朝日・ベネッセ共催シンポジウム「教育格差をどうする」


2008年9月27日(土)有楽町朝日ホール

【冒頭発言】(2)藤原和博:東京都杉並区立和田中学校前校長
和田中方式の紹介

【司会】  次にご登壇いただきますのは、東京都杉並区立和田中学校の前校長、藤原和博さんです。藤原さんにも、まず先ほどの調査報告の感想をお願いいたします。その後、3分ほどビデオを上映いたします。タイトルは、「全国に広がる和田中流地域本部」そして「土曜寺子屋(ドテラ)のある日の風景」です。ビデオの上映の後、ご発言をいただきます。それでは、藤原さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【藤原】  こんにちは。教育界のさだまさし、藤原でございます。私のパートは、少しリラックスして聞いていただければと思います。

藤原和博氏

 ベネッセのこの調査につきましては、情報の公開度が上がって、それに満足感を示していらっしゃる保護者の方が多い。これは少なからず私も貢献したかなと思っています。和田中の校長であった5年の間に、「よのなか科」という私がやっています授業だけでも5000人の教育関係者の方々が和田中を訪れ、100回ぐらいテレビに報道されたと思います。それから「地域本部」の活動で、「土曜に寺子屋(ドテラ)」というのをやって、大学生を大量に動員し子どもたちの宿題をサポートしてもらっていますけれども、これも非常に取材が多かった。それから学校便りが、私が赴任する以前は、杉並区のほとんどの学校が昔のガリ版刷りと同じような感じで、だれが一体読むんだろうというようなスタイルで出していたのを、和田中がパソコンから出すカラー(プリント)に改めて、それが大分広がってきました。そういう情報公開については貢献したかなという気がします。

 学校外の教育支出が月に1000円ぐらい上がっているということについて、これはほとんど都市部の、特に東京問題が響いているんだろうと思います。中学受験が、ベネッセの調査でも5%ほど参加率が上がっている。それから、耳塚先生のお話でも、教育投資家族という、多分、「アエラキッズ」とか「プレジデントファミリー」を読んでいる層じゃないかと思いますけれども、そういう人たちが4%ぐらい増えている。そういうことから結論づけられちゃうんじゃないかなとさえ思います。

 私は、この場では、学校がこの問題に対してできることとできないことを語ってみたいと思うのですが、多分、できないことについては、最初の20分で話すゆとりはないと思うので、パネルディスカッションのときにお話をしたいと思います。学校でできることのほうを少しまとめて話をします。

 それではまず、和田中がやっています土曜寺子屋。大学生、特に教師になりたい大学生を一生懸命集めてきまして、放っておくと宿題をやってこない子も、とにかく土曜日に学校に呼んじゃって、そこに、わからなくなったときにお兄さん、お姉さんという、聞ける相手がいれば教えてくれますから。そのうち、今度はそういうお兄さん、お姉さんとわりと親しくなって、「ナナメの関係」というのができますと、これは親とか先生との関係とはちょっと別で、そういう「ナナメの関係」で褒めてくれたり勇気づけてくれたりするので、学習の動機づけにもなる。これをやったことで、和田中では宿題の提出率が上がっている。学力の底支えにもきいています。

 その様子をちょっと見ていただこうと思います。ビデオは、数年前に撮ったものなので、語っているデータ的にはちょっと古いところもありますが、3分か4分、見ていただきたいと思います。では、よろしくお願いします。

【ビデオ音声】  和田中「地域本部」では、中庭の芝生や花壇の手入れ、図書室の管理やサポート、スポーツ振興、大学生が教える土曜寺子屋。週4時間の英語コースの開講などが主な活動です。

【藤原】  これに今年から「夜スペ」が加わりました。

【ビデオ音声】  学校や生徒たちのための活動に参加したいという地域の人が、この地域本部を通して活動することが可能になりました。

 地域本部のスタッフ、タカギさんは、和田中の卒業生で、初代土曜寺子屋の教務主任。後輩の成長を見守ってきました。

【藤原】  彼女は、もともと和田中の卒業生ですけれども、ニートだったのです。それで、和田中でこういうことが起こっているというのを聞きつけて、来てみた。そうしたら、自分の肌に合っていた。ずっと続けていくうちに才能が発揮されちゃって、何と今は小学校の教員になっています(笑い)。

【ビデオ音声】  「地域本部」のスタッフは卒業生の親たち。学校との調整、経理事務、各事業の運営など、月曜から土曜、交代で活動しています。

 元PTA会長だったイトウさんは、藤原校長との強い協力態勢のもと、土曜寺子屋の開講を機に「地域本部」を立ち上げ、その運営に当たってきました。今年は土曜寺子屋の責任者です。

 「地域本部」の活動の核は、何といっても土曜寺子屋、通称「ドテラ」です。受付は30名ほどの保護者のボランティアが交代で担当。「ドテラ」の利用生徒数100名、そのうち70名が1年生。1年生の親の気合いがうかがえます。

【藤原】  今、390名の生徒に対して、ほかのアクティビティも含めて、土曜日には最大で200名ぐらいの参加になっています。

【ビデオ音声】  生徒さんからの1学期1000円の会費で活動資金を賄っています。「ドテラ」に使われる部屋は5室。1年が被服室、2年が美術室、3年が図書室。そのほか、特活室や校長室も利用することができます。

【藤原】  生徒が私服で来ていますが、平常は制服なんですけれども、土曜日は私服モード。この子はバスケット部なので、午前中ここで宿題をやっちゃって勉強したら、お弁当を食べて午後はバスケット部の部活に出るのです。

【ビデオ音声】  教える学生もボランティア。その数、約30名。スタッフは略して学ボラさん。その多くは塾のアルバイトを経験しています。ここでは基礎学力の向上に力を注ぎます。1人で学習する習慣がついていない生徒にどのように勉強方法を教えるか、そういう課題に挑戦しています。

【藤原】  最近では、団塊世代の方が地元に戻ってきて、学生ボランティアだけじゃなくなっちゃったので、学習ボランティアというふうに言いかえています。

【ビデオ音声】  「地域本部」の部屋は図書室の隣。学生の出入りが多いので、活気にあふれています。

 学習時間は、朝9時半から45分の3コマ。生徒は、その日に勉強したいものを持ってきます。学校の宿題や塾の宿題、予習、復習、テストや受験勉強、その内容はさまざま。ときには学ボラオリジナル授業にも取り組んでいます。

 数学担当のミヤザワさん。数学の教え方に試行錯誤の日々。教えるのはマンツーマン。その場、その場で何でも教えます。

【藤原】  このミヤザワ君が5年前にたった1人から始めてくれた大学生です。実は、6年目に入って、今でもやってくれているのです(笑い)。ちょっと就職大丈夫かなと気になっているんですけれども。ただ、同じ学ボラで英語の担当をしてくれた彼女と、今年3月に結婚することに決めたと、私が校長をやめる直前に報告してくれました。非常にうれしいことだと思います。

【ビデオ音声】  和田中で指導する学ボラスタッフは、教師を目指す人が多く、やんちゃな生徒さんを前に、飽きさせない学習ゲームから、細かな実技指導まで、あらゆる学習手段を準備し、生徒さんに臨みます。分からなかった課題が分かった瞬間。学ボラが味わう感動です。この感動が彼らを本物の教師へと導きます。

【藤原】  こんな感じで、教えるほうの大学生にもものすごく感動があるんですね。ついに、私が赴任したときに3年生だった生徒が、大学へ入って教育学部へ行って、先生になりたいから「ドテラ」でボランティアさせてくださいと、そういう循環が始まっています。5年たつとこういうことがあるんですね。

【ビデオ音声】  「ドテラ」が始まる前に芝刈り講習会に参加した生徒さん。指導するのは地域本部のグリーンキーパーズのお父さん。生徒さんは、水曜朝の朝ボランティアでも活躍します。花壇の担当者も、四季折々、生徒さんの目を楽しませます。

【藤原】  「地域本部」のもう1つの活動、学校の緑の敷地の手入れです。植栽、剪定、そういうことをお任せしています。もうこの花壇全部任せちゃうんですね。中途半端に任せない。もう全部任せちゃう。僕が頼んでもいないのに水車小屋がいつの間にかできちゃっているんです(笑い)。

【ビデオ音声】  放課後の図書室。本の貸し出しのIT化をサポートする「地域本部」のスタッフ。もし「地域本部」がなかったら、先生の仕事が倍増します。理想の図書室を目指す司書ボランティア。先生方への指導も請け負います。赤木かん子さんは、子どもの本の専門家。和田中学校の図書室を楽しいコンビニ風に大改造した張本人。

【藤原】  この辺までで結構です。もう「ドテラ」、土曜寺子屋の様子についてはお分かかりいただいたと思うのです。