がある数の計算は「3けたかける3けた」で、はじめて出てくる。これで位取りの意味がわかれば、4けたや5けたの数で間に0が入っていても、計算できる。

 「3けたの数同士のかけ算を教えることは、位取りとは何か、0とは何か、といった理念を教えることにつながるのです」と関沢さんはいう。

 ◇週末・夏休み、「日本三大○○」に行ってみよう

 週末や夏休みに、どこかに出かけよう。そんな人にとって「3」は自然を歩く道しるべにもなる。日本三大協会が選定したもののなかからひろってみた。

 ●日本三景

 松島(宮城)▽天橋立(京都)▽宮島(広島)

 日本三景の呼び名は江戸時代初期の儒学者、林春斎が著書「日本国事跡考」で「三処奇観」としたのに由来するという。

「日本三景観光連絡協議会」のウェブサイト(http://nihonsankei.jp/)に見どころが載っている。ちなみに7月21日は「日本三景の日」。同協議会が春斎の誕生日にちなんで制定した。

 ●日本三大渓谷(峡谷)

 奥入瀬(おいらせ)渓谷(青森)▽黒部峡谷(富山)▽大杉峡谷(三重)

 ●日本三大海岸

 増穂浦(ますほがうら)(石川)▽和歌浦(和歌山)▽浄土ケ浜(岩手)

 ●日本三名瀑(ばく)

 華厳の滝(栃木)▽袋田の滝(茨城)▽那智の滝(和歌山)

 ●日本三名泉

 有馬温泉(兵庫)▽下呂温泉(岐阜)▽草津温泉(群馬)

 ●日本三大清流

 柿田川(静岡)▽長良川(岐阜)▽四万十(しまんと)川(高知)

 ●日本三大名月の里

 姨捨(おばすて)山(長野)▽石山寺(滋賀)▽桂浜(高知)

 ●日本三大松原

 三保の松原(静岡)▽気比(けひ)の松原(福井)▽虹の松原(佐賀)

 ●日本三大鍾乳洞

 龍泉洞(岩手)▽秋芳洞(山口)▽龍河洞(高知)

 日本三大協会選定の「三大」ものは「日本三大ブック」「雑学・日本なんでも三大ランキング」(いずれも講談社刊)にまとめられている。芳沢光雄・桜美林大教授は「『3』の発想(仮題)」という本を、近く新潮社から出版する予定だ。

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