東大・朝日シンポ「21世紀、日本文明の可能性」
2008年11月22日(土) 東京・本郷の東大安田講堂
【討論・質疑応答】
レバレッジは必要なのか

【船橋】 ありがとうございます。
もう1つ、一番奥の方、どうぞ。
【小笠原】 小笠原と申します。会社員をやっております。
今日は非常に興味深いお話、ありがとうございます。東大と、あと、朝日新聞と、あと、先生の皆様に感謝いたします。
私がちょっと興味あることなんですけれども、経済についてです。今回の経済危機の背景をいろいろ勉強しているんですけれども、ちょっとわからないことが1点ほどありまして、レバレッジについてなんです。
グローバル化も証券化も金融の高度化という意味ではすごく重要だとは思うんですけれども、このレバレッジというのが社会経済において本質的に必要なのかどうかというのがすごい疑問で、なぜレバレッジが必要なのかが理解できないんです。これはカジノ化によって実体経済と信用経済の乖離を増長して社会を不安定化させるようにしか自分には理解できないんです。
なので、ちょっと割に合わないのかもしれないんですけれども、発信源と言われている英米の先生方からお聞きしたいのと、あと、このレバレッジという発想を日本的文明の歴史ではどのようにとらえればいいのか。うちらも一応助けたいなというか、自分ではそんなに力はないんですけども、社会経済の安定化には寄与したいと思っているので、一応理解できないとそれも支援できないかと思うので、藤原先生にその部分でヒントをいただければなと思います。
よろしくお願いします。
【船橋】 じゃあ、藤原先生、代表して右代表でひとつ、東京銀行のお子様ですから。
藤原帰一氏【藤原】 私が代表して経済問題について語るというのは世界経済にとって迷惑じゃないかと思うんですが(笑)。
一般論から申し上げますと、貿易の自由化と金融の自由化というのは違う領域なんですね。貿易は自由化したほうが合理的だという判断は経済学者の間では少なくとも20世紀の前半の段階でほぼ確立した議論、もちろん実際に政策として採用されるのはずっと後になりますけれども、議論としては完成していて、金融の自由化ってまるで違う世界だったということが出発点。
金融の自由化を進めた場合に、どのような合理的な秩序が出来上がるのかわからなかったという、わかっていないと言ったのは元の連銀の総裁ですからね。モンスターが生まれたわけです。パンドラの箱をあけちゃった。
何でそんなことをやったのかといえば、結局、金融の自由化をイギリスとアメリカが進めたときに、自分の国で規制緩和をしなければ非常に大きな損失をこうむってしまうからなんですね。ですから、自由化を進めたときにはそれに従わないときのリスクのほうがはるかに高いということになる。
これはどこかで聞いたことありますね。実は証券化が進んでいるときに全く同じことが起こっていくわけで、多くの製造業からすれば、マネーマーケットでのリスクの高い投資をして大きな収益を上げている企業が横にあるとしますね。うちでそれをしなければ相対的に損をするということになるわけです。ですから、リスクは高いことを承知で、高収益を上げているものにならって自分が投資をしたほうが有利だということになる。
しかも、CDSをはじめとして、リスクがあたかも低くなるかのような保険のような商品が開発される。結果として、どのような問題が起こったかというと、実はリスクが高い投資をすることが極度に合理的になってしまうというわけのわからないことが起こったわけですね。本来であれば、リスクの低い投資をしたほうが安定しているわけですけど、リスクの高い投資をしたほうがずっと合理的だというふうに資金の流れが変わってしまった。それが今の問題点の基礎にあります。
ですから、証券化の拡大が大きな問題だとか、レバレッジがほんとにいいのかというご質問は、これは全くそのとおりなんです。そのとおりなんですが、これからどうするのかという問題があるわけですね。
今、規制緩和が間違っていたというふうに言っても、特に規制をする必要がないぐらい市場が収縮しちゃってるわけですから、いまさら規制を強化してももう始まらないわけです。
しかも、さらに問題点となるのは、成長している経済に対してその将来の利得を奪ってしまうような投資をし過ぎちゃったわけですね。ですから、基本的に何の問題もないハンガリーとかインドなどの経済で、投入された資金が入っていて、それが引き上げることで経済危機を起こしてしまうという状況が起こった。これが今とりあえず起こっている問題です。
ただ、先ほど実体経済と信用経済の区別をご指摘になりました。これは重要なポイントで、アジア通貨危機が1997年から98年に起こる。韓国経済もタイの経済も今後10年間成長しないだろうというような非常に厳しい宣告をされておりました。結果的には短期間に回復しているんですね。V字型の回復に成功している。何でそうなったのかといえば、結局マーケットの投機で資金が引き上げたというだけでは実体経済はそこまで壊れてないんです。ですから、信用の回復のめどというのはいつでも残っているんですね。
今、中国も決してよくないし、ロシアも決してよくないのですが、経済の基礎が壊れたという状況かどうかといえば、製造部門に関する限り、そういうわけではない。ということは、楽観的なことを言うようですけれども、その今の実体経済と信用経済の乖離ということだけで言えば、がくんと下がったものが短期的に盛り返す可能性はあると思います。それはよいニュースなんですね。
しかし、その先、このような証券化を進めていくということができるかどうかといえば、そもそも投資が集まりませんから、よい、悪いということを言ってもしようがない。こんなところにはお金が集まらないので、新たな市場の拡大は見込むことができない。
さらに、最終的に大きな問題は、我々がずっと繰り返してきたことですけれども、アメリカの過剰な消費を我々が国債を買うことで支えるという、この仕組みは完全についえたということなんですね。これにかわるものを我々は持っていない。
ですから、アイケンベリーさんがおっしゃったように、アメリカの消費者の消費が戻るめどが今立っていなくて、立っていないということは中国も日本も多くの経済が困るということなんです。最終的にはこちらのほうが大きな問題で、投機資金の動向によって今の経済が壊れた部分というのはそこまで私は心配してないです。

