●「働けば食える」仕事の提供は企業の責任だ
●就職氷河期の世代にセカンドチャンスを
働いても収入が少なく、まともに食べてさえいけないワーキングプア(働く貧困層)が広がっている。
背景にあるのは、経済のグローバル化だ。工場が新興国へ移るかもしれない。日本の労働者が、海の向こうの安くて豊富な労働力との競争にさらされる時代になった。加えて、バブル後の不況から脱出するため企業が人件費をリストラし、賃金低下に拍車をかけた。
いまや、年収200万円以下が1000万人を超えた。働き手の3人に1人、約1700万人は正社員以外だ。家賃を払えずインターネットカフェに寝泊まりする人が、とくに若い世代で増えている。
社会を支えるはずの若い世代が、自分の暮らしも維持できない。これが私たちの目ざす社会だったのか。
このままでは、高齢者が増えていったときに立ち行かなくなる。貧富の分裂が進み、社会の基盤を揺るがしかねない。そんな恐れさえ感じる事態だ。
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そんなことにならぬよう、今のうちから手を打たなければいけない。そこで、取り組むべき柱を三つ提案したい。
第一は、働く土台を安定させ、底上げしていくことだ。
労働規制を立て直して不安定な働き方を抑え、「同じ価値の労働に同じ賃金」という均等待遇をめざす。さらに非正社員も雇用保険や厚生年金に加入させる。これまでに私たちはそう提案した。
これを一歩進めて、働いても食べていけないような最低賃金を引き上げる。労働者派遣法を見直して、日雇いのような働き方を減らす。
これらは企業の責任だとはいえ、大きな負担に違いない。企業を追い込んで肝心の雇用を減らさぬよう、慎重に進める必要がある。苦しい中で大幅な改善策を打ち出した会社には、法人税を軽減するなどの支援策もとりたい。
貧しい層でもとくに配慮すべきは、不況のさなかに社会へ出た就職氷河期の世代だ。いま20代半ばから30代。多くがなお安定した職につけずにいる。
この年代層が少なく人員構成がゆがんでいる会社も多いのだから、中途採用する手立てを考えられないか。とくに政府や自治体は率先して採用すべきだ。
均等待遇をめざすと、正社員の給料が下がることも考えられる。最低賃金を上げると、物価上昇に跳ね返ることがあるかもしれない。つらいことだが、社会を健全に保つコストだと考え、受け入れざるを得ないだろう。
第二の柱は、貧しい層の生活を支えながら、自立を促すことだ。
不安定な低賃金労働が広がり、家族や親類、友人を頼れなくなった人も多い。「どこかで転ぶと下まで落ちてしまう。いまの日本は滑り台社会」。貧困問題に取り組むNPO法人の事務局長、湯浅誠さんはそう実感する。
転んだときには早めに手を差し伸べ、再び職を得て自立できるよう支援することが大切だ。貧しい生活が長引くほど、再出発が難しくなるからだ。
その意味で、生活保護は運用を見直すべきだ。現状では、現役世代はなかなか受給が認められない。不正受給を排除するのは当然だが、本当に困っているなら支給して、自立へ導く方がいい。
東京都には最近、ネットカフェ難民からひっきりなしに電話がかかってくる。部屋を借りるとき60万円まで無利子で貸す制度を始めるからだ。部屋探しを手伝ったり、仕事探しなどの相談に乗ったりと、総合的に取り組む方針という。
自立できるまで一時的に住める公営の寮を増やすのも一案だ。
職につくには、まず生活指導から始めなければならないケースもあるだろう。自立支援は手間ひまがかかって大変だ。だが、貧困を減らせるかどうかは、ここにかかっている。
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職につくときも、ついてからも、仕事の能力を向上させることが欠かせない。それが第三の柱である。
新興国の人たちよりも高い能力を身につけないと、新興国の低賃金に引きずられる。グローバル経済の宿命だ。経済のソフト化が進んで、知的能力が経済発展を左右するようになっている。
職業能力の向上は企業がかなり担っていたが、終身雇用が崩れて転職がふつうになってきた。非正社員や失業中の人も能力を高められる仕組みを、社会的に充実させなければならない。
若者たちの失業が日本より早く深刻になった英国などでは、職業訓練に力を入れたことが知られている。
貧しくて訓練を受けられない人には、訓練中の生活を支えることも必要だ。きめ細かく自立と能力向上を支援するのは、地域政府の役割だろう。
人材が育てば企業の力になる。給料が上がれば、消費が増えて売り上げも向上する。当面は費用がかかって負担になるが、結果としては、社会全体にとって大きなプラスになるのだ。
日本は新興国の追い上げを食らい戦々恐々としている。だが少し前まで、そんな日本が欧米を追い上げていた。
欧米はそれをどう切り抜けようとしてきたのか。その成果と苦労に学びつつ、新しい貧困を克服していきたい。