朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞は8月5日朝刊で、慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言に基づく記事について取り消しましたが、謝罪の言葉がなかったことや訂正が遅きに失したことについて多くの批判を受けました。この記事について論評したジャーナリスト、池上彰さんの連載コラムでは、掲載を一時見合わせるという誤った判断をしました。また、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した吉田昌郎(まさお)所長(当時)に対する「聴取結果書」(吉田調書)についての5月20日の記事についても取り消し、関係者に謝罪しました。朝日新聞は19日、東京本社で開いた紙面審議会で、一連の問題について4人の委員から批判や提言を聞きました。

 【2014年度第2回審議会】本紙へ批判や提言

さらけ出した自分への甘さ/読者と語り合え――湯浅誠委員

 慰安婦問題も吉田調書報道についても、謝罪すべきだったし、しかも遅きに失したと思う。

 これまで朝日新聞は、政府や企業の不祥事に対してそれを求めてきた。ところが自分の問題については甘く、きちんと対応できないことをさらけだしてしまった。朝日新聞は「他人に対する厳しさを、自分には当てはめていない」と、多くの人々が受け止めたと思う。それが、通常よりも今回のダメージを大きくしている。池上さんのコラムへの対応は、火に油を注ぐことになった。

 謝罪が遅れた背景には、慰安婦問題にしろ原発問題にしろ、政府が強硬な姿勢をとっていることに対しては、弱みを見せられないといったものがあったと思う。

 この線で行けるはずだと考えたのだろうが、当初の予想より、世論や他のジャーナリズムからの批判をふくめて、風当たりが強かったので、その結果、これは持たないと判断し、9月11日の社長による謝罪会見になったと推測する。持ちこたえられなかったのは、朝日新聞を取り巻く全体状況を読み誤ったということだ。

 たとえば、吉田調書問題では、「外形的な事実に誤りはない」などとしていたのに、最後は全面的に取り消した(9月12日朝刊)。なぜ、そういうことになったのか。色んな議論があっただろう。その論理的、心理的プロセスをかかわった一人ひとりが検証し、具体的に共有することが、同じことを繰り返さないために大事だ。

 9月18日の読者の声の特集記事(朝刊3面)はよかった。その中に、朝日新聞を改革するには、紙面審議会や第三者委員会もあるだろうが、「市民の声もっと謙虚に聴いて」というのがあった。この声に私は共感する。読者と触れ合い、もっともっと、その声を聞いてほしい。

 一般の読者にとっては、朝日新聞の本社幹部の人たちは、かなり遠い存在だと思う。ふつうなら会えない。

 タウンミーティングのような形で、幹部の側から出向いて行って、全国各地の読者と語り合う「読者ミーティング」のような催しをやってもいいのではないか。一人一人の読者の声を拾い上げる姿勢を示すのが、きわめて大事だと思う。

 今後の報道については、ひるんではいけない。ただし、現実的には、今やるべきことと、時機を見てやるべきことを整理する必要はあるだろう。ある種のしたたかさはいると思う。

 信頼回復に力をそそぐ「信頼回復集中期間」のようなものを明確に設定するのもひとつの手法だと思う。たとえば、2020年の東京五輪までの6年ぐらいにする。段階的、時期的にメリハリを付けて信頼回復をしていってほしい。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。