朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞は8月5日朝刊で、慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言に基づく記事について取り消しましたが、謝罪の言葉がなかったことや訂正が遅きに失したことについて多くの批判を受けました。この記事について論評したジャーナリスト、池上彰さんの連載コラムでは、掲載を一時見合わせるという誤った判断をしました。また、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した吉田昌郎(まさお)所長(当時)に対する「聴取結果書」(吉田調書)についての5月20日の記事についても取り消し、関係者に謝罪しました。朝日新聞は19日、東京本社で開いた紙面審議会で、一連の問題について4人の委員から批判や提言を聞きました。

 【2014年度第2回審議会】本紙へ批判や提言

ご指摘を受け止め、再生へ歩みます――編集担当兼報道局長・西村陽一

 「負の遺産を処理した後は原点に立ち返れ」「自らの問題について甘くはなかったか」といった数々のご指摘を重く受け止めました。議論をお聞きしながら、ジャーナリズムの原点と役割は何か、ということを改めて考えました。私たちの報道の手法や体質が、目の前の事実に対して、そして読者の皆様に対して、徹底的に謙虚であれ、という大原則からどうして離れてしまったのか、と何度も自問しました。

 私たちはこれから、報道と人権委員会の審理や有識者による第三者委員会の検証の結果、信頼回復と再生のための委員会の議論や提言を順次報告していきます。その過程では、「開かれたメディア」の基本を踏まえ、多様な声に耳を傾けながら、失われた信頼を取り戻してまいりたいと考えています。再生を目指す道のりは長く苦しいものになると覚悟しています。しかし、「萎縮の連鎖」を起こすことなく、そしてジャーナリズムの役割と規範においては妥協することなく、一丸となって取り組んでまいりたいと思います。

一連の問題をめぐる経緯

 朝日新聞は過去の自社の慰安婦報道を点検し、吉田清治氏(故人)の慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だったと判断しました。8月5日朝刊1面に杉浦信之・編集担当(当時)の「裏付け取材が不十分だった点は反省します」と釈明する論文を載せ、特集記事「慰安婦問題を考える」の中で、関係する16本の記事を取り消しました。

 ジャーナリスト、池上彰さんは8月29日朝刊に掲載予定のコラム「新聞ななめ読み」でこの問題を取り上げました。朝日新聞社は一時掲載を見合わせましたが、9月4日の紙面で、読者や池上さんへのおわび記事とあわせて「慰安婦報道検証/訂正、遅きに失したのでは」の見出しでコラムを載せました。

 朝日新聞は政府が非公開としていた「吉田調書」を入手し、5月20日朝刊で「東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じました。しかし、吉田所長の発言を聞いていない所員もいて、「命令に違反し撤退」は誤りでした。9月11日、木村伊量社長が記者会見を開いて記事を取り消し、読者と東京電力の関係者に謝罪しました。吉田清治氏の関連記事の取り消しが遅きに失したことについても謝罪しました。

 今後、慰安婦報道は有識者による第三者委員会で、「吉田調書」報道は報道と人権委員会(PRC)でそれぞれ検証を進めていきます。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。