朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)が、東京電力福島第一原発元所長の吉田昌郎(まさお)氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書(吉田調書)をめぐる本紙の報道について見解をまとめた。11月25日、東京本社で開かれた本年度第3回紙面審議会では、吉田調書報道の問題について4人の委員から改めて意見や提言を聞いた。さらに朝日新聞は多様な意見を取り上げているか、女性に関する報道はどうか、についても議論した。

【2014年度第3回審議会】(3)女性に関する報道

選挙戦、女性政策も報道を――斎藤委員

 斎藤委員 「女が生きる 男が生きる」などの大型企画はとてもおもしろい。問題意識の立て方自体は20年前からあったが、新聞になかなか取り上げられることがなかった。安倍政権の女性政策について「女性が輝く社会」というキャッチフレーズの化けの皮をはがす必要があると思うが、核心に迫った指摘がなかなかできない。

 「男女平等、日本104位 議員・企業幹部、低い女性比率 世界経済フォーラム」(10月28日3面)は過去最大級の扱いで、いい。クオータ制や夫婦別姓など、選挙戦で各政党がどのような女性政策を出してくるのかきちんと報道してほしい。

 秋山訓子・政治部次長 取材チームの調整役をしている。「女が生きる 男が生きる」の目的は女性、男性の視点から社会の問題を切り取ることだ。安倍晋三首相が「女性が輝く社会」を掲げるのは「うれしいが、でも……」、男性も女性も生きづらい社会なのでは、という問題意識から始めた。デスクは原則として自分の専門外の分野を担当し、取材チームは部を超えて、できるだけ男女同数で構成した。

 第1シリーズでは理化学研究所の小保方晴子さんが、なぜあれほど人々を引きつけたかを、まず取り上げた。約200通のメールが届いた。第2シリーズの女性の「貧困」はツイッター4千、第5シリーズの「LGBT」は当事者や家族の反響が大きかった。「1面の記事にしてくれてありがとう」と、思いを真剣に書かれた反響が多く、何のために記事を書いているのか、と改めて考えさせられた。

 奥委員 一連の記事は、政府が推進しようとしている政策や課題を国内、海外も幅広く取材し、大変いい企画だと思う。さらに現実と向き合い、どういう選択肢があるか報道してほしい。

 秋山次長 女性政策については、選挙報道の中でも扱う。朝日新聞も男性が多い組織だが、女性問題への関心が高まってきている。安倍首相が「女性」を取り上げたことに批判もある。でも、社会の関心を引くし、「好機」ととらえて、応援、批判も含めて色々な形で取り組んでいきたい。

 奥委員 「妊娠で降格 違法判断」(10月24日1面)は最高裁の判断だけでなく、マタニティー・ハラスメントに対する問題意識を広く社会に訴えられたのではないか。ただ、「マタハラ」と短縮して広めないでほしい。漢字にするか正確に使うか。新聞は言葉を大事にしてほしい。

 原真人・GE補佐 議論になった。「マタハラ」を見出しには使わないことにした。

 湯浅委員 この企画は切り口が多様でいい。男女の制服を交換して着る「セクスチェンジ・デー」の記事は衝撃的だった。山梨の県立高校と聞くと、ともすると保守的な印象を持つが、軽々と縛りを超えて行くんだなと感慨をもった。自分の古さも感じて、興味深かった。

 中島委員 「安倍内閣の女性活用政策には何か、モヤモヤしたものがある」と、斎藤委員の指摘を受け止めた。10月9日朝刊の記事「女性閣僚の『矛盾』追及 選択的夫婦別姓 共働き」で指摘した矛盾。この本質的な問題をもっと掘り下げるといい。安倍内閣の女性政策は男性社会を加速させる逆説がある。記事にある自民党の女性たちは男性社会に男以上に過剰適応することで地位を得た人たちだ。過剰適応した人たちは、どうしても根源的な矛盾にぶつかる。

 安倍内閣の母性中心のイデオロギーと女性活用政策には本質的な矛盾があり、男性原理社会を拡大し、出てくる矛盾を踏みつぶす。ここに安倍内閣の女性活用問題のモヤモヤがある。女性問題というが、大半は男性問題だ。

 秋山次長 全く同感だ。女性問題は男性問題であり、「家族と安倍内閣」の問題意識はずっと持っている。企画でいつかやりたいと準備している。モヤモヤしたことを言語化して取り上げるのが新聞の使命で、私たちの役割だと思う。安倍政権では特に必要とされていることだと思う。

◆企画「女が生きる 男が生きる」

〈第1シリーズ〉 「隠れた意識」(7月9日朝刊~10日朝刊)
 女性の社会進出を阻んできた私たち自身の意識に迫った。初回は「小保方晴子さん騒動」から。

〈第2シリーズ〉 「そこにある貧困」(7月26日朝刊~27日朝刊)
 シングルマザーや独身女性の貧困の実態など経済問題と差別について考えた。

〈第3シリーズ〉 「分断の1985年」(8月2日朝刊~3日朝刊)
 男女雇用機会均等法が成立した85年。労働者派遣法と年金の第3号被保険者制度もできた。女性たちは、生きやすくなったのか。

〈第4シリーズ〉 「欧米の模索」(9月7日朝刊~8日朝刊)
 どうすれば女性議員は増えるのか。欧米の模索から考える。

〈第5シリーズ〉 「らしさって?」(11月2日朝刊~3日朝刊)
 知らず知らず「男/女らしさ」を意識する。らしさって何だろう? ありのままに生きることを何が阻んでいるのか。


《LGBT》 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の総称で頭文字をとっている。電通総研が国内の成人約7万人を対象にした調査では5.2%。国や人種に関係なく、人口の5%程度とされる。


第23~24期紙面審議委員


     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。