朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点で話し合う紙面審議会が9日、東京本社で開かれました。1989年に発足した紙面審議会は、1面とこの面にあるお知らせの通り、その役割が読者代表であるパブリックエディター(PE)や本社の編集部門幹部らが議論する「あすへの報道審議会」に発展的に引き継がれます。2013年4月に就任していただいた委員のみなさん(鈴木幸一委員は昨年4月から)の議論は今回が最終になります。この機会に、今回の紙面審議会では、4委員に、これまでの紙面審議会の議論も踏まえながら、朝日新聞の現状をどう見るか、今後に望むこと、期待する点は何かについて提言、意見をいただきました。

【2015年度第4回審議会】(1)高度な専門性持つ記者集団に

鈴木幸一委員

 朝日新聞はクオリティーペーパーを自負する一方、数百万部という発行部数からみれば、大衆紙と捉える方が妥当である。クオリティーペーパーとしての矜持(きょうじ)を保ちつつ、発行部数を守るため大衆に受け入れられる要素も盛り込まねばならない。この矛盾を抱えながら一つの紙面をつくることが、朝日新聞の記事内容、記者の育て方、何よりも経営のあり方を難しくしているのではないか。
 例えば、私の仕事であるIT分野を掘り下げ、ITという巨大な技術革新が世界をどのように変えていくのかといった視野を持ち、経営者に目を開かせてくれる記事を書ける専門記者を育てているだろうか。かつては同じ記者が長期間同じ分野を担っていたように思うが、昨今は短期間で別の記者に担当替えしているようだ。
 ある出来事を報道する時、その評価については、ほとんどが学者や有識者とされる方々の意見を掲載していることが多く、新聞社としての見解は控えめだ。記事は記者が事実をなぞった、表面的な内容になっていると感じる。読者に分かりやすい、かみ砕いた記事を書き、分析もできる専門知識を持つ記者も必要なのではないか。産業以外の国内政治、国際政治、社会、文化などの分野では、専門記者が育っているのだろうか。

 経済大国としての「豊かさ」を享受してきた日本人も、享受してきた「豊かさ」のよってきた構造について、より現実的な見方をするようになってきている。憲法順守、民主主義、ヒューマニズムといった朝日新聞の基本的な論調、報道の仕方と、一般の人々の受け止め方の間に齟齬(そご)が生まれ、その乖離(かいり)が少しずつ広がっている気がする。その乖離をどのような形の記事づくりで埋めていこうとしているのかがよく見えてこない。

 インターネットという従来とはまったく違うメディアが発展した現在の状況を踏まえると、朝日新聞に期待するのは、コンテンツをつくる高い能力である。
 朝日新聞が独自に行った丹念な調査によって問題提起する手法による記事は参考になることが多い。政務活動費47都道府県議調査(16年2月19日朝刊)、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定に関連し、内閣法制局が国会審議に備えた想定問答の内部文書(2月17日朝刊)などの調査報道は読み応えがあった。
 優れたコンテンツをつくれる記者の存在がメディアとしての最大の価値だと思う。朝日新聞には、ゼネラリストばかりでなく、高度な専門性を持った記者の組織として、発展していってほしい。



紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 すずきこういち インターネットイニシアティブ会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰している。

 

     湯浅 誠 委員
 ゆあさまこと 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 なかじまたけし 東京工業大学教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 さいとうみなこ 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

◇開会日までの東京本社発行最終版を主な対象に討議。写真は池永牧子撮影