朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について議論する本年度第4回紙面審議会が2月24日、東京本社で開かれた。過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件やフランスの連続テロ事件をめぐる報道、戦後70年の連載などをテーマに、読者の視点から意見を交わした。

【2014年度第4回審議会】(2)仏紙襲撃

「風刺される側」へも目配り――斎藤委員

 中島委員 この事件をきっかけに表現の自由の「境界線」を考えるのはとても重要な作業だ。そこには明確な基準はなく、何が侮蔑表現にあたるのか、どこまで表現がきつくなると侮蔑になるかの区分は極めて個人的で主観的だからだ。さらに個人かどうかでも話は異なる。シャルリー・エブドの「風刺」は限りなくヘイトスピーチに近いと思う。朝日新聞がムハンマド風刺画を掲載しないという判断をしたことを評価したい。

 長GE 表現の自由は最大限に尊重するが、特定の宗教や民族への侮蔑を含む表現かどうか、公序良俗に著しく反する表現かどうかなどを踏まえ、その都度判断している。

 斎藤委員 「わたしの紙面批評」(2月10日オピニオン面)で書いたが、朝日の論調は「描く側の論理」オンリーから「描かれる側の論理」へも目配りする方向へと変化していった。

 大野論説主幹 「描かれる側の論理」が頭になかったわけではなかったが、最初の社説ではテロを明確に非難することにした。もう少し早く描かれる側に目配りできなかったかについては少し反省している。一方で、この問題ではメディアはオブザーバーではいられずプレーヤーになる。1月19日の社説「表現と冒涜(ぼうとく)、境界を越える想像力を」では、だれに向けての表現なのかという意味で、「宛先」という言葉を使った。表現者が意図した宛先の枠内では問題のない内容でも、グローバル化時代には自分が思っていない宛先に届き、別の取られ方をすると書いた。また、置かれたコンテクスト(文脈)でも違ってくる。相当に交錯した状況であり、今後も考えていきたい。

 中島委員 今、大野論説主幹が話したコンテクストのことは非常に重要だ。ぜひ、オピニオン面などで日本での差別語の問題についても取り上げて欲しい。問題視している人たちは単にその言葉自体を否定しているわけではない。置かれた文脈の中で非常に侮蔑的になることを指摘している。我々にとってムハンマドの風刺画問題は遠いように感じるかもしれないが、身近なところにひきつけて論じてもらいたい。

 湯浅委員 フランスでは、表現の自由はフランスをフランスという国として成り立たせるナショナルシンボルにもなっている。そのため、フランスではこの問題は「風刺か侮蔑か」というだけでなく、ナショナリズムの問題にもなっている。「私はシャルリー」は「私はフランス人」という宣言でもあった。表現の自由を「国家からの自由」という文脈のみで捉える日本とはそこが違う。そのあたりを読者に向けて、分かりやすくするための補助線やガイドラインが必要でなかったか。

 石合国際報道部長 欧州はヘイトスピーチなどに対して法的規制をしてきた。米国は主に社会的な規範で対応してきた。日本はそのどちらでもない。これをどうみるか、というのが補助線の一つだ。「私はシャルリー」という合言葉は「私はテロリストではないが、シャルリーでもない」という人を排除してしまう。その中間にいる中東の穏健な人たちがどう感じたかを報じることも大切だ。そうした視点も補助線になると思う。

 奥委員 「耕論、連続テロの底に」(1月20日オピニオン面)は、フランスと日本の専門家の考え方の違いが鮮明で、色々と考えさせられた。また「日曜に想(おも)う テロは宗教をおとしめるだけ」(1月25日2面)の「仲間をテロに奪われた新聞社の一員として、見る聞く話すの自由にはどこまでもこだわりたい」との文章にはジャーナリストとしての覚悟を強く感じた。

◆キーワード
フランスの連続テロ
 1月7日、風刺画を売り物とする仏パリの週刊新聞「シャルリー・エブド」が襲撃され、編集幹部や記者、風刺画家、警官らが犠牲になった。襲撃した2人の容疑者はその後、パリ郊外で人質を取って立てこもった。ほぼ同時にパリ東部でも別の容疑者による立てこもり事件が発生。3容疑者はそれぞれ当局が射殺、三つの事件で計17人が犠牲になった。3容疑者はいずれもイスラム過激思想に染まっていた。

第23~24期紙面審議委員


     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     奥 正之 委員
 三井住友フィナンシャルグループ会長。44年生まれ。日本経済団体連合会副会長。国際部門の経験が豊富。全国銀行協会会長なども務めた。