朝日・大学パートナーズシンポジウムWho Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま


2009年6月20日(土)京都市・龍谷大学

【基調講演】海外依存、送り出し国に代償 ―― 上野千鶴子・東京大大学院教授

東京大大学院教授
上野千鶴子さん

 介護の人手不足が問題となり、ケアの担い手が日本に移動するということが起きている。だが、人手不足は作られた社会問題だ。責任が重く、夜勤もあるのに低賃金で離職率が高い。介護福祉士有資格者の休眠人材は30万人もいる。悪条件で働く人はいない。だから外国人頼み、とは短絡的だ。

 今回の外国人ワーカーは政府間の経済的な取引で生まれた。日本製品をアジアで売る見返りにアジア諸国が「輸出」したい人材を受け入れる。滞在期間は上限4年。この間に国家試験に合格すれば無期限に滞在できるが、不合格なら帰国と条件は厳しい。日本政府は1人260万円を負担するが、税金から出たこのお金の使い道は政府外郭団体での研修費用だ。一方、施設側は1人60万円のほか研修費用なども負担する。外国人は業務日誌の読み書きなど情報伝達が難しく、介護・看護事故のリスクもある。

 日本人の離職率が高い中、4年間辞めない人材を確保できる利点もある。だが、教育や福利厚生コストをかければ施設側は4年以上働いてもらいたいだろう。4年後の外国人の国家試験の合格率をどう想定するか。政府は真剣に考えているのだろうか。

 今後保険外市場が拡大し、安い価格でのサービス需要は増えるだろう。高価格サービスは日本人有資格ワーカーに、低価格サービスは無資格ワーカーや外国人に、という介護労働市場の二重化が進むかもしれない。結局は価格破壊につながり、介護保険制度の空洞化が進む。施設建設など費用は日本よりアジアの方が安い。ワーカーが日本に移動するのではなく「日本の高齢者を輸出する」時代が来るかもしれない。

 介護のグローバル化がもたらすのはケアの連鎖だ。先進国の介護のため、外国の優秀な人材を使う。その人の母国の家族の介護を担うのは農村からの出稼ぎワーカー……。その連鎖の先には介護崩壊があり、私たちはその一端にいる。日本人の老後の安心の代償が、送り出し国のケアの崩壊であっていいのか。

 外国人に来てもらう以上は日本人と同一の処遇・保障を受ける権利を保証する必要がある。それ以前に、介護の人手不足解消のためにケア労働者の処遇改善が真っ先になされるべきだ。