朝日新聞紙面審議会

 読者の視点から朝日新聞の紙面について議論する本年度第2回紙面審議会が11日、東京本社で開かれた。戦後70年や安全保障法制などをめぐる報道について、4人の委員との間で意見を交わした。

【2015年度第2回審議会】(1)戦後70年、どう掘り下げた

報道量に厚み、多様性は課題――湯浅委員

 湯浅誠委員 総論として、報道量の厚みはあったが論点の多様性では問題も感じた。戦後70年の大テーマには(1)戦争に至る戦前の歴史の評価(2)戦争の記憶を受け継ぎ、悲惨さを喚起する(3)戦後の評価(4)現在と今後の展望、の切り口がある。全体として「安保法制」を通して「戦後70年」に言及する記事が目立った。その結果、(1)(3)の戦前・戦後の歴史の評価が弱かったかと思う。たとえば明治という時代の歴史的評価、平和国家としての存在、ODA(政府の途上国援助)などの検証も扱う余地があった。未来を考える上で、積極的平和主義の内実に関わるだけに、惜しい気持ちが残る。

 長典俊・ゼネラルエディター(GE)兼編成局長 戦後70年の今年は、終戦の年20歳だった人が90歳になる。戦争の記憶を個人の証言としてまとまって残してもらう大きな機会だ。もう一つ、当時を振り返るのではなく、今の問題とどうつなげて報道するかが大きな課題だった。日本を含め、先進国では成長の停滞などから「負のナショナリズム」が強まっている。国際政治、安全保障について、歴史をどう見るのかという視点が不可欠で、考える材料を提起していきたいと考えた。

 中島岳志委員 戦後70年ということは、「大東亜戦争」の戦闘に加わった人の多くは既に亡くなっており、子ども時代や引き揚げの経験を語れる人の証言に限定されるということだ。70年という時間のつなげ方を工夫しないと、リアリティーのない「昔話」になってしまう。そうした時代にあって、「平和のすがた」(8月13~19日朝刊、5回)は、「戦争と今」を問い直そうという困難に立ち向かった好企画。10回とか15回あってもよかった。全体を通じて日本人の問題に終始しており、「加害」の問題にも触れてほしかった。

 沢村亙・GE補佐 心を砕いたのが、幅広い読者にどう歴史に関心をもって読んでいただくか。驚きのあるニュースが必要だが、実際に歴史取材を始めるとこれまで掘り起こされていなかった多くの発見があった。戦後、平和が「退屈な日常」へと化していく変遷を取り上げた回は20代、30代の若い記者が試行錯誤しながら「今」という時代をすくい上げた。企画はまだ続く。今日いただいたヒントや宿題も参考にしたい。

国外からの視点

 斎藤美奈子委員 インタビュー記事の「米歴史家らの懸念 米コロンビア大学教授 キャロル・グラックさん」(6月5日朝刊)、「日本の誇るべき力 戦後日本を研究する米国の歴史家 ジョン・ダワーさん」(8月4日朝刊)は、国外からの視点を取り上げ、興味深かった。

 沢村GE補佐 日本人が戦後を肯定的にみる余裕があった戦後50年と違い、70年は災害や高齢化、近隣国台頭などの不安の中で迎えた。どう過去に向き合い、未来を考えるか。継続して見てきた海外識者に分析してもらった。

 湯浅委員 国際面「もう一つの祖国」シリーズ(7月17日~8月28日、41回)は楽しみに読んだ。元日からの「鏡の中の日本」シリーズの問題意識を引き継ぎ好感が持てる。ただ「糸口を見いだせないだろうか」は正月と同じ問題意識で、同じ地点にとどまっているのは突っ込み不足だと思う。

 石合力・国際報道部長 昨年来、朝日の報道の仕方として、上から目線で結論めいたことを言うのではなく、問題を考える視点を現場から提示していきたいと考えている。

学者の論理、検証企画あれば――鈴木委員

 鈴木幸一委員 戦争を考えるとき、個人の悲劇を大前提にして記事を作ることも重要だが、別な視点もほしい。戦後民主主義教育、「非武装中立論」など戦後の学者の論理を改めて検証する企画もあればよかった。日本は米国の傘のもとで、戦後70年間戦争をしなかった、世界では特殊な国だということをメディアは自覚するべきではないか。幅広い視野を持ってほしい。

 長GE これまで日が当たらなかった人々が70年を経て個人の体験を語り始めたことを重く見て、記録としてとどめたいと考えた。日本が世界の中では特殊という位置づけも考えるべき視点だ。戦後70年報道は、「安倍談話」と安保法制と切り離せない、と一括して捉えている。「安倍談話」については、だれに対して何を語るのかがはっきりしているかを見て、評価するようにした。

■朝刊1面で報じた戦後70年企画
【第1部 鏡の中の日本】1月1~8日 全7回
一人ひとりのドラマが日本の姿を映し出す鏡になる。そこに映る70年の奇跡を追う
【第2部 戦争のリアル】2月16~20日 全5回
戦争とはどんな現実か、改めて見つめた
【第3部 国家と歴史】4月19、20日 全2回
国家と歴史のかかわりについて考えた
【第4部 沖縄】6月7~9日 全3回
沖縄の戦後について本土との関係から考えた
【第5部 広島・長崎・核】7月26~28日 全3回
広島、長崎への原爆投下から70年。核なき世界はなおかなたにある。核と日本、世界をめぐる問題を考える
【第6部 平和のすがた】8月13~19日 全5回
戦後70年の名実はどうだったのか。「記憶」「トラウマ」などキーワードから探った

第23~24期紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 インターネットイニシアティブ会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。