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(風のまにまに 南会津雑記:4)只見のブナ原生林 自然首都の誇り 岡村健/福島県

雪崩が斜面を削った「雪食地形」。ブロッコリーのように盛り上がって見えるのがブナ=4日、只見町の国道252号から

 5月は落ち着かない月だ。木々が日ごとに芽吹いて葉を広げ、陽光にきらめき出すと、もうじっとしていられない。畑は後回しにして出かけてしまう。

 南会津地方は落葉広葉樹林に恵まれ、さまざまな樹木が色を競いながら夏の濃い緑へと変化してゆく。山腹に最初に鮮やかな緑を見せるのがブナ、薄いもえぎ色がナラ、まだ赤いのがカエデだ。

 「本当のブナ林を見たい」とよく言われる。原生的な天然林は奥山にしかないが、おすすめは只見町から新潟県に通じる「六十里越」の国道252号だ。

 車で走ると急峻(きゅうしゅん)な岩肌が迫り、たっぷりと雪が残る山々がまぶしい。そして道路から見下ろす田子倉湖畔の斜面にブナ原生林の緑が輝いている。恐ろしいほどの荒々しさと優しさが入り交じる。これが、自然の営みの生の姿である。

 「雪食地形(せっしょくちけい)」という言葉は何年か前に只見町を訪れた時に初めて知った。年間降雪量が20メートルを超す豪雪が雪崩となって山肌を削り、独特な地形を作る。世界的に珍しく、標高の低い森林帯にあるのは日本だけなのだという。生物多様性の宝庫で、食物連鎖の頂点にあるイヌワシ、クマタカやツキノワグマ、ニホンカモシカなどの大型動物が生息しているのが証しだ。

 「この数年で町民の意識が全く変わりました」と只見町総務企画課の新国勇さんが言う。町を半年間閉ざす多雪も、4万ヘクタールに及ぶ落葉広葉樹林も、マイナスイメージでしかなかった。どこの山村でも言われるように「何の役にも立たない」からだ。それが今では雪やブナ林が誇りとなった。

 これは町民や町職員の努力の結果だ。3年間にわたる学術調査を町が実施し、ブナ林が世界的にみて極めて高い価値を持つことを科学的に明らかにした。この知識を小学校から高校まで授業を組んで教えた。「只見の自然に学ぶ会」は自然観察会や探鳥会を続け、次第に参加者を増やした。婦人会の研修はよその視察でなく、近くのブナ林で学んだ。

 昨年7月、町は「自然首都・只見」宣言をした。都市が環境保全に取り組む「環境首都」をヒントにした新造語だ。「自然の中心は只見」と外に向かってアピールし、内に向かっては、自然とともに生き、豊かな自然を次世代に手渡す決意を固めた内容だ。地球温暖化問題をきっかけに世界が「環境」に舵(かじ)を切り始めた今、只見は最先端の町になった。

 この稿が掲載される頃、ブナの新緑は雪食地形の頂に向かって登っているだろう。自然首都の空気に触れに出かけてみませんか。 (文と写真 岡村健)

(2008年5月23日朝刊)