朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)が、東京電力福島第一原発元所長の吉田昌郎(まさお)氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書(吉田調書)をめぐる本紙の報道について見解をまとめた。11月25日、東京本社で開かれた本年度第3回紙面審議会では、吉田調書報道の問題について4人の委員から改めて意見や提言を聞いた。さらに朝日新聞は多様な意見を取り上げているか、女性に関する報道はどうか、についても議論した。

【2014年度第3回審議会】(2)多様な意見の掲載

記者が紙面で論じ合って――湯浅委員

 湯浅誠委員 組織内で、個々のグループには最悪の結果をもたらした責任は相手にあるという気持ちが残ることがある。「吉田調書」の当事者である特別報道部員と他の部員に「しこり」が生まれれば次の火種になる。第一に、振り返りと内部の関係性の修復が必要だ。

 「信頼回復と再生のための委員会」の社外委員で、日産自動車副会長の志賀俊之さんが、同社再生のため、部門横断的に中堅・若手を集めたチームを作って議論し、提案を経営陣に直接届け、改革案をつくったと発言していた(11月4日朝刊)。私の考えもそれに近い。個々のグループ、個人がそれぞれの判断を絶対視せず、結果に対する共同責任を自覚し、横に並んで論理的、倫理的プロセスをともに検証するべきだと思う。

 夏原一郎・特別報道部長 いまは自然な形で改革案を論じ合っており、「しこり」はないように思う。他部の目を入れて記事について議論することは現在も大型企画などではやっているが、日常的にも可能な限り採り入れていきたい。機密性が高い内容を論じ合うことで鮮度が落ちてしまう側面もあるが、筆者、デスクに、専門性が高い記者を入れ、その記事に異なった見方を持つ記者もあえて加えるといったチーム編成のあり方を検討している。

 都内の高齢者マンションで行われていた「拘束介護」を特報した(11月9日朝刊)際は、介護に関わる問題のため、経済部や文化くらし報道部のデスクもまじえて輪読した。じかに批判を浴びることで記事化へのハードルが高くはなったが、部員たちもいいことと受け入れている。

 湯浅委員 グループでの話し合いには時間を捻出しなければならない。忙しすぎる日常に無理やり議論を持ち込んでも、現実には機能しない可能性がある。働き方とセットで考える必要がある。

 長編成局長 共通認識をもつための対話には時間が必要で、ボトムアップにも相当時間がかかる。じっくりやっていくしかないと考えている。

 湯浅委員 共通認識をつくることは重要だが、管理監督によるガバナンス強化は避けられないだろう。他方、社としてのスタンスを末端まで行き渡らせようとすれば、多様性に対して寛容な朝日の「良さ」が失われる。新聞には社会の多様性を反映して、時に相互に矛盾する見解も取り上げて世論の広がりを示すプラットホーム(土台)としての機能もある。それがガバナンス強化の下で忖度(そんたく)され、萎縮することを恐れる。

 そこで二つめの提案だが、多様性という問題を意識だけでなく、紙面という形で示してほしい。例えばオピニオン面の「耕論」は社外の三者三様の意見を載せているが、朝日の記者3人が論じ合って見解の相違を表に出すのも有効ではないか。

 市村友一・オピニオン編集長 消費税率を8%にするさい、社内に対立する意見があった。論説委員と経済部次長が論じ合い、大きく掲載したことがある。当時、社説は賛成、一般記事は批判的なトーンが強く、「朝日の立場はどっちなんだ」という読者の声に応えたものでもある。記者3人が意見を戦わせるというご提案については課題とさせていただきたい。

 長編成局長 例えば新聞週間には鳥越俊太郎さんと記者たちの討論や、読者の投稿「声」とそれに対する編集幹部や記者たちの答えを掲載した(10月15日朝刊)。読者との対話は継続的に紙面化していきたい。対論など多様な意見の紹介はオピニオン面だけではなく、他の面にも広げていきたい。

 斎藤委員 新聞週間特集で、読者の投稿18本を見開きで展開したことに賛同する。100人ぐらいの読者や社員の意見を顔写真付きで並べるような、「一緒に考えようよ」という雰囲気を作り出す紙面があってもいい。

 中島委員 多様な意見を取り上げるといってもAかBかの両論併記は議論だとは考えない。特定秘密法などをめぐる杉田敦さん、長谷部恭男さんの対談が面白かったのは、相手の論を聞いて考えが揺れる場面があり、両氏の議論が交わることで間にある多様性が読み取れるからだ。

 西村編集担当 皆様のご指摘は、PRCや第三者委員会の見解や提言ともあわせ、いま全社で進めている「信頼回復と再生」のプラン作りに生かしてまいりたい。危機管理やチェック体制も含めた分野の強化、権力を監視し多様性を打ち出す開かれたメディアの強化。この二つの両立を考えている。自由闊達(かったつ)な議論を重んじたはずの社風がどこで沈んだのか、多様な意見を尊重する紙面と気風をつくるうえでの一人一人の意識改革はどうあるべきか、現場の力と同時に部長やデスクなどのミドル層をいかに強めるかも課題だ。

 東京と大阪で「車座集会」を開き、長年の読者の皆様に加えて、残念ながら今回の事態で購読を止められた方々の厳しいご意見もうかがった。こうした対話の試みはこれから常設化するが、編集の現場では「ミニ車座集会」「購読を止めたご家庭の訪問」「若手記者主導の販売店対話」といった自発的な動きが各地で出ており、ささやかながら変化の芽が生まれているのかなという印象を持っている。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。