朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点から議論する本年度第1回紙面審議会が5月23日、東京本社で開かれた。「選挙制度改革報道」などをテーマに、今年4月に就任した4人の新委員との間で意見を交わした。

 【2013年度第1回審議会】(1)選挙制度改革

小選挙区制の検証が必要――中島委員

 奥正之委員 選挙制度改革をめぐり、社説「0増5減 まず半歩前へ踏み出せ」(4月3日)、「0増5減 食い逃げは許されぬ」(同24日)やコラム「日曜に想(おも)う 『私』の平等VS.『私たち』の平等」(同21日)があったが、焦点が「一票の格差」是正に絞られている。制度そのもののあり方について踏み込んだ議論がほしかった。

 大野博人・論説主幹 制度がどうあるべきかを論じるべきだとは、むろん認識している。だが、違憲判決が出て、この状態を一刻も早く解消しなければならないと考え、この間、社説では「一票の格差」是正に傾斜せざるをえなかった。日々の社説は政治家同士の議論に影響がないわけではなく、おかしいと言い続けようという判断もある。選挙制度改革が民主主義をより機能するものにするため射程の長い議論も必要で、「日曜に想う」では問題提起をした。

 中島岳志委員 政治家の設定した枠組みに、新聞側が引きずられすぎている。一票の格差を是正するために定数削減をし、比例部分もその対象にするという政治家のロジックは成立するだろうか。定数削減が当たり前のように言われるが、本当に必要なのだろうか。日本の国会議員の数は国際的に見て必ずしも多いとは言えないが、そういったデータを示すのも新聞の役割だ。

 杉浦信之・ゼネラルエディター兼編成局長 政治取材だけでなく、専門家への濃密な取材では、記者が相手の土俵上にいることに気づかなくなることもある。選挙制度の取材については、政治取材を専門にしていない記者を含めた態勢づくりを抜本的に考えてみたい。

 中島委員 制度について論じるなら、小選挙区制とはいったい何だったのかの検証が必要だ。中選挙区制を再評価する立場の人にオピニオン面で論争してもらってもいいと思う。

 曽我豪・政治部長 ご指摘はもっともだ。制度の議論と選挙の勝敗をごっちゃにして報じ、選挙が終わると小選挙区の弊害を指摘するやり方では読者は言い訳だと感じると反省し、報道を変えてきた。今回も、参院選前に、自民の長期政権が終わり、制度の議論が始まった93年ごろから振り返った総括をしたい。

 湯浅誠委員 ぜひ、そうしてほしい。今までどういう議論があったか、そもそも制度改革を推進した人は今どう思っているのかなど、考える材料がほしい。

声欄に社説と異なる視点――斎藤委員

 斎藤美奈子委員 「一票の格差『合憲』ゼロ」(3月28日)は16判決が出そろった時点でまとめた記事で、判決内容の表もついていて分かりやすかった。

 杉浦編成局長 広島高裁で初の選挙無効判決が出た3月25日には、判決を重く受け止め号外も出した。

 斎藤委員 「抜本改革 国会に迫る」(3月27日)は一票の格差について解説し、0増5減案が出てきた理由が端的に書かれていた。こうした解説は、折に触れて載せてほしい。一連の報道では、野党がなぜ0増5減案に反対するのかが不明。投書欄「声」に載った「96条改憲より一票の格差是正を」(4月30日)は、社説とは違う視点の意見だ。社説に不満な人のためのガス抜きなのか。

 大野論説主幹 声欄もそうだが、オピニオン面では社説と別の見方を意識的に載せることになっている。「社説余滴」は、社説で取り上げなかったことのほか、論説委員が論じ合った結果に賛同できなかったときに持論を書いている。多様な視点がないと紙面に幅が出ない。

 湯浅委員 白黒付けられない問題は多く、答えが出しにくい時代だ。いろいろな意見が表に見えた方が読者の納得感は高いのではないか。

 阿部俊幸・声編集長 声欄は良質な読者に支えられている。投書の内容に、目からうろこが落ちる思いだ。東京本社版には読者から約100通の投書がある。1日に載せられるのは6~8本なので厳選して掲載している。

 中島委員 声欄といえば、出生前診断開始後に掲載された「ダウン症の娘を育てた喜び」(4月11日)は、「自分だったら」という主体的思考をうながし、きわめて説得力があった。この欄の重要性と存在意義を痛感した。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 反貧困ネットワーク事務局長。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。