●地域の「宝」掘り起こし、知恵を出し合い磨く
●「生産力・加工力・販売力」の三拍子で相乗効果を
地域を主役にした仕組みに日本を造りかえよう、と前回まで提言した。ではそのうえで、疲弊する地域経済を立て直すにはどうしたらいいだろうか。
各地の成功例には、そのヒントが隠されているはずだ。
日本海に面する兵庫県豊岡市で、不思議な光景に出会った。農閑期なのに、あちこちの田んぼで、田植えの前のように水が張られているのだ。こうすればイトミミズが増えて土が肥え、雑草が生えにくくなる。無農薬や減農薬の栽培がしやすくなるという。ドジョウなどの水生動物が増え、コウノトリの格好のえさ場にもなっている。
日本のコウノトリは71年、この地域で絶滅した。農薬が命を縮めた。その後、人工飼育に努め、いま野生復帰したコウノトリ19羽がこのあたりに生息する。
この方法で03年に米を作り始めた時には栽培面積が1ヘクタールもなかったが、4年間で157ヘクタールへ広がった。
この秋、イトーヨーカ堂が始めたネット通販の新米に、ここの米が入った。5キロ3620円。新潟の南魚沼産に続いて2位の高値だ。安めの米の3倍近い。コウノトリがすむ田の米は安全でうまいという評価が定着したからだ。大阪市内の生協の組合員との交流も生まれ、顔の見える取引が増えている。
食材のグローバル化が進む一方で、安全安心への需要が高まっている。農業に活路を見いだすには、このように「安全な食の供給基地」をめざすことが大切だ。そして、ネットも活用しながら消費者を直接つかんで独自の販路をつくる。いちどは絶滅したコウノトリが、そうした方向を暗示している。
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過疎地は日本の面積の半分を占める。雪深い新潟県の旧安塚町(現上越市)でも高齢化が深刻だ。だが、暗い影があまりない。民泊して農村体験する小中学生らが年間900人も訪れる。笹(ささ)だんごを売ったり、米のオーナーを募ったりと都会との交流が盛んだ。高齢化の進んだ集落が、こうした共同事業で年間1700万円を稼ぐ例もある。
きっかけは、厄介な「雪」をお金に換えたことだった。21年前、町は雪だるま形の容器に雪と地元の特産品を詰めて出荷してみた。これが当たった。
元町長の矢野学さん(67)は、さらに活用を思いつく。冬場に積もった雪を建物の地下にため、夏場の冷房に使う。これを高齢者施設や中学校へ広げ、大幅に電気代が節約できた。雪室で米や酒を貯蔵する事業も軌道に乗った。
雪による町おこしが呼び水となり、宿泊体験者が相次ぐようになった。
矢野さんは「商売する集落になろう」と呼びかける。知恵をしぼって、地域のハンディでさえ得意技に変えてしまう。それが現金収入に実れば、住民のやる気と自立心がさらに育つのだ。
商店街に目を移そう。劇的に変わった街が滋賀県長浜市にある。「黒壁スクエア」と呼ばれ、約300メートル四方にレトロ調の店が並ぶ。むかし豊臣秀吉が長浜城主のころ、「楽市楽座」という無税の規制緩和街として栄えたところだ。
88年4月に調べたら、商店街の人通りが日曜の1時間でたったの4人。大型店進出のあおりで、さびれきっていた。
そのころ、「黒壁」の愛称で親しまれていた旧銀行の建物が取り壊されそうになる。中小企業経営者らが市と協力して建物を買い取り、翌年、ガラスを中心にした街づくりに乗り出した。建物は「黒壁ガラス館」として再生された。
ガラスに縁はない土地だったが、欧州産を含め工芸品を展示販売したら受けた。各地から制作家が集まり、いまやガラス工芸の街として知られる。
近くの北国街道沿いの古い町家が、工房やギャラリーに改装された。県外の人が経営する店も多い。街路は楽市楽座時代の区割りそのままによみがえった。いま、年間200万人を呼び込む。
ものづくりの分野でも、伝統技術を生かして世界に輸出しているところがある。洋食器で知られる新潟県燕市では、磨き工程の下請け会社群が、アップル社の携帯音楽プレーヤー・iPod裏面の鏡面仕上げを担当した。
国内有数の筆の産地、広島県熊野町の業者は、高値で売れる化粧用の筆に技術を応用し、海外に販路を広げる。
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「第6次産業」という造語がある。
1次は農林水産、2次は製造加工、3次は販売サービス業だが、三つの数字を足しても掛けても、答えは「6」。掛けた場合は、どれかがゼロになると結果もゼロになってしまう。
もとは、加工・販売まで一貫した農業づくりを提唱した言葉だが、地域経済にとってもこの相乗効果が欠かせない。
自然や歴史、伝統といった足元の「宝」を掘り起こし、加工し、付加価値をつける。そして都会のニーズをつかみ売り込む。ここに取り上げた各地は、その総合力で自立の鍵をつかんだ。
活性化といえば、いまだに公共事業や補助金を霞が関へ陳情するのがお定まりだ。だが、外からのお金に頼っているかぎり、自立はおぼつかない。
地域がもつ知恵を出し合うことこそが「宝」を磨くことになるだろう。