朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点で意見を交わす本年度第3回紙面審議会が1月26日、東京本社で開かれた。昨年11月にパリで起きた同時多発テロや、消費増税に伴う軽減税率をめぐる報道などをテーマに、4人の委員と議論した。

【2015年度第3回審議会】(2)税制

暮らし密着の視点ほしい――斎藤委員

 鈴木委員 1月19日の「わたしの紙面批評」でも指摘したが、そもそも消費増税を決めたのは、高齢化によって膨らむ一方の社会保障費への財源として消費税を充てること、すなわち「税と社会保障の一体改革」が前提にあったのではないか。昨年10月16日の社説「軽減税率導入/社会保障を忘れるな」はそこをはっきりと書いていたが、一体改革のことはその後、ほとんど紙面に取り上げられていないようだ。

 小陳勇一・経済部長 軽減税率の対象はどうなるのか、財源は何にするのか、といった自民、公明両党間の協議を追うことで手いっぱいになっていた。協議の展開が速かったこともある。原点は一体改革にあるということは、これからの国会審議の中で報じていく必要があると思っている。

 鈴木委員 限られた財源の中でしか社会保障はできないのだということを指摘すると多くの批判を受けるだろうが、勇気を持って書いてほしい。

 湯浅委員 マイナンバー導入の大義名分の一つに、「総合合算制度」があった。医療・介護・保育などの自己負担分を合算し、上限を設ける制度だ。それが10月24日朝刊の「軽減税率 財源も隔たり」でいきなり「自公両党は軽減税率の導入に伴う税収減を補うための財源と想定している」となっていたので驚いた。この制度自体、朝日新聞の紙面に登場したのは3年ぶりのようだが、制度の説明もなかった。

 中島委員 この制度は病気や障害、介護、育児など同時に様々な問題を抱えている人たちにとって高い効果が期待できるはず。これは大問題だ。12月23日の「教えて! 軽減税率<5>税収減1兆円 どう埋める?」でも両党が「やめることでは合意した」と既成事実化していた。この点も厳しく批判したい。今からでも遅くないから民主党政権の時に自公両党も賛成して成立した税制抜本改革法で挙げられた給付付き税額控除、総合合算制度、軽減税率の三つを詳しく相互比較する記事を載せてほしい。このままでは多くの人が総合合算制度のことをよく知らないまま、この選択肢が失われてしまう。

 小陳経済部長 今の指摘は重く受け止めなければならない。読者の関心が自公協議の内容に向いていたのは間違いないが、「総合合算制度」を見送ることによる影響をきちんと報じなかった点は反省する。今後、国会での本格的な議論を伝える中で取り上げていきたい。

 中島委員 軽減税率には買い物の際の「お得感」や「値引き感」がある。低所得者には得られる金銭的なメリットは限られるのに、実際以上に税負担が軽減されるような感覚になる。心理的効果を狙ったという点で、安保法制の議論で「海外の紛争から逃げる日本人母子が乗った米艦船」という、実際にはありえないようなイラストを掲げて訴えていたのと似ている。

 立松朗・政治部長 軽減税率の議論は今夏の参院選を強く意識している。このような心理的効果の問題は、これからの参院選報道の中でも注意して見ていきたい。

 斎藤委員 安倍政権は法人税の実効税率を来年度から20%台に引き下げると言っている。消費者の立場で言えば「法人税を下げて、消費税を上げるってどういうこと」と思っている人は多いのではないか。暮らしに密着した視点が足りないように思う。

 小陳経済部長 法人減税には経済を活性化させるという面はあるが、一般的な感覚として斎藤委員のような疑問を持つ人もいると思う。税制には専門的な内容もあるが、わかりやすく伝えなければいけないと常に考えている。

   *

【低所得者層向けに考えられている主な負担軽減の仕組み】
<軽減税率> 食品など生活必需品の一定品目で、消費税率を標準より低く設定する制度。低所得者ほど支出に占める生活必需品の割合が高いといわれている。
<給付付き税額控除> 所得が少ない人の税金を安く(控除)することを基本に、納税額が少なくて控除しきれない人には残額を給付する制度。所得が課税最低限に及ばず、もともと納税していない人には給付だけを行う。
<総合合算制度> 医療や介護、保育、障害者などの社会保障サービスにかかった費用を合計し、所得に応じた上限額を超えた分は払い戻し(還付)が受けられる制度。現在は自己負担の上限額がサービスごとに決められており、同時に複数のサービスを使って費用が高額になっても、それぞれが上限額を超えていなければ負担は軽減されない。

第23~24期紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 インターネットイニシアティブ会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰している。

 

     湯浅 誠 委員
 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

     中島 岳志 委員
 北海道大学大学院法学研究科准教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。