アジアの安全へ役割を シンポジウム「日米関係――次の50年」


2010年10月8日(金) ワシントンのCFRホール

 「日米」の現在と今後を様々な角度から考えるシンポジウム「日米関係――次の50年」(米外交問題評議会〈CFR〉、朝日新聞社共催)が8日、ワシントンであった。尖閣諸島をめぐる日中間の摩擦から日米が学ぶべきことや、アジアにおける今後の日米の役割・戦略などについて、活発な意見が飛び交った。(構成・金成隆一)

■出席者の皆さん

 【基調講演】リチャード・ハース(CFR会長)

 【第1分科会】

 ◇パネリスト 添谷芳秀(慶応大教授)、エドワード・アルデン(CFR)、シーラ・スミス(同)

 ◇司会 加藤洋一(本社編集委員)

 【第2分科会】

 ◇パネリスト 三木谷浩史(楽天会長兼社長)、吉田文彦(本社論説委員)、セバスチャン・マラビー(CFR)

 ◇司会 シーラ・スミス

 【報告】船橋洋一(本社主筆)(敬称略)

●基調講演
 パートナーシップに変われるか 米外交問題評議会(CFR)会長、リチャード・ハース氏

リチャード・ハース氏

 米国では外交に対する関心は高くない。そんな中、日米の間では過去1年半ほど、多くの時間と労力が沖縄の米軍基地問題に向けられてきた。視野の狭さに驚かされる。一つの問題に没頭し過ぎることは、両国の利益にならない。

 それは、アジアには問題が山積しているからだ。権力継承の過程にある北朝鮮は不安定だ。台頭する中国に、どう対処するのか。アジア諸国間には、経済に関する枠組みは多いが政治、軍事的なものがない。日米は沖縄の基地問題に拘泥するのではなく、幅広い問題にも取り組むべきだ。

 21世紀の国際秩序の脅威は特定国家から突き付けられるのではなく、核拡散や気候変動などグローバルな問題だ。

 同盟には「何かに備える」という受け身の性質がある。同時に日米関係には「何かのために動く」という積極性も必要だ。日米関係は狭義の国防を目的とした「同盟」から、地域的、国際的な諸問題に協力して対処する「パートナーシップ」に変化できるかどうかが問われている。

 日本の貢献はあまりに物足りない。日本は復活できるのか。指導層は、国際的に重要な役割を担うという日本の将来像に国民的な合意をつくれるのか。これらは米国が、日本を「真のパートナー」と認識するか否かに大きく関係している。

 できなければ日米関係は弱体化し、次の50年間で、国際社会での日米の影響力が弱まるだけだ。従来の同盟をただ維持するだけでは不十分だ。私たちは、いかに真のパートナーシップに発展させるかを熟考しなければならない。

●中国の影響 危機管理の改善必要

添谷芳秀氏 エドワード・アルデン氏 シーラ・スミス氏

 日米関係の現状と将来を考える第1分科会では、中国の影響が大きな焦点になった。

 添谷氏は、中国の経済的な成功を、安全で自由な海上航路や貿易などを保証する「自由主義に基づく国際秩序の産物」と位置づける一方、「時に中国は、この体制やルールに挑戦するかのように振る舞うようになってきた」と懸念を表明。日米同盟の役割は、この国際協調体制を維持し、潜在的な脅威に警戒の目を光らせることだと強調した。

 日米同盟は災害や平和維持活動に類する活動、テロ対策などの分野で韓国やオーストラリアなどとの協力が重要と指摘。北朝鮮の不安定な現状を考慮すると、朝鮮半島の統一シナリオや、万一の偶発的事故に備えた日米の連携についての議論が必要だとした。

 アジアでの米軍プレゼンスについて、長期的展望としながらも、朝鮮半島統一後は、日本と統一後の韓国が米軍のホスト国になるとの考えを披露。米軍駐留負担をアジア各国で分担することを含め、開かれた議論の必要性に言及した。

 アルデン氏は、菅直人首相が所信表明演説でTPP交渉への参加検討を表明した点に着目。慎重だった日本が貿易自由化の具体策に踏み込んだ理由の一つは、米国がアジアにしっかり関与し続けることが日本の利益になると判断したためであり、この認識は「中国との(尖閣諸島)事件で強まった」と分析した。

 さらに中国の台頭をめぐっては、1990年代まで通商政策で衝突してきた日米両国は、中国の経済的台頭への対応を模索するなかで、共通の利益を一層強く認識するようになっていると指摘した。

 スミス氏は尖閣諸島の事件をめぐり、海外からは、事件は単なる日中の2国間問題ではなく、中国との関係に戸惑っている各国共通の関心事として認識されていることを、日本はきちんと理解することが重要だと指摘した。

 また同じような事件が再発した際に深刻な対立に陥らないよう、中国も交え、危機管理・対処の方法をさらに改善していく必要性を強調した。

●為替問題 欧米諸国と連携を

三木谷浩史氏 セバスチャン・マラビー氏

 第2分科会では、企業経営や環境、核拡散、通貨政策などについて意見を交わした。

 三木谷氏は、米国留学を経て、銀行員から起業家に転じたキャリアを紹介。2000年の株式公開以降、成長を続けてきたが、国内市場の縮小などを背景に、最近は海外展開を図っていると説明した。

 海外との情報交換の重要性を痛感し、社内言語を英語に切り替えたことや、海外の大学を卒業した学生を積極的に採用している実績を強調し、「日本の若い企業も、グローバル企業になれることを証明したい」と語った。

 最近の為替相場について三木谷氏は、円高は海外進出を進める企業には追い風だとし、「この機会に外資企業を買収できないのは、海外組織を管理する能力が欠けているからだ」と指摘。日本企業は国外ビジネスの管理能力を磨く必要がある、と説いた。

 吉田論説委員は、核不拡散や気候変動など日米が幅広く安全保障に取り組む現状を「重要で新しいステップだ」と位置付けた。核不拡散条約(NPT)は核保有国が誠実に軍縮に取り組むことを求めており、核兵器の役割を減らす方針を示した核戦略見直し(NPR)やロシアとの新軍縮条約署名など、米国の動きは「NPT体制の強化につながると信じている」とした。

 マラビー氏は通貨外交に焦点を当てた。世界の成長を先導してきた米国の消費が落ち込み、それを政府支出で補おうとして財政赤字が膨らむ構造上の限界を指摘。「消費を増やさなければいけないのは(貯蓄がふんだんにある)日本やドイツだ」と述べた。

 また、中国の消費が十分に拡大しないのは「政府が市場をゆがめている結果」だとし、為替問題で中国に改善を求めても効果は期待できない以上、日米は欧州諸国などと連携し、共通の戦略をもって中国の態度を変えるのが最善の方法だと語った。

 その上で日本の為替介入について「間違った方向に転がり始めている」と批判。「経済・通貨分野で日本が水準以下の役割しか担わないのは正当化できない」とした。

●報告 お互いの強み、持ち寄るべきだ 本社主筆・船橋洋一

船橋洋一氏

 日米同盟は数々の課題に直面している。一つ目は、(ハース氏が提案した)グローバルパートナーシップに進化するのか、それとも中国の台頭など環境の激変を受け、(東アジアにおける防衛という)基本に立ち返るべきなのか、という問題だ。同盟の再定義と再確認を同時に行う必要がある。

 不透明さを増す北朝鮮について、日米と日米韓は不安定シナリオに備えなければならない。朝鮮半島の将来の統一をも見据え、どのような統一ビジョンが北東アジアの平和と安定にとって望ましいのか、米韓と密接に連携し、中国とも協議を深めるべきだ。

 二つ目は同盟の相互補完機能の強化だ。多様化する脅威には軍事力だけでは対応できず、非軍事の貢献が欠かせない。日本の強みは民生力(シビリアンパワー)だ。日米は同盟の効果を最大化するため互いの強みを持ち寄るべきだ。

 鳩山政権で日米同盟が揺らいだ時、アジア諸国から懸念の声が相次いだ。日米同盟が東アジアで安定力として認知されてきたことを逆に示していた。東アジアの友好国とともに日米同盟の安定力を定着させ強固にする工夫が必要だ。

 三つ目は、日米同盟と地域の枠組み形成をどう結びつけるか。自由貿易協定(FTA)、とりわけ環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に日本も参画し、日米が提携して「自由で開かれた国際秩序」を作ることだ。

 懸念は中国の動向だ。過去30年間、慎重な外交を続けてきた中国がなぜ突然、海洋問題でこうまで攻撃的なのか。中国とは「関与、しかし保険」の姿勢で臨む。日米中の政策対話も始めるべきだ。

◆日本の厳しい現実、指摘相次ぐ

 今回の会議を開くに当たり、CFR側と話し合ったのは「普天間」を超えた議論をしようということだった。

 おおむね成功したと自負しているが、その結果、見えた「風景」は、日本にとって実に厳しいものだった。

 ハース氏は、日本が基地問題に拘泥する「驚くべき視野の狭さ」ゆえに、本来の能力、役割を十分に果たしていないと批判。グローバルパートナーとしての資質に疑問すら投げかけた。

 会議では「日米」をさまざまな角度から議論したが、いずれも「中国」に行き着いた感が強い。

 ただ、国力とともに主張をも急速に強める中国にどう対応するかについては、そう簡単に答えは出ない。尖閣沖衝突事件がその象徴といえる。

 だからこそ、日米関係を単なる「同盟」から「真のパートナーシップ」へと深めることが求められるわけだが、その道は容易には開けないこともはっきりした。(加藤洋一)

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 写真はいずれも加藤里美氏撮影。