朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について議論する本年度第4回紙面審議会が2月24日、東京本社で開かれた。過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件やフランスの連続テロ事件をめぐる報道、戦後70年の連載などをテーマに、読者の視点から意見を交わした。

【2014年度第4回審議会】(1)日本人人質事件

他紙と比較して慎重な表現――中島委員

 長典俊・ゼネラルエディター(GE)兼編成局長 ISによる人質事件に対する朝日新聞の構えについて、私から説明したい。まず第一に、ISという理不尽な集団がなぜ生まれたのか。歴史的なことをふまえて探り、実態を伝えていきたい。第二に、日本の中東政策や安全保障政策にこの事件がどのように関係していくのか、政策を検証し、監視していきたい。この事件を検証し、しっかり伝えていく。日本とヨルダンの両国政府がどのような意思決定をし、どのように対応していったのか。そこから、今後の中東政策や安全保障政策につながるものが見えてくるし、ISがなぜ生まれたのかもわかってくるだろう。ISの問題は現在進行形で続いており、未来を大きく左右するものだと考えている。

 中島岳志委員 きょう(2月24日)の朝刊に載った検証記事を、毎日新聞の検証(8日朝刊)と比較してみた。毎日はフリージャーナリストの後藤健二さんとサジダ・リシャウィ死刑囚との交換交渉が「成立目前だった可能性が浮上」と書くなど、かなり踏み込んだ表現が目立っていた。一方朝日では「真偽は不明だ」といった慎重な表現が多かった。

 石合力・国際報道部長 IS内部に関しては様々な情報があり、当事者の語ったことが必ずしも事実ではない。きょうの検証紙面で書いたように、リシャウィ死刑囚の国選弁護人と刑務所の治安責任者や治安部隊の広報責任者の証言には食い違いがみられた。裏付け取材が重要で、知っていても記事にしなかったことは多い。朝日は継続的にイラクの有力部族長との付き合いがあり、ヨルダンのイスラム指導者アブムハンマド・マクデシ氏への取材も重視した。

 中島委員 朝日の検証を読むと、早期の段階で実際に動いていたのは民間の危機管理コンサルタント会社で、日本政府は、当事者として交渉していなかった。責任は外部化し、権限だけ国家に集中させるといった構図が如実に表れている。日本は在外大使館の機能も弱い。国家安全保障会議(日本版NSC)は機能したのか。

 立松朗・政治部長 日本政府の対応は、2人殺害予告の映像を確認した1月20日を境に大きく変わった。20日以前は人質の家族との関係、20日以後は他国との関係が検証の主な対象になった。20日以降はNSCは一定の役割を果たしたが、全体としての評価はまだ検証しきれていないのが実情だ。

考え方違う人の意見、興味深い――湯浅委員

 湯浅誠委員 様々な論者の意見をかなり幅広く集めていた。元外務省参事官の宮家邦彦さんや平和・安全保障研究所理事長の西原正さんらの意見は、私と異なるところもあったが、興味深く読んだ。

 市村友一・オピニオン編集長 事件の背景や今後のあるべき姿をめぐって、専門家や取材経験のあるジャーナリスト、海外の有識者など幅広い論考を掲載した。メディア報道のあり方を含めて様々な意見を載せるよう心がけた。

 湯浅委員 2月3日の社説「人質事件と日本外交/平和国家の構えを崩すな」から朝日の立ち位置もわかったが、できればもう少し突っ込んで、具体的な提言まで示せば朝日の立場を強く出せただろう。

 大野博人・論説主幹 この社説だけでは不十分で、もっと展開しなくてはいけないと思っている。テロ対策では、もっとほかにやらなければいけないことがあるはずだ。安倍政権は「積極的平和主義」を掲げている。しかし、世界でおびただしい数の難民が出ているのに、日本は申請者の中のごくわずかしか認めない。2013年に認定したのは6人だけだ。中東で人道支援だといって資金提供をしているが、結局この問題をカネで解決しようとするだけでいいのか。ISの一つの原因となったイラク戦争で日本は側面的に関与しており、その責任も追及していかなければいけないと思っている。

 斎藤美奈子委員 主として見出しの問題だと思うが、新聞が政府の代弁をしている「政府広報」のように見えるときがある。内容はそうではないが、多くの読者は、記事をすみずみまで読むわけではないから、見出しの印象に左右されるだろう。

 中村うらら・編集センター長 見出しの付け方は常に試行錯誤を繰り返している。記事の書き方によって見出しも変わってくる。紙面を編集する立場から、事実に対して多様な見方を示す記事の出稿も提案していきたい。

 奥正之委員 私の印象だが、日本人の多くは意識面で中東をヨーロッパより遠くに感じていると思う。2月3日朝刊の「『イスラム国』どこから来たか」は、事件前に企画された国際シンポジウムのまとめだったが、読者の関心や疑問点に応えたタイムリーな内容だった。

 石合国際報道部長 中東への意識が遠いというご指摘には、中東取材を続けてきた者として複雑な思いだ。中東は湾岸戦争や9・11のような時しか注目されなかったが、2013年のアルジェリアでの邦人人質事件のころから、中東の混乱が身近な現実になっている。そもそも中東やイスラムのことが分からないという読者も多い。人質事件を報じるだけでなく、背景にあるシリア内戦やISの実態を伝えていくことも大切だ。その観点から、事件とは直接関係ないシリア北部にも記者を入れた。

人質事件をめぐるおもな動き
2014年
8月16日湯川遥菜さんがシリアで拘束され、日本政府が現地対策本部をヨルダン・アンマンに設置
10月下旬後藤健二さんがシリアで行方不明に
11月下旬IS関係者から後藤さんの妻に「夫を拘束」という最初のメール
2015年
1月17日安倍首相がカイロで2億ドルの人道支援を表明
  20日ISが邦人2人の殺害予告と身代金2億ドルを要求する映像を日本政府が確認
  24日ISが湯川さんを殺害したとする画像を公開
 2月1日後藤さんが殺害されたとみられる映像をISが公開
   4日カサースベ中尉が殺害される映像をISが公開。ヨルダン政府がリシャウィ死刑囚の死刑を執行

第23~24期紙面審議委員


     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。