朝日新聞紙面審議会

 読者の視点から朝日新聞の紙面について議論する本年度第2回紙面審議会が11日、東京本社で開かれた。戦後70年や安全保障法制などをめぐる報道について、4人の委員との間で意見を交わした。

【2015年度第2回審議会】(3)安保法制

反対運動、盛り上がり伝えた――斎藤委員

 中島委員 安保法制をめぐる国会の議論はていねいに検証していた。しかし国会のことだけを書いていればいいのか。自衛隊の内部文書を次々と入手し、国会で繰り返し指摘していた共産党の方がよりジャーナリストらしかった。朝日にも独自の切り口で、政権に切り込むような報道がもっとあってもよかった。

 湯浅委員 報道量やくわしさ、わかりやすさの観点からはよかった。ほぼ毎日、見出しを見るだけでも事の重要性を意識せざるを得ない雰囲気がつくられていった。この姿勢は基本的に支持したうえで、論の立て方には不満が残った。早稲田大の長谷部恭男教授の「違憲」発言は重要な批判だったが、それに頼りすぎていなかったか。賛成派は、国際社会の現実を直視すべきなのに反対派はそれを見ずに法律論ばかりしていると考えている。そこに届かせるためには、安全保障の言葉で安保法制を批判する視点の提示が重要だ。
 その点、外交・安全保障政策の将来像をテーマにした「聞く 安全保障法制」(8月12~14日朝刊、3回)や「現場から考える 安全保障法制」(6月21日から随時)の視点は大事で、大きな柱として立てるべきではなかったか。

 立松政治部長 国会できちんと論じることが何より大事だと考え、議論を促すためにもしっかり報道してきた。焦点の長谷部教授発言もていねいに報じたことから、法律論ばかりという印象を持たれた面もあるかも知れない。
 ご指摘いただいた「聞く」は、この法制を安全保障・外交政策の面から考える入り口と位置づけた。具体的な事例があまり示されず、その結果、議論も深まっていないと考え、「現場から考える」で記者が実際の現場を取材した。法制が外交・安全保障政策に資するものか、見極める材料にしようと狙った。ただ、総括的に示さなかったことで、どう考えたらいいかをうまく提起できなかったことは反省している。

 湯浅委員 5月3日の「座標軸/連帯なき『積極的平和主義』」は難民認定の少なさ、という視点から安倍政権のいう「積極的平和主義」の本当の姿をあぶり出しているように見える。武力行使だけではない、多様な安全保障政策を示すことが、安全保障の言葉でも安保法制を批判していく視点の体系的構築につながっていく。

 大野論説主幹 難民問題はいま世界の平和を揺るがす最も深刻なグローバル危機のひとつになっている。これを直視せずに、なにが「積極的平和主義」なのかと問いかけたかった。

 鈴木委員 現実には難民の受け入れはたいへんなことだ。ハンガリーの対応をみても、日本が貢献すると容易には言えない。

公明どこへ行く

 中島委員 公明党の支持母体・創価学会で学会員らが反対の声をあげていることを書いた「ウォッチ安保国会/平和の党・公明 どこへ行く」(8月14日朝刊)はようやく取り上げられたという印象だ。もっと創価学会の内部に食い込んだルポがあってもいい。

 角田克・社会部長 創価学会内部で古参や若手が本気で怒っている、という情報が重なった。当初は「点」だった動きが次第に「面」になっていったというのが記者の見方だった。ルポも考えたい。

 斎藤委員 7月16日に法案が衆院を通過してから朝日が変わった。「どうせ成立するのだから」と終わりにしないで、そこからの反対運動の盛り上がりを伝えていた。特に社会面の「ウォッチ安保国会」(5月27日から随時掲載)では多様な声をこまめに拾い、街頭の抗議行動をていねいに追っていてよかった。

 角田社会部長 時代を映し出す動きととらえた。学生団体「SEALDs(シールズ)」など、今後にも注目したい。

 斎藤委員 「声」「朝日歌壇」もおもしろかった。例年8月になると戦争を題材にした歌が多くなるが、今年は7月ごろから安保法制を取り上げた作品が目に付いた。読者の表現自体がニュースだった。

 阿部毅・文化くらし報道部長 社会的な事象を詠む短歌はしばしばある。今回は俳句でも、安保関係がとても多かったので、これはニュースだと思い、8月6日の文化・文芸面で俳壇選者の金子兜太さんと歌壇選者の佐佐木幸綱さんに対談してもらった。

現実的な感覚を

 鈴木委員 世界を見渡せば、現在でも、武力行使を含む紛争が絶えない。そんな世界の状況を冷徹に把握し、ビジネスをしている人たちが朝日から離れていくのではないかと心配だ。政治にも経済にも影響力があるメディアだという自覚を持ってほしい。現実的な感覚を持っている人との距離を考えながら、朝日としての特色を出してほしい。

 長GE 一つひとつの問題に対しては、是々非々で取り組んでいく。そのうえで、多様な視点を持って材料を提供し、読者と一緒になって考えていくような紙面をつくりたい。その際、新聞記者だけでなくビジネスパーソンや経済人といった様々な人たちの感性も取り入れていきたい。

 西村陽一・常務取締役編集担当 戦後70年報道の議論では、記憶が薄れていく年月の長さゆえに、今後は報道の手法にさらなる工夫が求められることが浮き彫りになった。歴史報道そのものが歴史の検証に耐えうるものでなくてはならないが、後世の検証にさらされるという点では安保法制報道も同じ。紙面の多様性という点からご意見をいただいたが、多様性のある紙面とは、視座が右往左往することでも、両論併記で立ち止まることでもない。多様性を豊かな言論へといかに進化させていくかが問われるなか、「わかりにくいが避けて通れない分野」の深掘りや大きな柱の提示が十分だったか、という指摘は重く受け止めた。難民問題について委員との間で議論があったが、これにしても一回のやりとりで終わらせてはいけないし、安全保障論でもさまざまな立場の人との徹底的な対話が大切だ。


第23~24期紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 インターネットイニシアティブ会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。