朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞社は、読者の視点から記事などに提言をいただく紙面審議会の第23~24期委員を、三井住友フィナンシャルグループ会長の奥正之さん(68)、文芸評論家の斎藤美奈子さん(56)、北海道大准教授の中島岳志さん(38)、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さん(43)に委嘱しました。任期は2年間です。

 新委員に就任して 朝日新聞紙面審議会

おくまさゆき
 三井住友フィナンシャルグループ会長。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

奥 正之さん 先入観を持たず柔軟に

 全国紙2紙に加え、タブロイドの夕刊紙も電子版で読む。「一般紙からは得られない情報」を、そこから得る。

 英紙フィナンシャル・タイムズも主読紙のひとつだ。刻々と変化する世界の経済金融情勢を知るには欠かせない。グローバルな世界を見る目と、社会の隅々にまで関心を向ける目を持つ。日本の新聞の現状はどう映るか。
 その時その場の現象は伝えることができても、連続性はあるか。「そこが大事。先入観を持たず、十分な取材、議論をしながら、ときには軌道修正しながら報じる柔軟さが重要です」

 「アイキャッチ」という言い方で見出しについて語る。「漢字の魔術」と表現した。漢字交じりの新聞の見出しは、場合によって、さまざまな解釈が可能になると感じる。〈ああいう記事が出ていた〉ではなく、〈あの記事はああいうことを言っていた〉と、わかるような見出しが必要だという。

 天声人語からは昔もいまも、文章のまとめ方、その内容、表現力という点から、「日本語の良さ」が、よくわかるという。「グローバルな世の中になって、英語の重要度が増しても日本語は大切にしたい」。そんな目で新聞を見つめている。


さいとうみなこ
 文芸評論家。編集者を経て1994年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

斎藤 美奈子さん 談論風発の環境作りを

 新聞の役目は検証や論説だと見る。社の見解とは別に、多様な見方を示す「でもね」という記事が必要だともいう。さらに、世の大勢に埋もれた少数派の意見を拾うことも、新聞の存在意義を高めると考えている。

 ふだんは読むのは2紙だが、憲法、原発などの大きなトピックは、全国紙など6紙の社説を読み比べ、ネットで地方紙も比較する。朝日を評すると「左右の安全を確かめて渡りましょう」。多方面を気遣って落としどころを見つけようとしているようだと手厳しい。「議論が尽くされていない」といった結論には「尽くすようにするのはあなたでしょ。ジャーナリズムに責任がある」と指摘し、談論風発の環境作りを望む。辛口なのは、朝日新聞に「しっかりしてほしい」と願うからだ。

 ロングインタビューは人選に注目。「ヒットは、桑田真澄さんに体罰問題を語らせたこと。立ち位置が定まらなかった世の体罰に対する流れが変わった」

 ネットは速報を知ったり、検索してニュースの動きを追ったりするには便利だが、新聞の良さは、どの面にどう扱い、どんな見出しがついているかを見渡せ、ニュースの価値が伝わること。紙媒体のインパクトはすたれていないと感じている。


なかじまたけし
 北海道大学大学院法学研究科准教授。専門は南アジア地域研究、日本思想史。2005年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

中島 岳志さん いい記事は応援したい

 近著「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」(朝日新聞出版)のあとがきにこう書いた。「踏みとどまって問い直したい。『わかりやすさ』は『単純化』なのかということを。世界は『ズバッ』と言えるほど、わかりやすいものなのかということを」

 例えば最近の総選挙。2005年は郵政民営化に賛成か反対か、09年と12年は政権交代するかしないか。争点が単純化され、多くの有権者がそれによって動いた。

 マスメディアでも特にテレビは、物事を単純化して伝える傾向にあると感じている。AかBか、はっきりとした選択肢を示し、時には司会者が「答えはAだ」と断言する。単純化された答えを世の中が求めていることは否定できない。しかし、世の中の空気を読むだけでいいのだろうか。

 「新聞には多数派に打ち消されそうになっている少数意見をしっかりと伝えてもらいたい。空気を読むのではなく、水を差すことを忘れてほしくない」

 インターネットでは新聞の記事や論調が「偏向している」として攻撃の対象にされやすい。それに対して新聞は弱気になっていないかと心配する。「いい記事はしっかりとほめて、応援していきたい」と思っている。


ゆあさまこと
 反貧困ネットワーク事務局長。2008年末に「年越し派遣村」村長。09~12年内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

湯浅 誠さん 市民力育成に力注いで

 名刺の肩書は「社会運動家」。大学時代にホームレスの支援を始めて「貧困」問題を世に認知させ、民主党政権では内閣府参与もつとめた。

 身にしみたのは、「政治が悪いから政治が変わればいいというのは、『お任せの強化』になる」ということだ。ヒーローを待っていても世界は変わらない。結局は「民主主義、市民力の問題」だと思う。

 新聞には「パブリック(シビック)・ジャーナリズムに踏み込んで、市民力育成に一肌脱いで」と期待する。新聞社自身が第三者ではなく、討議の場をつくって、市民が力をつけることに積極的に関わる。記者が情報を提供し人々が議論する。それを紙面や報道に生かす提案だ。

 新聞は、ある「一線」を越えると報じる。だがその端緒は普通の暮らしの中にある。「虐待やホームレスの問題もそう。でも新聞はプロセスをなかなか伝えない」。介護殺人は多いのに、もうあまり報じられなくなっている。時には、きっかけから掘り下げるといいと思う。

 保育所の待機児童問題も、大変な「お母さんA」を書いても児童虐待とは関連させない。困り果てた末の虐待……もあるのに。時々は、課題をつなげて全体像を見せてほしい。