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(アベノミクスって、なに?)番外編 TPP、日本どうなる 6キーワードで探る

3月16日付朝刊7ページ 5総合

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 安倍晋三首相がTPPの交渉参加を表明した。TPPとはどんなもので、日本にどのような影響を与えるのか。六つのキーワードをもとに読み解く。

 ■11カ国 年内の妥結めざす

 環太平洋経済連携協定(TPP)はTrans―Pacific Partnership(トランスパシフィック パートナーシップ)の略だ。

 太平洋を囲む国々が集まって、貿易品の売買や人の移動、国境を越えた投資などがより自由にできるようにする取り組みだ。もともとはシンガポールとブルネイ、ニュージーランド、チリの4カ国だけの小さな連携で、2006年にスタートした。

 10年になって、この枠組みに米国などが加わったことで、注目度が高まった。12年にはメキシコやカナダも加わり、いまは11カ国でTPPのルールを議論している。11カ国には「首席交渉官」という交渉の責任者がいて、2〜3カ月ごとに会合を開き、ルールがまとまるように話し合う。日本が加われば交渉参加国は12カ国になる。タイや台湾、フィリピンなどもTPPに関心を示していて、参加の準備を進めている。

 TPPを主導する米国のオバマ大統領は、年内に交渉が妥結(合意)することをめざしている。そのために、今年10月にインドネシアであるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせてTPPの首脳級会議を開き、ルールについて大筋でまとめる意向だ。

 ■関税撤廃 農産物めぐり対立

 TPPの最大の特徴は、原則として「関税撤廃」をめざしていることだ。

 関税とは、政府が外国からの輸入品にかける税金のことをいう。この税率を高くすると、外国の農産物や工業製品は税関でお金をたくさんとられるため、その国への出荷が減る。輸入品が割高になって売れ行きが鈍るため、自国の産業を守ることができる。

 TPPは原則、関税をすべての品目でゼロにしようとしている。日本の企業にとっては将来、国内でつくった自動車や電気製品などをTPP参加国向けに「関税ゼロ」で輸出できるようになる利点がある。消費者も、輸入された農産品を安く買える。

 ただ、国内の農産物などが価格競争に敗れ、農家をはじめ国内の産業が苦境に立たされるおそれもある。

 このため、交渉に参加する各国は、「関税撤廃が原則」といいながら、国内事情に応じて「例外」をつくろうと協議を重ねている。

 乳製品では、ニュージーランドが関税撤廃を求めているが、米国やカナダは例外扱いにしたいと考えている。日本も、コメをはじめ、小麦や砂糖、牛肉など農産物の高い関税を維持したいと考えており、農産品をめぐる意見の対立は、交渉が合意するのを遅らせる原因になっている。

 ■9千品目 今は例外品目1割

 日本が輸入する約9千品目のうち約1割の940品目は、これまで二国間で結んだ自由貿易協定(FTA)など13件すべてで関税をゼロにしていない。いわゆる「例外品目」だ。ほとんどが農産物で、最高778%の関税をかけるコメをはじめ小麦や牛肉などがある。

 輸出品のうち、例外品目がどれくらいあるかを示す「自由化率」という指標がある。13件のうち、最も自由化率が高いフィリピンとの協定でも88・4%で、約9千品目のうち1千品目ほどは関税が残る。

 一方、米国や韓国などが最近結んだFTAのほとんどは自由化率が95%を超える。日本の輸入にあてはめると、関税が残るのは450品目ほどだ。「関税の原則撤廃」を掲げるTPPもこうした高いレベルでの自由化率を目指している。

 技術力をつけた韓国は、日本の製造業にとって強力なライバルになった。鉄鋼や液晶テレビ、自動車など多くの製品が日本製と競合する。韓国は米国、欧州連合(EU)と次々とFTAをスタートさせ、関税の多くを撤廃しつつある。TPPなどを進める背景には、こうした韓国との競争条件を同じにする目的もある。

 ■21分野 参加遅れ交渉不利

 TPPで話し合われているのは関税も含め、全部で21分野にわたる。ただ、日本はまだ交渉に参加していないため、11カ国で話し合われている内容がはっきり分かっていない。

 関税の分野の交渉が最も難しいと見られているが、各国の主張が対立する分野は数多い。投資などの分野では、「ISD条項」を導入するかどうかも決着していない。外国に進出した企業が、法律や制度の不当な変更などで損害を受けた場合に、その国の政府を訴えて賠償金を勝ち取れる仕組みだ。裁判は中立的な国際機関で行われるため、法制度が未整備な新興国にも企業は投資しやすくなる。ただ、米企業による訴訟の乱発などが懸念されている。

 これまで交渉で大筋まとまったのは「中小企業の貿易円滑化」など数分野にとどまる。遅れて参加する日本には好都合にみえるが、交渉参加が遅いほど不利になるおそれがある。

 多くの国による外交交渉では、一度まとまった分野について、後から入った国が見直しを求めるのは難しい。安倍首相は15日の会見で「すでに合意されたルールがあれば、遅れて参加した日本がひっくり返すことは難しいのは厳然たる事実」と語った。

     *

 <交渉参加が遅れた国のデメリット>
 ・「交渉進展を遅らせない」ことが求められる
 ・合意された事項については、よほどのことがない限り再交渉は難しい
 ・参加が遅れるほど、自国の意見を反映させる余地が少なくなる
 ・交渉参加を表明しても、承認されるまでは過去の交渉記録を見られない

 ■日米協議 保険や自動車焦点

 日本は今後、各国の承認を得てTPP交渉に入る。これまで大半の国が日本の参加を歓迎しているが、米国は日本にさまざまな要求を突きつけて承認を先延ばしにしてきた。このため、今後は事前の日米協議で浮かび上がった課題の解決が焦点になる。

 米国には、最終的には日本に参加して欲しいが、それまでになるべく多くのものを日本から引きだそうという思惑がある。

 これまで米国は、自動車、保険、牛肉の3分野の市場開放を求めていた。牛肉については日本が輸入規制を緩めたことで米国側も矛を収めたが、2月の日米首脳会談の共同声明では、自動車と保険が「残された懸案事項」と強調された。

 日本政府は、米国が輸入車にかける関税を当面維持するとの意向を受け入れたものの、米国は輸入車の安全基準の緩和などを求めている。保険についても米国は、日本郵政の子会社、かんぽ生命保険の業務拡大などに反対している。

 医師や歯科医師ら10万人が加盟する「全国保険医団体連合会」は15日、TPPで米国の製薬会社などが日本に薬価の引き上げや混合診療の全面解禁を求めるようになれば、「国民皆保険制度が機能しなくなる」との懸念を表明した。

 混合診療が解禁されると、病院や製薬会社は、高額でもうけが大きい自由診療の比重を増やす。すると、公的保険を使う診療は採算が悪化し、国民皆保険制度そのものが崩れる――。こんな心配をしている。

 ■4割 世界最大の経済圏

 日本がTPPに入った場合、世界の国内総生産(GDP)の合計に占める割合は38・2%に達する。つまり、世界のGDPの4割を占め、人口約8億人の巨大な経済圏が生まれる。アジアや中南米の国々も続々と参加する見通しで、アジアの成長を取り込んだ世界最大の経済圏になりそうだ。

 日本は最大の貿易相手国の中国、2位の米国、3位の韓国とFTAや経済連携協定(EPA)を結んでこなかった。だが、中韓とはこの春から日中韓3カ国のFTA交渉や、東アジア16カ国が参加する包括的経済連携協定(RCEP)の交渉を進めようとしている。

 日本は、TPPを含めた三つの交渉を同時に進めることでお互いにプラスの効果をもたらしたい、というシナリオを描く。

 TPP交渉で参加国どうしの貿易が増えそうだとなれば、米国に対抗する中国はアジアの国々を「自陣営」に引きつけようとRCEPなどで関税撤廃や知的財産権の保護を進め、「結果的に中国を含むアジアの貿易自由化が加速する」と期待するからだ。

 ただ、それぞれが囲い込みに走って対立する「ブロック経済」を招くおそれもある。

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