朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点から議論する本年度第1回紙面審議会が5月23日、東京本社で開かれた。「選挙制度改革報道」などをテーマに、今年4月に就任した4人の新委員との間で意見を交わした。

 【2013年度第1回審議会】(2)TPP・グローバル化など

幅広い視野で企業取材を――奥委員

 斎藤委員 TPP(環太平洋経済連携協定)をめぐる報道では、全国紙の論調が足並みそろえて賛成に回っているが、地方紙などでは反対意見の方が多い。大規模な反対運動や集会があるのに、十分に報道されていない。TPPにどんなメリットがあるのか、最近の紙面からよく伝わってこない。

 大野論説主幹 社説ではTPPを支持している。TPPによって必ずしも何もかもうまくいくわけではないが、避けて通ることもできない。TPPに加わって、その中で主張を通していくべきだと考えるからだ。

 堀江隆・経済部長 TPPについては2月の連載「アベノミクスって、なに?」の「TPP編」でとりあげたが、今後もできるだけ現場に出ていって、メリット、デメリットを探っていきたい。

 中島委員 5月14日朝刊「わたしの紙面批評」で指摘したが、同3日朝刊の「座標軸/民主主義のページ 開くには」について問いたい。グローバル化に適応するための改憲なら「ためらう理由はない」の主張は自民党の改憲論を批判しているように見えるが、実はグローバル化を進めながら愛国心を持ち出し、治安維持を図ろうとする、安倍首相が考える改憲案の方向性を結果的に支持している。グローバル化が国民国家によって成り立つ民主主義の崩壊につながるというところまで切り込んでいくべきだった。

 大野論説主幹 グローバル化によって実質的に小さくなっていく国家を大きく見せるために、各地の政治指導者によってナショナリズムが唱えられてきたことは、マーガレット・サッチャー元英国首相が亡くなった時の社説「『鉄の女』逝く/そして難題が残った」(4月10日)でも書いた。そして、グローバル化する問題に、ナショナリズムが解決策をもたらせないということはこれまでにも指摘してきた。

 私は国民国家という枠組みがグローバルな問題に解決策をもたらせなかった現場をいくつも取材してきた。それを何とかしようとすれば、国民国家を土台とする民主主義をどういう形にするべきか、という大きな問題につながる。答えはわからない。欧州連合(EU)の取り組みも楽観できない。ただ、EUには問題意識はある。国民国家をなくせというのではないが、単独ではなくほかの解決策と連携する必要があるだろう。答えはわからないまでも、問いは正しく設定しておかなければいけないと思っている。

 奥委員 4月23日朝刊「ユニクロ、世界で賃金統一」について。役員、幹部正社員の人事・賃金体系を全世界で統一することは、グローバル展開を目指す企業のトップはみな考えている。すでに取り入れている外資系企業などにも、幅広い視野で取材すべきだったのではないか。ただ、柳井正会長兼社長が言いたかったのは、「頑張れば給料が上がる」ということで、記事にあるような「比較的高い日本の給与が下がる」ということではなかったと思う。

 丸石伸一・経済部次長 グローバル化と雇用の問題を考える材料を読者に提供したいと考えた。社内にはすでに激しい競争があり、新制度がさらに負担になるという声もあった。

 中島委員 柳井氏の「将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく」という発言に注目したい。グローバル化によって格差が広がっていくということに着目した点で、この記事を評価したい。

 奥委員 柳井氏への質問の中で「ブラック企業」という言葉を使っている。このごろよく目にするが、反社会的なイメージが強く、会社にとってのダメージも大きい。この言葉の使い方には気をつけた方がいい。

 湯浅委員 新聞に何を期待して読むのだろう。いま起こっていることはネットでわかる。引いたところからの視点で組み立てた論調は週刊誌や月刊誌、書籍に載っている。毎日届く新聞には、論となるまでまとまっていないまでも、「いま、こんな意見が出ているよね」といった多様な考えを求めたい。

 吉田慎一・編集担当 これからの新聞報道は問題設定のしかたが重要になってくる。説得力のある問題設定をするよう神経をとがらせて報道していくことが大切になってきた。一方で、記者の認識はパターン化しがちで、ともすれば型にはまった記事になりやすい。新聞社の中にいては気がつかないことを、委員のみなさんに外から、読者の代表として指摘していただき、今後の紙面に生かしていきたい。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 反貧困ネットワーク事務局長。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。