朝日新聞紙面審議会

 朝日新聞の紙面について読者の視点で話し合う紙面審議会が9日、東京本社で開かれました。1989年に発足した紙面審議会は、1面とこの面にあるお知らせの通り、その役割が読者代表であるパブリックエディター(PE)や本社の編集部門幹部らが議論する「あすへの報道審議会」に発展的に引き継がれます。2013年4月に就任していただいた委員のみなさん(鈴木幸一委員は昨年4月から)の議論は今回が最終になります。この機会に、今回の紙面審議会では、4委員に、これまでの紙面審議会の議論も踏まえながら、朝日新聞の現状をどう見るか、今後に望むこと、期待する点は何かについて提言、意見をいただきました。

【2015年度第4回審議会】(2)フォーラム面の手法に可能性

湯浅誠委員

 経済的格差が広がるときは、政治的見解も二極化する。いま、そんな時代に入ったと思う。こういうときに、これまでのように、穏健な意見を社会に投げかけるだけでは足りない。テーマの選定や切り口など、「これくらいではないか」という従来の「相場観」は一度見直すべきだと考える。
 ファクト(事実)重視は当然だが、それは「何が報道に値することなのか」をめぐる自分たちの価値観(相場観)をとらえ返す挑戦を同時に続けてこそ意味がある。ファクト重視とは、何をどう取り上げるかについて、絶えざる検証という批評性を備えた積極的、政治的姿勢に裏付けられる必要がある。
 そこで重要になるのが、朝日新聞社が昨年1月に発表した「信頼回復と再生のための行動計画」で理念の3番目に掲げた「課題の解決策をともに探ります」だと思う。その作業は計画でも打ち出したように「社会の仕組みや生活に密着した課題」から立ち上げていくのが望ましい。この点では、昨年後半以降の紙面に希望を感じている。

 第2段階に入ったフォーラム面が興味深い。読者の提案で始まった「自治会・町内会」(15年9~10月)や「マタニティーマーク」をテーマにした意見交換会(16年2月29日)など、単に多様な意見を整理して並立させるだけでなく、多様さを踏まえた記者と読者、社会の協働への兆しが徐々に出ている。
 現在、人々は報道機関の権力性にますます敏感になってきている。これに対して、「ファクトと論を切り分ける」「両論併記する」という対応策だけでは弱い。
 その点、フォーラム面の取り組みは、新聞が課題解決へと至るプロセスそのものに関わり、報道に値する事実そのものを生み出し、あるいは報道に値する事実が生み出されるような意見交換の場を設定する、という手法だ。その過程で意見が交わされ、アイデアがもまれ、納得感が醸成される。重要なのは、この過程が公開されることだ。当該テーマの当事者、有識者、関心をもつ一般市民ら多様な利害関係者のライブ感のある意見交換から見えてきたものが、両極に引っ張る力にあらがう強さを持つ。

 二極化する見解への対抗軸は、その真ん中に穏健な意見を置くことではなく、その成り立ちの過程を公開し、読者がそこに立ち会えるようにすることだ。この延長線上に、二極化しやすい世の中で穏健な意見をもつ世論を育てるということ、つまり「声なき声」に形を与えるという作業がある。
 それを地道にやっていくことが、日本の民主主義の成熟にもつながっていくと考えている。



紙面審議委員


     鈴木 幸一 委員
 すずきこういち インターネットイニシアティブ会長。46年生まれ。日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者。東京・上野で毎春、音楽祭を主宰している。

 

     湯浅 誠 委員
 ゆあさまこと 社会活動家。法政大学現代福祉学部教授。69年生まれ。08年末に「年越し派遣村」村長。09~12年、内閣府参与。08年「反貧困」で大佛次郎論壇賞。

 

     中島 岳志 委員
 なかじまたけし 東京工業大学教授。75年生まれ。専門は南アジア地域研究、日本思想史。05年「中村屋のボース」で大佛次郎論壇賞。

 

     斎藤 美奈子 委員
 さいとうみなこ 文芸評論家。56年生まれ。編集者を経て94年、近代文学評論「妊娠小説」でデビュー。02年「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。

 

◇開会日までの東京本社発行最終版を主な対象に討議。写真は池永牧子撮影