朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点から議論する本年度第3回紙面審議会が10月28日、東京本社で開かれた。消費税の増税決定をめぐる報道を主なテーマに、4人の委員と話し合った。

 【2013年度第3回審議会】(1)消費税

「増税必要」ぶれぬ姿勢評価――奥委員

 奥正之委員 2007年10月19日朝刊の社説「消費増税/真正面から議論せよ」や同年12月9日朝刊の社説「希望社会への提言7」で「消費増税なしに安心は買えぬ」と論じて以降、一貫して「消費増税が必要」と主張してきた朝日新聞のぶれない姿勢を評価したい。

 杉浦信之・ゼネラルエディター兼編成局長 消費税の引き上げは野田政権時代に決まったことだが、安倍政権になって本当に増税するのか注目してきた。他メディアが「増税決断へ」と前のめりに伝えるなか、朝日新聞は政権中枢への取材を積み重ね、正確かつ慎重に紙面化した。

 斎藤美奈子委員 増税に対する批判が生ぬるい。当初標榜(ひょうぼう)していた福祉目的から逸脱している、という観点からもっと鋭い批判があってもよかった。

 杉浦編成局長 野田政権では財政再建と社会保障という目的がはっきりしていたが、安倍政権になって企業中心の減税を打ち出してきた。こうした変質の過程を明らかにしていくことに力を入れてきたつもりだ。

 奥委員 昨年8月には、消費増税の是非について論説委員と経済部デスクが議論する記事や、記事と社説との整合性を解説する記事もあった。消費増税の引き上げが決まった際も、社内にはいろいろな意見があったと思う。再度、社内の議論を読者に見せるという工夫も考えられたのではないか。

 杉浦編成局長 「社内の多様な意見を取り上げる試みはTPP(環太平洋経済連携協定)をめぐっても紙面化した。消費増税でも改めて検討している。

 斎藤委員 10月2日朝刊の「消費税8% お財布直撃/家計簿を味方に/わが家の影響は」などは増税の影響を詳しく書いてあったが、こうした記事はいつも決まってから載る。決定前なら、賛成か反対かの判断材料にもなる。「もう決まっちゃったんだから、その範囲でなんとかやろうぜ」式の発想が感じられてちょっとイヤかな。

 堀江隆・経済部長 これまでも節目には家計への影響を書いてきた。これがゴールではなくスタートだと考えている。生活者の視点を忘れずに、これからもしっかりと見ていく。

 湯浅誠委員 「増税の先に」(10月2~4日朝刊)や「教えて!消費税」の連載(昨年3月27日から)など全体として詳細で多角的だった点を評価したい。一方でこれだけ大きなテーマなので、4ページをぶち抜くくらいの「総力特集」があってもよかった。時事的な報道も大事だが、この先どうなるのか、半歩リードする議論が必要だ。

 杉浦編成局長 総覧性に加え、見せ方や扱いの大きさで重要だと伝えられるのは新聞だけ。テレビやインターネットにはまねができない。消費税に限らず、適切なタイミングで特集を紙面化していく。

 湯浅委員 軽減税率をめぐる議論も大事だ。「公共性とは何か」が大きなテーマになってくる。「給付付き税額控除」のような複雑な内容も繰り返し書いてほしい。

財政の安定、税制全体で描く――中島委員

 奥委員 10月7日朝刊1面に「首相判断『評価』51%」という世論調査結果が載った。9月の世論調査では予定通り引き上げることに賛成が39%、反対が52%となっていたが、安倍晋三首相の引き上げ判断後は逆転しているようだ。記事では論評がなく事実のみを伝えているが、どういう層が賛成に回ったのか。結果をどう見たらいいのか、解説などがほしかった。

 堀江浩・世論調査部長 10月の調査で再来年10月に消費税を10%に引き上げることには、反対は63%で賛成の24%を大きく上回った。引き上げへの反対が少なくなったわけではない。今回「評価する」と答えた中には「安倍内閣を支持するから」という人もいれば、「8%ならいい」という人もいただろう。分析までできなかったことは今後の課題としたい。

 中島岳志委員 10月2日の社説「17年ぶり消費増税/目的を見失ってはならぬ」は、財政再建と社会保障を持続可能なものにするために増税はやむを得ない、と主張した。これは妥当だと思う。ただ、この社説全体では、やや総花的な印象があった。国の財政の安定性と持続性のためにどういう税制が必要なのか、税制の全体像の中で消費税の議論を深めてもらいたい。

 大野博人・論説主幹 日本は膨大な借金を抱えていて、民意ではなく借金が社会の行方を決める状態になっている。消費税だけでなく税全体の問題だという認識は理解している。

  中島委員 10月9日朝刊「声」欄に載った「『身を切る=定数削減』は誤り」は、消費増税との抱き合わせを問題視した、非常に重要な指摘だった。議員定数の確保は国民主権を担保するうえで重要な意味を持つ。安倍内閣の「官邸主導」のあり方を含めて、日本の民主制を問い直す必要があるのではないか。

 曽我豪・政治部長 ともすれば政治家をたたけばいい、という風潮が世の中にあるが、司法、立法、行政の三権の中で我々が直接主権を行使できるのは立法(議員)に対してだけだ。安易な定数削減論は、民主主義を損なう危険があると思う。

  吉田慎一・編集担当 消費増税をはじめ、いま、国や社会の構造が揺れている。どういう社会を作るかを示すのが、この時代の新聞の使命だ。これを頭におきながら、腰を据えて問題を整理する紙面づくりをしたい。速報を24時間流し情報の「フロー」を作ることは、デジタル時代に欠かせないが、新聞はいわば情報の「ストック」で、全体を深く考える材料の提供や分析に適している。特集と企画で総合的に伝えたい。また、私たちの強みは、現場に立ちその事実を伝えられること。感情や観念におぼれることなく、意識的に取り組んでいきたい。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。 08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。