朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点から議論する本年度第1回紙面審議会が4月30日、東京本社で開かれた。安全保障法制をめぐる報道や4月からの新紙面などをテーマに、4人の委員との間で意見を交わした。

【2015年度第1回審議会】(1)安保法制

「自民VS.公明」茶番に見える――斎藤委員

 長典俊・ゼネラルエディター(GE)兼編成局長 安全保障法制をめぐる報道への朝日新聞の構えについて、まず私から説明したい。安保法制には二つの論点がある。昨年7月に閣議決定された集団的自衛権行使容認という原点に立ち返って考えていくことと、安全保障の論点から長期的な視野で取り組むことだ。
 様々な提案が次々と出され、多様で速い展開に振り回されないようにしながら、法案の内容をていねいに、わかりやすく示そうと心がけている。(1)この法制を可能な限り読み解く材料を提供していく(2)何度でも継続的に、ていねいに説明する(3)オピニオン面では骨太で多様な論考を展開する(4)社説で見解をはっきり出していく――。具体的にはこの4点だ。

 中島岳志委員 4月14日朝刊「わたしの紙面批評」でも指摘したが、政府・自民党は矢継ぎ早に新たな提案をし、国民を「もはや何がわからないのかすらわからない」という状態に追い込んで、一気に法案を通そうとしている。メディアによる論点整理と解説は極めて重要だ。すべてをていねいに解説することも大事だが、強弱や優先順位を付けることも必要だ。
 一連の報道で気になったのは、公明党に対する指摘が甘すぎたことだ。例えば4月17日朝刊の「公明、『歯止め』譲らず」では公明党が抵抗しているようにみえるが、実は昨年7月の閣議決定の時点で公明党は覚悟を決めていたのではないか。

 斎藤美奈子委員 経験的に言って、どうせ最終的に公明党は自民党の案を大筋容認するに違いないと思っている読者が多いはずだ。したがってそれまでの与党内の「攻防戦」は「ちゃんと議論を尽くしたぞ」と見せるためのアリバイづくりにみえる。見出しだけ拾うと重要なことで争っているような印象だが、「自民VS.公明」という見出しは茶番に見えてしまう。

 立松朗・政治部長 公明党の同意を踏まえて昨年7月の閣議決定が行われたので、今回の自公協議も最終的には着地すると想定はしていた。しかし、政府や自民党が投げる高めの球に対し、公明党がブレーキをかける構図だったことも事実で、その内容や意味をきちんと報じるべきだと考えた。政策論として伝えようとしてきたが、自公の攻防という印象を与えた点があったことは反省したい。

 湯浅誠委員 政府・与党の動きを追った報道と、「読みとき 安全保障法制」のシリーズ(4月3日~14日朝刊)などの解説を毎日根気よく追っていけば、いま何が起こっていて、どういう意思が働いているのか、かなりわかるように出来ていた。ただ、追いつくのに精いっぱいでもあった。この「がんばっても、がんばっても、追いつかない感じ」から、「安倍1強態勢」の問題点を改めて喚起してほしい。さらに、どの記事が視界を開く突破口となるのかがわかるような書き方を望む。

 立松政治部長 湯浅委員と同じように、現場の記者も精いっぱい追いながら紙面を作っていた。「わかりやすく」もそうだが、よりいっそう引いた視点でも伝えていくようにしたい。

 湯浅委員 4月14日朝刊は1面で「後方支援は『国際平和支援法』」と報じた。「平和のための戦争」はありでしょう、という名前だ。これを「ようやく普通の国になった」とみるのか、「かつて来た道」ととるのか。論点はあいかわらずだろうが、この名前ほど、この数年間で何が進んできたかをひと言で象徴できるものはないのではないか。

 立松政治部長 法案の名前もニュースだと判断して1面で報じたのだが、「平和」という言葉についての視点は欠けていた。

 斎藤委員 3月21日朝刊で街の声を聞いた「安保法制 分かります?」がおもしろかった。ただ、こういう状態を、危機感を持って見ている人もいる。関心を持たず、政治参加しない人たち。永田町の外側で起きていることをもっと大きく報道していくと、いま何が起きているのかがクローズアップされる。

 角田克・社会部長 「論」に傾きがちなテーマであるうえ、あまりに展開が速く、リアルを旨とする社会面での対応も十全とはいかなかった。ご指摘のように、読者の想像力に働きかける記事を出していきたい。

解説に終始、是非論足らず――鈴木委員

 鈴木幸一委員 安保法制に関する記事のほとんどは、今回の安保法制に関する解説記事に終始していた。解説はわかりやすかったが、これからの安全保障、あるいは問題点やその是非についての議論は物足りなかった。軍事は経済と密接に結びついている。かつて、ホルムズ海峡を通る日本の船舶を、海賊が頻発した折には、海外の海軍に守ってもらっていたのだが、それを日本の自衛隊が守るのかという議論の延長でもある。戦後70年、パワーポリティクスの世界で、日本において、「平和」という状況が、なぜ維持できたのか、本質的な議論を避け続けているのではないか。読者も、建前と本質の理解をし始めているわけで、その前提から目を背けている気がする。

 大野博人・論説主幹 旧来型という印象を持たれたなら、書き方を考えなければならないが、グローバル時代の安全保障はどういうものか、という視点はつねに意識している。例えば英国ではイラク戦争の時に歯止めがなかったことの反省から、シリアや「イスラム国」への軍事行動では議会に承認をはかった。グローバル時代の戦争から出てきた流れは、安全保障分野で政府が自分の判断で決められる範囲を広げようとする安倍政権の考え方とは必ずしも合致していない。今はグローバルな視点を抜きに経済や安全保障について論じるわけにはいかないが、それをどう表現すればいいか。課題だと思う。

 西村陽一・取締役編集担当 かつて「与野党協議、今日から本格化」「攻防始まる」といった見出しが連日紙面を飾った時代があったが、こんにちの国内外の政治状況はまったく違う。安保法制の議論が多方面に同時並行で進んでいるなか、協議の詳細な中身を徹底的に伝えるのは新聞として当然だが、本日は、それだけでいいのか、読者が混乱と消化不良に陥っていないか、という重要な指摘をいただいた。
 それだけの記事で終わっているわけではないのだが、政策決定過程や過去のイラク戦争などについて検証する、陰の主役である中国、安保論議を取り巻く米中関係の構図を含むグローバルな光景を描く、自衛隊の現場を歩くといったことをさらに心がけていきたい。今後の国会論戦はこれまで以上に広い視野でていねいに伝えていきたい。

安保法制に関する自公両党の協議を報じた主な記事(「歯止め」=★=が焦点だったことがわかる)
【2月】
・自公せめぎ合い/恒久法実現へ自民配慮/公明なお警戒(11日3面)
・米軍以外も防護・支援/自公に政府案示す(14日1面)
・国連決議なしで後方支援/政府・自民 あす恒久法骨子案提示(19日3面)
・自衛隊活動 大幅に拡大/与党協議に政府案/公明に慎重論(21日1面)
・「★歯止め」の認識 隙突かれた公明/具体例なし 詳細先送り/政府側が次々提案(23日3面)
・自衛隊の邦人救出 提案/政府、船舶検査拡大も(27日夕刊1面)
【3月】
・自衛隊派遣に3原則 要求/公明、★歯止め狙う(4日1面)
・「存立事態」新設提案へ(5日1面)
 乱立 五つの「事態」(同3面)
・政府、派遣要件など提示へ/公明要望受け(7日1面)
 攻防7分野 ★歯止め焦点(同2面)
・恒久法、後方支援に限定へ/「★歯止め」公明に配慮(11日3面)
・公明が大筋容認/自衛隊派遣「一定★歯止め」(14日1面)
・自公が実質合意/5分野 方向性示す/あす正式決定(19日1面)
 課題先送り/広げたい自民・★歯止め求める公明(同4面)
・自衛隊 海外活動拡大へ/自公、安保枠組み合意(21日1面)
【4月】
・後方支援は「国際平和支援法」/恒久法案名 政府が方針(14日1面)
 与党協議、きょう再開/首相訪米前の決着目指す(同4面)
・国会承認 自公に溝/自衛隊派遣巡り(15日3面)
・公明、「★歯止め」譲らず/集団的自衛権の行使要件、法案明記(17日4面)
・自公協議が決着/後方支援、恒久法では「例外なく事前承認」(22日1面)
・後方支援の恒久法 了承/自公、来月11日に全法案合意(24日夕刊1面)
・「★歯止め役」公明、終始防戦/恒久法、根幹変わらぬまま(25日3面)
 全法案 自公協議で了承(同4面)
(記載のないものは朝刊)

第23~24期紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 インターネットイニシアティブ(IIJ)会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰している。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。