朝日新聞紙面審議会

 読者の視点から朝日新聞の紙面について議論する本年度第1回紙面審議会が16日、東京本社で開かれた。集団的自衛権やSTAP細胞などをめぐる報道について、4人の委員との間で意見を交わした。

 【2014年度第1回審議会】(2)STAP細胞

STAP細胞 科学の「商業化」現状を示せ――湯浅委員

 斎藤委員 当初の、はしゃぎすぎた報道は何だったんだろう。

 桑山朗人・科学医療部長 発表当初、どの程度で扱うかを検討したとき、「STAP細胞」の作製成功が本当ならば極めて価値が高いと判断した。彗星(すいせい)のごとく現れた若い女性研究者が夢中になって研究した結果ということにも衝撃を受けた。分かりにくい内容をかみ砕いて説明しようとしたことや、研究者の人となりも伝えるべきだと考えた。結果として大きな扱いになった。

 斎藤委員 科学医療部長が「取材重ね 検証していきます」(3月15日朝刊)で「発表段階で論文の問題点を見抜けませんでした」と反省の弁を書いていた。でも「見抜く」のは現実には不可能だろう。全面的に正しいと言える段階までには時間がかかるかもしれず、どのタイミングで何を報じるかを改めて考え直さなければならないと思う。

 桑山科学医療部長 「見抜く」ことはできないと、知人の研究者にも指摘された。ここで教訓として伝えたかったのは、全部うのみにしていいのかという反省だ。まだ未熟なマウスでの研究成果で、今後の研究の積み重ねが必要なことも考えれば、もう少し慎重な扱いにすることはできた。当初、どのような経緯で判断し、報じたかを早めに読者に伝えることが必要だと考えて掲載した。

 奥委員 斎藤委員が指摘された反省の記事に加え、桑山部長が紙面モニターの声に答えて、興味本位からの報道とは一線を画する姿勢を強調した(4月27日朝刊)のが印象に残る。

 中島委員 事実とは何だろう。「耕論 消費される物語」(4月22日朝刊)で高村薫さんが指摘したように、人間は本質的に「物語る動物」だ。何かを書くということは何かを切り落とすことと同じであり、恣意(しい)性に対する自覚と節度が必要だ。どこまで踏み込んで書くのか、どこに線を引くのか。「メディアと物語」について新聞は主体的に考えていってほしい。

 湯浅委員 「ネイチャー」が権威付け、山中伸弥さんのノーベル賞受賞の記憶も新しい発表時点で、商業紙である朝日新聞が「まだ確定できていない」などと書く選択肢があり得たろうか。「耕論 STAP 逆風の科学界」(4月15日朝刊)で、東北大の大隅典子さんが生命科学は実利に直結し「科学の商業化」が科学の健全性を損ねていると指摘していた。研究機関も報道機関も先を急がざるを得ない現状があるということを読者に提示することが必要だろう。

 桑山科学医療部長 大学の研究者は成果主義、競争原理のもと、すぐ答えが出る研究でないと評価されないのではないかと感じている。そうした実態について取材を進めている。できるだけ具体的な事例に迫りながら、研究体制のあり方やどこまで規制すべきかなどを報じたい。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。