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クマ、行楽客次々襲う 9人けが 岐阜・乗鞍のバスターミナル

9月20日付朝刊1ページ 1総合

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男性に襲いかかるツキノワグマ。左は助けようと近寄る男性=岐阜県高山市丹生川町の畳平駐車場付近、読者提供

 19日午後2時20分ごろ、岐阜県高山市丹生川町の乗鞍スカイラインの畳平駐車場(標高2702メートル)で、行楽客や同所にあるロッジ従業員らが山から下りてきた野生のツキノワグマに次々と襲われた。男女9人がけがをし、うち男性4人が顔をかまれるなど重傷。駐車場にあるバスターミナル内に入り込んだクマは土産物店に閉じ込められ、約3時間40分後に駆けつけた地元の猟友会員に射殺された。

 高山署によると、クマは体長約1・3メートル。オスで、4〜5歳とみられる。

 重傷の4人は、横浜市瀬谷区宮沢、無職石井恒夫さん(66)▽高山市丹生川町旗鉾、乗鞍環境パトロール員水田拓志さん(49)▽同、ロッジ「銀嶺(ぎんれい)荘」経営小笠原芳雄さん(59)▽同市江名子町、同従業員青木裕史さん(40)。けがをしたのは、同荘従業員や観光会社員ら20〜50代の男性3人と女性2人。

 同署によると、石井さんは魔王岳方面への登山道入り口で襲われ、助けようとした水田さんらも駐車場内で飛びかかられた。逃げる人を追うように入り込んだ近くのバスターミナルでも、1階の行楽客らが次々と襲撃された。

 現場は北アルプス・乗鞍岳(標高3026メートル)の山頂近くで、全長14・4キロの乗鞍スカイラインの終点。この日は連休初日で、100人を超える行楽客らでにぎわっていた。

クマ、縦横無尽 逃げまどう行楽客 乗鞍・バスターミナルで観光客が襲われけが

9月20日付朝刊31ページ 1社会

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魔王岳(奥)から下りてきたクマは乗鞍バスターミナル(手前中央)に入り込んだ=19日午後5時37分、本社ヘリから、岩下毅撮影

射殺されたクマ=中沢一議撮影

クマの進入経路

 馬乗りになり、鋭いつめで何度も殴るツキノワグマ。逃げまどう行楽客らにも次々と襲いかかる。「やめてー」「急いで逃げろ」。岐阜・乗鞍岳のバスターミナルに19日、クマが突然現れて大暴れし、パニック状態になった。9人が重軽傷。大型連休初日の行楽気分が一気に吹き飛んだ。

 行楽客でにぎわう岐阜・乗鞍岳で、そのとき何が起こったのか。複数の目撃証言をもとに再現すると――。

 午後2時20分ごろ。クマは魔王岳中腹の小高い場所から、突然、現れた。転げ落ちるようにして、岳に通じる石の階段まで走り下りてきた。

 そこには、まさに今から登ろうとする男性がいた。長い木の棒でクマを追い払おうとする男性。クマともみ合いになった。「きゃー」「やめてー」。女性の叫び声が響く。クマは男性を駐車場に押し倒した。顔や体を何度もはたいた。男性は自力で起きあがれないようだった。

 駐車場には、バスやタクシーが十数台とまっていた。威嚇のため、それぞれがクラクションを鳴らした。効果はない。襲われた男性を助けようとしたロッジ「銀嶺(ぎんれい)荘」やバスターミナルの従業員たちが、次々と襲われた。腕をひっかかれたり、顔を払われたり。逃げた人たちを追って、クマは駐車場内の小屋に入った。

 小屋に逃げた人たちは、窓から外へ。出入り口をトラックがふさぎ、クマをいったんは閉じこめたかのように見えた。が、クマは窓ガラスを割って飛び出した。今度はターミナルビルに向かって、突進していった。

 ビルの職員はとっさにシャッターを下ろそうとした。間に合わず約50センチのすき間が残った。クマはそこから潜り込んだ。1階には、逃げ込んでいた行楽客ら30〜40人がいた。「わーっ」。騒然となった。

 次々と襲われた。土産物店にいた女性も腕などをかまれた。消火器を振り回して抵抗する人も。従業員の指示で行楽客らは上階に向かった。

 一部は2階からはしごを伝って屋外に逃げた。残る人たちは2階の屋根裏に入り、内側から机などでバリケードを作った。15分ほどたった。「1階のクマはバリアーで押さえたので、急いで外に逃げてください」。従業員がそう告げに来た。順番に階段で1階まで下りた。

 「バリアー」は土産物店の格子状シャッターのことで、それで店の一角に閉じ込めたクマの辺りを避け、避難用バスに乗り込んだ。上空のヘリコプターの音が響いていた。

 ●冬眠控え活発に 残飯狙い出没?

 NGO「日本クマネットワーク」の代表・山崎晃司さんによると、北アルプス周辺に生息するクマは、8月下旬ころから冬眠に備えて、ドングリなど果実を食べるため、行動が活発になるという。ただ、ドングリなどがあるのは、標高1千〜1500メートルの場所で、今回クマが現れたような高い標高地には「餌になるような果実などは残っていないはず」という。

 乗鞍スカイライン周辺では今年7月ごろからクマが目撃されていたとされる。そのため、「クマがドライブインの残飯などを狙って近づいた可能性もある」という。かつて北アルプス周辺の山小屋で、残飯の処置が不十分だったことから、クマの出没が相次いだ例もあったという。

 クマは昼行性だが、警戒心が強いため、通常は人間を見ると近づかず人間の活動時間帯は近くで潜んでいることが多い。「クマ・人間双方がパニックになって起こった事故ではないか」と山崎さんは言う。(中村信義)

 ●一撃で死の恐れ

 NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦さんによると、クマの攻撃力は、過去の死亡・重傷事例では1発はたかれただけで頭の骨を折られ、死に至ったケースもあるという。人を襲う場合の多くは素早く立ち上がって両手で顔を押さえ、かじろうとする。ツメでの攻撃で多量の出血をする危険もある。

 ■クマに襲われ死傷者が出た近年の主な事例

06年10月 富山県入善町で男性が自宅そばの路上で襲われ死亡
08年4月 北海道北斗市の山中で山菜採りに出かけた男性が襲われ死亡
   9月 東京都奥多摩町の散策路周辺で、登山家の山野井泰史さんがジョギングに襲われ重傷
09年6月 群馬県みなかみ町の国有林内で伐採作業中の男性が襲われ重傷
   9月 北海道新ひだか町の畑で駆除中の猟友会員が襲われ重傷
   同月 山形県真室川町の山中でキノコ採りをしていた男性が襲われ重傷

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