朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について議論する本年度第4回紙面審議会が2月24日、東京本社で開かれた。「特定秘密保護法をめぐる報道」や「教育報道」などをテーマに、読者の視点から意見を交わした。

 【2013年度第4回審議会】(1)特定秘密保護法

修正案示す方法もあった――奥委員

 中島岳志委員 報道の内容は大変よかったと思うが、タイミングには問題があった。例えば「秘密保護法案/条文解説ここが問題」(11月29日~12月7日朝刊)は、衆議院の特別委員会で強行採決される11月26日より前に載っていれば世論が喚起できたのではないか。

 杉浦信之・ゼネラルエディター兼編成局長 秘密法案は概要が明らかになった9月上旬の時点では、昨年中の成立は難しいと思っていた。ところが公明党が「知る権利」の問題で譲歩したり、野党の一部が賛成に回ったりしたことで、成立に向けて急に動き出した。この法案は多くの問題を含んでいる。展開が急になり、廃案を求める構えをより明確にする必要があった。

 早めに問題点を指摘すること。そして頑張ったけどダメだった、で終わらせないこと。「後の祭り」の報道にならないようにということを常に思っている。

 奥正之委員 特定秘密保護法と国家安全保障会議(日本版NSC)は国の安全保障戦略上、車の両輪のような関係だと思う。昨年10月までは「米『日本は秘密守る法律弱い』」(10月6日朝刊1面)のような、安保関連情報の収集活動における秘密保護の必要性について触れた記事があり、秘密法の是非については客観的に書かれていた。

 ところが、衆議院本会議で秘密法案の審議入りを伝えた11月8日朝刊1面に突然、「社会に不安 廃案にせよ」という論説主幹の署名記事が載った。

 この法案の曖昧(あいまい)な点や、臨時国会の衆参両院で強行採決した運営には、疑問がないとは言えない。しかし、日本を取り巻く厳しい国際情勢を顧みれば、拙速と言ってばかりいられないことも事実だ。機密情報の保護と安全保障の関係や、諸外国における表現の自由との関係に触れながら、建設的に修正案を提示する方向性もあったと思うがどうだろうか。

 大野博人・論説主幹 日本版NSCと秘密法との関係は、昨年6月9日の社説「日本版NSC/器をまねるだけでは」でも論じた。そこでは日本版NSCを否定しているわけではない。秘密法については、国民の知る権利や取材の自由に抵触しないよう、徹底した議論が必要だと主張した。

 秘密法にたいしては「秘密についての秘密が問題」というスタンスだ。

 「秘密」とされた時点で、あるいは後になって誰がチェックするかが担保されていないところに問題があるまま、安倍晋三首相は我々が考える以上に法の成立を急いでいた。ものすごいスピードで進めていった。11月8日の記事は、そういう流れのなかにある。

 奥委員 12月20日朝刊オピニオン面にあった憲法学者の長谷部恭男さんのインタビュー「秘密法とどう向き合う」は、客観的に物事を見る上でよくまとまっていた。1月19日の長谷部さんと法政大教授の杉田敦さんの対談も内容の深い記事だった。

 中島委員 長谷部さんと杉田さんの対談は有意義だった。「条文のあいまいさ」をめぐる対立は、問題のポイントをあぶり出していた。

記者の肉声、続けて――斎藤委員

 杉浦編成局長 ご指摘の記事にはたいへん反響があった。とくに対談は、秘密法を通じて民主主義全体を考えるということが主要テーマだ。日本版NSCや集団的自衛権、周辺国との関係など大きな枠組みの中でいま、何が起きているかを伝えていきたいと考えている。

 湯浅誠委員 安倍首相は次の国政選挙のしばらく前までは、この調子で進めていくだろう。法案が成立した後もどこまで手厚く追い続けるかの試金石になっている。振り上げた拳のもっていき方に注目している。この先1~2年は大事になる。

 斎藤美奈子委員 国会記事に付いていた「担当記者はこう見た」は記者の肉声が伝わり、国会審議の裏側が垣間見られて、毎日楽しみに読んでいた。この手法は続けてほしい。

 立松朗・政治部長 政治記者はこれまで、自分の目線で考え、記事を書くことが少なかった。記者が自分の言葉で伝えるいい機会になった。これからも続けたい。

 吉田慎一・編集担当 安倍政権がどういう事情で、批判が多かったこの秘密法の成立を急いだのかなど、これからでも解明すべき点は多い。法の施行に向け動きが続くので引き続き課題としたい。一方で、政治の世界では「選挙で選ばれた」ことをてこに、従来型のやり方を一挙に改めたり、変えていいのだと主張したりするなど、「選挙」万能論が勢いづいているように見える。日本の行き詰まり打開への期待を背景にしているのだろうが、個々の政策の是非とは別に、こうした手法や主張そのものも、報道や分析の対象にしていかなければならない。


第23~24期紙面審議委員


     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。 08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。