●得意技を編み合わせ、国際競争を生き抜く
●息の長い雇用で、働き手の可能性を引き出す
経済大国ニッポンを築きあげたのは「先進国に追いつき・追い越せ」型の産業だった。都会の大企業、地方の工場、周辺の下請け・孫請け会社というピラミッド型の産業構造から、安くて良い製品を世界へ送り出した。
これが機能しない時代になった。新興国の猛烈な追い上げを受けて工場が次々と海外へ移り、並行して情報技術(IT)の大波が世界を襲ったからだ。ピラミッド型に代わるものはなにか。
それは、専門的な技術やノウハウをもつ企業が網の目のように結びつくネットワーク型の産業構造ではないか。
雇用の7割を担う中小企業こそ、その主役といっていい。単純な下請けから脱して得意技を極めた会社へは、世界中から注文が集まっている。
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東京・杉並の駅前繁華街に本社がある根本特殊化学は、夜光塗料を作って時計の文字盤に塗る下請け工場だった。納入先の海外移転や、塗料が出す放射線の問題などで何度もがけっぷちに立った。
だが、そのたびに知恵をしぼり、10倍長持ちして放射線を出さない夜光塗料を独力で開発した。いまでは世界の夜光塗料生産の8割を握る。
技を極めるとネットワークが広がる。テレビなどの薄型画面に使う蛍光剤も開発し、電機業界をお客に加えた。放射線管理のノウハウを生かして、放射性物質を使う動物実験を大手製薬会社から受託する事業にまで乗り出した。
京都市の近辺では、任天堂や京セラのようにユニークなハイテク企業が本社を置く。そのまわりには、高度な部品やサービスを供給する中小企業群が育っている。だがそれは、かつてのような親子関係に頼った企業城下町ではない。
開発意欲を刺激しあいながら互いの得意技を活用し、全国や世界へ向けて取引先を網の目状に広げている。こんな企業群を各地に展開して、21世紀の産業構造をつくっていきたい。
その中心になるのは「人」だ。
先の根本特殊化学は、もとからいる社員の工夫を大切にしながら、大企業を途中でやめた技術者を積極的に採用し、新たな分野を開拓してきた。
人の力が大切なのは先端的な仕事だけではない。企業の競争力を支えるのは、つまるところ社員一人ひとりである。その働く力を高めることだ。
岩手県北上市は高度成長期に工場誘致で実績をあげたが、円高などで仕事を海外に取られた。この苦い経験から「空洞化しない企業誘致は人づくりから始める」という方針を決めた。
コンピューターを使った三次元設計ができる人材をまとめて育成している。自動車などのメーカーは三次元設計の技術者が不足している。この仕事なら、機密保持もあって海外に取られにくいだろう。職業訓練校や大学と連携して学生や若手社員を教育しており、やがて「地場産業」へ育てていく構想だ。
社員の力を十分に引き出すにはどうするか。ひとつのヒントがある。
非鉄金属の老舗(しにせ)DOWAホールディングス(旧同和鉱業)は、東京駅近くの古いビルを飛び出し、秋葉原の電気街を見下ろす高層ビルへ引っ越した。
南北140メートルのフロアをぶち抜き、約400人が働く。机はフリーアドレス。毎日どこに誰が座ろうと自由だ。問題が起きると、担当者のほか、法務や技術などの関係者が集って解決する。こんな仕事ぶりが板についてきた。
部署ごとの小部屋に分かれていたときは、部屋の壁が心の壁になり、自分の仕事に閉じこもっていた。働き手が必要に応じて結びつくことで能力が引き出される。産業がネットワーク型になると、働き方も網の目状になることが必要だ。
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バブル後の不況から脱出するため、企業は必死でリストラを進めた。その的になったのが「人」だ。新卒採用を抑え、派遣や請負により業務を急激に外部化した。社内では、成果主義を導入してとくに中堅層の給料を抑制した。
厳しい人件費カットが奏功して企業は立ち直ってきた。だが後遺症も大きい。人材の力で勝負すべきこの時に人材の劣化が進んでしまったのだ。仕事のノウハウを伝えて後輩を育てるシステムが機能しなくなり、働く意欲も低下した。
人を育て社員の力を十分に引き出すには、雇用を長い目で見る必要がある。
景気が回復し人手不足の環境へ一変したことも手伝って、リストラ路線から方向転換する会社が出てきた。
アパレル大手のワールドは、直営店のパートやアルバイトを販売子会社の正社員にした。お客と向き合い、その声を会社へ伝える人が将来に不安を抱えていては、能力が発揮されないからだ。
成果主義の賃金を手直しし、中堅層の役割を再評価する動きも出ている。
とはいっても、かつての終身雇用と年功序列にただ戻るのでは、解決策にならないだろう。転職しやすい流動的な雇用環境は、働き手の気持ちにもネットワーク型の産業構造にも適している。
それぞれの企業の文化に合ったやり方で、長期で安定した雇用慣行を新しくつくっていくことが大切だ。
次週は雇用の問題点について考える。