朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について議論する本年度第2回紙面審議会が1日、東京本社で開かれた。7月21日投開票の参議院選挙の報道を主なテーマに、読者の視点で議論をした。

 【2013年度第2回審議会】(1)参院選

ネット上の関心に応え、憲法・原発を前面に――GE兼編成局長・杉浦信之

 冒頭、杉浦信之・ゼネラルエディター(GE)兼編成局長が、今回の参院選報道を次のように説明した。
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 今回の選挙は、安倍政権発足から半年、初のネット選挙で、与党が多数を占めると予測されていた。選挙報道では政権の実績評価、選挙の後に待ち構える政策課題に重点を置いた。
 各紙の世論調査やネット上の民意を調べ、候補者の訴えと民意にずれがあることがわかっていた。経済問題は双方共通の関心事だが、憲法や原発についてはネット上では関心が高いものの、与党や候補者の主張にはぼかす動きが見られる。そこで紙面ではあえて、憲法や原発を争点として前面に打ち出した。
 初めて経験するネット選挙で、既成メディアが常識としてきた、中立性や公平性をどうしていけばいいか。だれもが瞬時に発信できるネット情報とのギャップを意識しつつ模索を続けた。また、なぜこのタイミングで報道するのか、世論調査を行うのかを読者に説明する必要性を強く感じながら紙面を作った。


「1強体制」の見出しに特徴――湯浅委員

 湯浅誠委員 選挙結果を伝えた7月22日の1面の見出しは各紙が「ねじれ解消」としたなかで、朝日新聞には「自公圧勝、衆参過半数/自民1強体制に」とあった。見出しに「ねじれ」を使わなかったところに特徴が出ていた。

 渡辺勉・編成局長補佐 今回の参院選報道では、他紙と違う紙面作りを常に心がけていた。他紙が「ねじれ解消」を見出しにすることは予想していた。しかし「ねじれ」自体が悪いわけではない。「ねじれ解消」とすると「ねじれ」が問題であるかのような印象を与えるので、「衆参過半数」とした。衆参ともに自民党が多数を占める結果となったことは「55年体制」の復活を思わせる大きな転換点にあることと考えて、「自民1強体制」をキーワードにした。

 曽我豪・政治部長 いまの自民党は反主流派もいない、安倍首相の1強体制になっている。そうした強くて危険な権力の本質をあらわすには「ねじれ解消」というだけでは弱いのではないか、ということを政治部だけでなく報道・編成局全体で議論した結果だ。

 湯浅委員 「安倍1強体制」で唯一思い通りになっていないのがマーケットだ。マーケットはどういう政治目線を持っているのか。「マーケットの政治力学」にも興味がある。

 奥正之委員 連載「公約を問う」(5日~21日)には朝日新聞の総力取材が結集されていた。全部切り抜いている。大事なことはこれからの公約の実行。しっかり検証してほしい。

 湯浅委員 論点がグラフ化されていて、頭の中の整理にもなった。毎回、担当記者の署名入りの「視点」がついていて、単純化されたグラフの欠点を補っていた。限られた紙面の中で工夫されていた。今後も続けてほしい。

記者の「視点」もっと過激に――斎藤委員

 斎藤美奈子委員 「視点」では、もっと本音を出してもよかった。実名だから遠慮したのだろうか。ツイッターでも話題になるぐらいの過激な意見が出せるなら匿名でもいい。

 渡辺編成局長補佐 政党の数が多い。各党の主張を一覧表にするだけではわかりにくいと考えてグラフ化した。担当記者にはもっと個性を前面に出して書いてもらいたかったが、全体的に主張が控えめだった。

 湯浅委員 朝日新聞デジタルの特集ページで集めた投稿をまとめた20日社会面の「#投票する?」は、棄権する人の心理と論理を知ることができてよかった。

 森北喜久馬・社会部長 有権者のほぼ半数は投票していない。投票を促す従来型の報道だけでよいのかという問題意識のもと、今回は行かない人の声を意識的に取り上げようと考えた。ツイッターを使って意見を募り、紙面とデジタル版で紹介した。944件の意見が寄せられ、うち「投票しない」は12%だった。実際の投票率とはまだまだ差があるが、行かない理由の一端は示せたと思う。このノウハウをさらに磨き、今後の選挙報道では無投票層の考えをより詳しく伝えていきたい。

 斎藤委員 21日の社説「選挙と若者/投票すれば圧力になる」は若者に呼びかけようと意識した文体にはなっていたが、「なんだ、これ」と思われそう。大人にはAKB48の総選挙がちんぷんかんぷんなのと同じで、若者は候補者や政党の政策の違いがよくわからない。

 大野博人・論説主幹 社説がどうやったら若者まで届くか、いつも悩んでいる。ご指摘のような反応があるのは予想したうえで、何らかの話題になってほしいと思った。頭の片隅に「投票しないと損する」というのが残るだけでも成功だと思って、あえてあのようにした。


第23~24期紙面審議委員


     湯浅 誠 委員
 反貧困ネットワーク事務局長。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。