朝日新聞社から
企業情報 営業の窓口 イベント・賞 研究・教育 アスパラクラブ
  asahi.com > 朝日新聞社から > 【社説】希望社会への提言
希望社会への提言
8.産業力Aクラスを保つ3本柱
2007年12月17日付


●生活密着型のサービス産業を守備の要に
●金融を鍛え、ものづくりを磨いて反転攻勢へ

 少子高齢化が進むなかで、福祉水準を維持する。それを支えるのは企業の活動であり、私たち国民の労働だ。

 経済のグローバル化や人口減少といった激しい変化のなかで、どうしたら成長を続けていけるか。希望社会の経済基盤について、数回にわたり考える。

 戦後の日本経済を、野球のシーズンに例えてみよう。

 序盤は電機や自動車などの製造業が活躍してたくさん点を取り、首位争いに加わった。ところが中盤に至り、成功に浮かれてバブル破裂というエラーが続出、元気づく下位チームに追い抜かれそうだ。これからは守りを固め、打力も磨いて、末永くAクラスを確保したい。

     *

 守備の要にふさわしい産業は何だろうか。その一番手として、健康・福祉・子育て支援といった生活に密着したサービスをあげたい。少子高齢社会の到来でニーズが高まる一方だからだ。

 これまで公的機関に任され、民間企業や非営利組織(NPO)が参入しはじめたばかりの分野でもある。民間の知恵で仕事を効率化し、サービスの質を高める余地がたくさんある。輸出依存の経済構造を内需型に変え、雇用の受け皿にもなる有力な守備陣だ。

 とはいえ、道はまだ遠い。この夏に表面化した介護事業会社コムスンの不正がそれを物語る。そのなかで、介護サービスの報酬が低すぎてヘルパー不足に陥っていることが明らかになった。

 介護保険制度は始まってまだ8年目。介護の現状をよく見ながら、制度を改革していくことが大切だ。劣悪な労働条件を改善すれば人材も集まり、老後を支える安心産業へ成長していける。

 福祉に限らず、サービス産業は経済成長を続けられるかのカギを握る。通信や流通から観光、人材派遣まで幅広く、国内総生産(GDP)と雇用数のそれぞれ7割を占めながら、生産性が製造業に比べても海外先進国に比べても低いからだ。これでは給料も上がらない。

 医療や介護のような社会的サービスは生命と安全にかかわるので厳格なルールが必要だが、民間の力がリスクをとって挑戦できる分野を広げたい。

 さて次に、攻守両面で鍛える必要があるのが、広い意味での「金融力」だ。これを二番手にすえたい。

 海外との取引を示す経常収支の黒字が拡大している。海外投資から得られる利子・配当の黒字が急増したのが大きい。稼ぎ頭だった貿易の黒字を、投資の黒字が05年から上回るようになった。

 長年の貿易黒字が海外投資として積み重なった結果だ。日本経済は貿易よりも投資で稼ぐ体質へ変わりつつある。

 ただし、投資の収益率は米国や英国に比べてまだまだ低い。機関投資家の金融技術が未熟で、運用先が低金利の債券投資に偏りがちだからだ。

 高齢化が進んで新興国の追い上げを受けると、貿易黒字が減っていくかもしれない。でも、海外にためた巨額の資産からもっと稼げれば怖くない。米国や英国は早くからこれに気づき、効率的な海外投資で国民生活を支えてきた。

 英国は金融を自由化して外資の進出を歓迎し、金融力を高めて雇用と税収も増やした。外国選手が活躍するテニス大会になぞらえ「ウィンブルドン現象」と呼ばれる。日本も野球で外国人の選手や監督が活躍しているように、もっと市場を開いて金融を鍛えるべきだ。

 海外投資だけでなく国内でも、将来有望な業種や企業へ資金を回し育てていく機能は、成長を保つうえで欠かせない。

     *

 最後は「ものづくり」である。前半リードの立役者だが、今後も頼りにすべき主力打者だ。ここで勝ち星を稼ぐ。

 自動車産業を例にとろう。いまや収益の大部分は海外生産だ。国内は人口減で需要がしぼむから、中国やインドに工場をつくり欧米メーカーと競争する。

 やがて途上国のメーカーも育ってくるが、他を寄せつけない製品をつくれば、国際競争に勝ち続けることができる。代表がハイブリッド車や燃料電池車だ。地球環境の悪化によって、環境を守る車こそ市場が求める商品となっている。

 途上国の攻勢の前に沈んだかにみえた鉄鋼産業も息を吹き返した。プレスしてもひび割れせず塗装もしやすい自動車ボディー用の鋼板など、高級品をつくるノウハウを生かしたのだ。

 これまで他の先進国の後塵(こうじん)を拝してきた分野へ果敢に乗り込む動きもある。いま進行中の国産ジェット旅客機プロジェクトだ。あまり注目されていなかった新人選手が、チャンスを与えられ大活躍する。そんな夢もある。

 農業から製造業へ、さらにサービス業へと、産業の構造は変わっていく。グローバル化は国際分業を促し、途上国に譲らねばならない分野も出てくるが、要は高く売れる価値をつくり出せる産業が生き残るということだ。

 その主役はのびのびと競争する民間プレーヤーであり、市場に支持された者がスタンドの喝采を浴びる。

 政府はルールや競争環境の整備とか教育、研究開発の支援に徹するべきだ。野球でも監督やコーチがやたらとベンチから出てきては、観客は興ざめだ。

当サイトの記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 朝日新聞社から | お知らせ一覧 | 個人情報 | 著作権 | リンク | サイトマップ | お問い合わせ・ヘルプ |
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.