20年後の日本は少子高齢化が一段と進み、社会の様々な側面が大きく変わることでしょう。その時に、どうしたら一人ひとりが生きがいや働きがいをもって暮らしていけるのか。
そんなことを考えて、朝日新聞は昨年10月から毎週1回、シリーズ社説「希望社会への提言」を掲載してきました。
24本のシリーズを終えるにあたり、提言をどう受け止めたか、そして希望社会の実現に向けて何が必要なのか。4人の論客に語り合ってもらいました。司会は本社コラムニスト若宮啓文(前論説主幹)。
◇夢をもって農業考えよう 前官房長官・与謝野馨氏
最も感心したのは、国の予算を「安心勘定」「我慢勘定」に分ける考え方です。安心勘定とは、税として納付したものが自分たちに返ってくる、という思想が端的に分かる表現です。
我々も社会保障の勘定とその他の勘定に分けるという考えまでは行き着いたが、その先のアイデアが出てこなかった。今後、消費税を含めた増収を図るとともに、国民の理解を進めるうえで、重要な考え方になります。
農業の重要性を指摘した回も印象に残っている。私は最近、安い食料の時代は終わったという認識を強くしている。量の確保、安全な食料の確保の面からも、もう一度、日本の農業をよみがえらせなければならない。
欲をいえば、やがては輸出産業になるまで育てる。増え続ける世界の人口、向上する途上国の生活水準、環境問題などを考えると、そういう壮大な夢をもって国内の農業を考えることが必要だと感じます。
◇新しい「幸福の質」追求を 民主党代表代行・菅直人氏
私は以前から「最少不幸社会」という考え方を言っています。幸福のあり方は人により多様で自由なので、政治の最大の役割は、不幸になる要素をできるだけ少なくすることにある。
この提言も、そういう考え方と共通していると思う。ただし、モノやエネルギーをぜいたくに消費する生活が幸せなのか。省エネ型の生き方というか、「幸福の品格」とでも呼ぶべきことも問われる時代になった。
提言に「もったいない、ほっとけない、へこたれない」という言葉が出てくるが、「もったいない」は環境問題を含め幸福の質を考えるキーワード。「ほっとけない」は、他人の役に立つという連帯にかかわる問題です。
「へこたれない」は、何でもお役所任せじゃなくて、多少手間がかかっても、自分たちが参加して、自分たちの街は自分たちでつくっていく。そういう新しい「幸福の質」をいかにつくっていくかが、大切だと思います。
■希望社会阻むのは官僚制? 組織優先、資源配分ゆがむ(菅氏)
若宮 私たちが描いた未来像は、欧州型の高福祉・高負担でも、米国のような社会でもない「中福祉・中負担」の社会。それを実現するには互いの助け合いが欠かせない。そこで「連帯型福祉国家」をキーワードにしました。
与謝野 日本の福祉レベルは「中福祉」まで行っています。これを維持していけるのかという問題意識が、朝日新聞がこういう提言をした背景にあるのではないか。富をつくり出す力がないと社会保障も維持できない。国際競争を勝ち抜く独創性のある経済力を構築できるかどうかは、ここ10年間ぐらいの大きな課題だと思います。
国民の総体が国。だが、課税最低限が非常に高くて所得税を納める人が少ないため、所得税を通じた国と国民との関係が断ち切れているのではないか。社会保障を支え合っていくうえで心配です。
菅 希望を失いかけている原因がどこにあるか。やや乱暴な言い方ですが、明治維新から40年は坂の上の雲をめざして成功したが、1905年の日露戦争後の40年は敗戦へ向かって大失敗する。それから85年ぐらいまでの40年が高度成長の時代。その後20年ほどたち、まさに第二の敗戦に向かっている。この40年サイクルを調べると、官僚の権力の自己肥大化とともに失敗が始まっているんです。
戦後は官僚も少ない資金で一生懸命やった。東京五輪で東京・大阪間の新幹線をつくったときは節約し工夫した。その後お金がじゃぶじゃぶ入るようになると、「節約したって、どうせ入ってくるんだから」と、コストを無視して道路をつくった。省庁が組織肥大化のために予算を使うから、資源配分が非常にゆがむという問題が起きています。
若宮 官僚機構は最大のシンクタンクだと言われて……
菅 いや、官僚機構自体が権力。官僚機構が主人公で、族議員はその番犬なんです。マスコミがシンクタンクなんて言うから分からなくなる。
若宮 いやいや、自民党がそう言ってきたわけで。その力が落ちてきたのでは。
片山 シンクタンク的な機能はないと思ったほうがいい。今の官庁は、最初から結論を決めているんですよ。その判断基準は、どうすれば自分たちの権益を守り、拡大できるか。今回の日銀総裁人事もそうかもしれないが、自分たちが決めたものが崩されると、代替案がない。
そこに自民党が乗っているものだから、随所で足元をすくわれているわけです。この官僚集団を真っ当にしなければ、どの党が政権とってもやっていけない。天下り先を確保するために、予算と権限を死守している。霞が関改革は政治の基軸でしょう。
与謝野 私は、官僚集団は志の高い集団だと思います。そこを否定してかかると、彼らもやる気をなくす。政治主導というのは、細かいことを何から何まで政治家が決めるという話ではない。社会全体としてどちらに進んでいくのか決断をするのが政治の役割だろうと思うんです。
方向を決めておいて、後で責任をとらない政治家が多いから役人も嫌になっちゃうわけで。決めた方向の結果については政治家が責任をとる。これが正しい政治主導ではないかと思います。
川本 日本のあらゆる人たちの考える力が落ちている。官僚も、メディアも、政治家も。みんな自分たちの役割をきちんと果たしていない。政治家みたいな官僚とか、政治家みたいな記者とか。もともとの役割をいま一度確認し、それを本当に機能させるにはどうしたらいいか考え直さない限り直らない。
政府の審議会の委員とかやってますけど、政府の機能不全が起きてるから第三者委員会が要るわけですよね。でも委員会がいくらあっても、官僚や政治家に改革をやる気がなければどうしようもない。官僚はスタッフのはずなのに、長期政権が続いたため自民党員みたいになっている。そこが一番おかしい。
■消費税率引き上げの条件 官の肥大化に使わせない(与謝野氏)
若宮 私たちは「安心勘定・我慢勘定」という考えを提案しました。この先いろいろ節約するにしても、消費税率がいずれ2ケタになるのは避けられないだろう。その覚悟を避けていると大きな政策論ができないと考え、あえて打ち出したんですが。
菅 スウェーデンやデンマークでは負担が非常に高い。なぜ国民がそれを認めているのか聞いてみたら、貯金して自分の将来を守るより、税金を払うことで医療とか老後とかを守れる、と理解して働いている。政治への信頼、政策の透明性があります。
5千万件の年金記録にしても、税金や保険料がまともに使われない限り、だれも負担したくなくなる。我々が現時点で消費税増税に反対しているのは、ここを緩めると、浪費をやめないで「借金返し勘定」の方にどんどん投入されるのではと考えるからです。
片山 今の財政は、歳入と歳出の差がどんどん開いている。何とかしないといけないが、国も自治体も水漏れが激し過ぎる。人件費でも、国家公務員だけじゃなく官庁の周りに公務員もどきがいっぱいいる。道路特定財源であぶり出されたが、「何とか整備協会」などという意味のない法人にたくさん。あの人件費も結局は税金なんです。
それから、年度末に予算の使い切りをやる。鳥取県知事のとき職員の意識改革から始めて3年ほどかかったが、税収が500億円しかないのにそれをやめさせたら、一般財源で200億円ぐらい出てくる。政府も消費税を上げようとするのなら、こんなムダな水漏れは直さなければ。
川本 消費税率は最終的には上げなくてはいけないだろうが、あまりにもだらしない無駄が多いですよね。それを放置してでは納得できない。チェックシステムがないから使いたいだけ使って。最近は手遅れだと気づいたにもかかわらずまだ使っている。
片山 実は、福祉や教育分野の「安心勘定」のほうの水漏れが激しい。新しい施策をやると、必ず官僚の天下りとか利権が埋め込まれている。それを排除しなければ、安心勘定だからといって、消費税率を上げて税金をつぎ込もうと単純にはいかない。
菅 私たちは年金制度改革の中で、歳入庁を提案している。消費税が誕生したころ、ある自治体の人が「私たちが育てた物品税が持っていかれた」と残念がっていた。「仕事が減って楽になる」と喜ぶんじゃなくて。税を取るのは権力なんですよ。税を取るところに天下りがある。
国と地方に共通する税金は歳入庁がまとめて取ればいいし、場合によっては社会保険料もいっしょに取る。税の公平性を高めるには、納税者番号を含めてやらざるを得ない。そういうインフラの整備が、安心勘定を生かす一つの基本だと思うんです。
若宮 提言に対し読者から「よくぞ言った」との声と同時に、無駄遣いをなくすのが先だとの批判をいただいた。みなさんも厳しいですね。
与謝野 官の肥大化を懸念しているのだと思う。仮に社会保障のため税率を上げることになっても、官の肥大化には一切使わせない。「社会保障還元税」というか、一時お預かりして社会保障へ還元するための税、という性格を持たせないと、国民の理解が得られないと思います。
■分権時代の国のかたち 縦割りから連帯型に(片山氏)
若宮 提言の大きな柱は地方分権です。これを徹底し「地域政府の連合体」というぐらいの発想でいこうじゃないかと。中央官庁の無駄をうんとそいで、住民が監視しやすい地方でいろんな知恵を出していく。将来的には参議院を地域政府の代表にしたらどうかとも提言しました。
片山 パラダイム転換として、中央官庁の縦割りから地域連帯型に変えることが必要です。官僚制は末端まで縦割りの「円筒型」行政になる。地域の教育・福祉・医療がそれぞれの円筒で分断され、受益と負担の関係が切れている。縦割りを解除して、みんなで連帯するよう地域を変える。そこから効率のいい行政が生まれるのではないか。
失敗するところは必ず出ます。けれど、全部のできが悪くなるよりは、自治体のいくつかは失敗しても、多くは自分たちの納得がいくようにやるほうがいい。失敗したら再出発すればいいし、サポートもする。一つの失敗も許さないよう中央官僚がすべて縦割りにしている今の仕組みは、実は全部が失敗しているのかもしれないですね。
若宮 川本さん、経済の合理性からはどうですか。
川本 小さいとチェックが利きやすいから、分権は考えるべきです。ただし、中央からお金を持っていくのではなく、地方は自立する発想がないといけない。アイルランドと北海道は寒冷地で似た大きさですが、アイルランドはあれだけの経済成長をとげている。北海道はずっと補助金漬け。分権すれば、自前のお金でこんな立派な橋や道路が要るのか、自分の問題として考えるでしょう。
若宮 民間経済の活性化にもつながってほしいと。
川本 つながるよう設計する。自立型の地方をどう設計するかが大事です。
菅 分権は望ましいが、だれも反対しないけれど、全く進まない。進めるにはお金と権限を握っている中央を壊さないといけないんです。国がやることを外交・防衛・通貨・年金の基礎的設計などに限定する。江戸幕府がやっていたことは国が、長州藩や会津藩がやっていたことは県なり市にと。中央政府の権限限定法をつくって線を引かないと繰り返しになる。
若宮 そこですね。自民党も分権を言ってますが、本音と建前が違うのでは。
与謝野 最大の障害は、地域間の財政格差です。調整するのは中央集権的にならざるを得ない。また、分権を完成形にするには地方で税を取る。例外を除くと県も市も税を取る苦労はゼロ。首長も議会も、住民に税の負担をお願いすることから始めないと、地方の独立性は生まれません。
片山 地方自治で一番重要なその要素が欠落している。共同でやる仕事を決めて費用は分担しようというのが自治の基本。そうすると、仕事量に応じて税率は毎年変わるはずです。ところが、日本では税率は国が決めて、これ以下にしてはいけないとなっている。自治体がこの基本を取り戻せば、無駄遣いをやめようとなり、地方自治が生き生きしてくるでしょう。
若宮 地方交付税を「地方共有税」にして、その配分は中央官庁ではなく、参院に地方代表の機能をもたせ、そこに委ねるのも一案か、と提言しました。
菅 個人的にはそう考えています。再配分機能はどこかにつくる必要がある。財務省とか国会ではなく。同じ国会でも、国の機関から独立した地方代表議会でもいいかと思うんです。
■少子化どうする 子の数に応じて税率下げる(川本氏)
若宮 この社説シリーズのあちこちに、少子高齢化の問題が出てきます。日本の悩みの根源はそこにあるのかと思います。少子化を何とかするために思い切ってお金をつぎ込んだらどうか、と考えて打ち出したのが「こども特定財源」。いまどき道路特定財源よりよほど大事ではないか、という発想です。
与謝野 経済が発展すると少子化が進むように感じます。国として何ができるか。「産みやすく育てやすい社会」を目標に保育所の充実とか企業の雇用慣行の見直しとか、外回りの制度を整備する必要がある。
川本 日本の少子高齢化は政策の結果ですよ。先進国共通とはいえ、日本は非常にマグニチュードが大きい。少子化の原因がわからないとかオジサン的に無責任な発言が多いが、女性が産みたい子供は平均2・3人。でも、そうならない。「産んで育てにくい政策」になっているからです。内閣府調査でも、若い世代の多くが経済的な理由で産めないと言っている。
子供への公的助成の水準は先進国で最低。育児への支援には所得制限があって、受けられない人が多い。高齢者への保護があまねく供給されているのと対照的です。65歳になると無料パスがあるのに、子供は13歳になったら大人料金。あらゆることが少子高齢化を促進する方向になっている。道路財源を子供のために振り向けた例がイタリアなどにはあるんです。
若宮 そうなんですか。
片山 私は子供を6人育てたので、日本の行政が子育てに不向きなシステムだとつくづく思います。高齢者には非常に手厚いけれど、子供には実に無関心だ。比較的大きな政党のまわりに集まってくるのはオジサンたち。子育て世代はほとんど政治に参画していない。子育ては少数政党の専売特許みたいになっている。自治体も住民に身近なわりには、オジサン化して。これだけ保育所待ちの児童や教育の問題が山積しているのに、昨今はこぞって道路でしょ。本当にピントがずれてますよ。
若宮 学校に入ってからも、問題が山積ですね。
片山 手を抜いてます。たとえば、いじめや不登校を解決する処方箋(しょほうせん)を出していない。各学校にメンタルケアの専門家を配属すべきなのに、非常勤のスクールカウンセラーの配属でお茶を濁している。教員は多忙で子供たちと向き合えない。お金がかかるので対策を取れないわけですが、そのお金は道路財源から考えるとけた違いに小さい。
若宮 提言では「考える力を」と書きました。
片山 読解力がどんどん下がってます。読書させるには学校図書館が重要なのに、これだけ手を抜いている先進国はない。東京都はじめ大都市の学校図書館には司書がほとんどいない。鳥取は貧乏県だったが、知事のとき歯をくいしばって司書の配置を進めました。都の小中学校に1人ずつ配置しても100億円程度なのに、子供へ目を向けず、ひたすら道路だ道路だというのはゆがんでます。
若宮 民主党もこの辺に焦点を当てたらどうですか。票になりませんか。
菅 いやいや、昨年7月の参院選のマニフェストで、安心して子育てできる社会のため1人につき月額2・6万円、総額4・8兆円の支援策を打ち出しました。みんながやりたい政策は寄こせ寄こせという力が働くので一般財源でもいい。逆に、声は小さいが国としてやらなきゃいけないところに予算の枠を設けるのが特定財源。将来の世代は票をまだ持ってないから、子供への政策を特別に扱うという考え方には賛成です。
欧州でもイタリアはかなり少子化が進み、フランスは出生率がかなり回復している。フランスは子供に手厚い手当を出しています。政策の差が出ている。
与謝野 フランスの例をみると、政策と出生率との相関はあるでしょうね。
川本 ポイントは税率。フランスでは子供が増えると所得税の税率が下がるので、あらゆる所得層の人が子供を産むことに前向きになれるんです。
与謝野 ただフランスは国民負担、つまり税プラス社会保険料が国民所得の65%になっている。消費税にあたる付加価値税は税率19・6%。民主党の政策に正しいものも多いと思うが、お金があれば政策はいっぱいできる。日本には、限られたお財布の中でどうやってやっていくのかという問題があるんです。
■政治の構想力を問う 基本政策では思惑捨てて(若宮)
若宮 与野党が政策で政権を争うのはいいことですが、年金や少子化問題など国の基本になるような政策は、政権が代わるたびにクルクル変えられない。いくつかの政策については政治的な思惑を離れて専門家同士が集まって決めたらどうか。大連立でないとできない、というのは違うんじゃないでしょうか。
菅 与党との協議に乗らないのは政治的思惑からではなく、自民党が官庁に抵抗力をもたないから。自民党は長い長い霞が関とのなれ合いで政治をやってきた。そこが変わらないと本当の議論にならない。だから日銀人事やガソリン税で財務省や国土交通省と大げんかしてるんです。
若宮 やっぱり政権を取らないとだめですか。
菅 霞が関を変えるのは自民党でも連立でもできない。政権を変えるしかないというのが結論です。
片山 この衆参両院の顔ぶれで何ができるかも考えないと。不正や腐敗や無駄遣いへの怒りは徹底的にこだわったらいいが、子育てや教育など国民が欲している政策は、妥協のなかで生み出さないといけない。なのに今はまるで法廷闘争のようです。法廷では最後は裁判官が裁くのを前提に、原告も被告も言いっぱなし聞きっぱなしで絶対妥協しない。国会は法廷と違う。どこかで折り合いをつけないといけない。その作業が欠けています。
菅 試行錯誤があり心配をかけてますが、与党が本気で議論するようになったのは昨年7月の参院選以降のこと。それまでは与党が参院でも多数なので、55年体制が残っていた。野党に協議を呼びかけるなら、がらっと基本政策を変え、霞が関とけんかする覚悟でないといけない。道路特定財源でそうやるか、国民も我々も見てるんです。
若宮 ねじれ国会で確かに問題点は鮮明になった。混乱は混乱だが、これを経ないと解決は見えてこないということですか。
与謝野 自民党は皆さんが考えるよりダイナミックな政党ですよ。福田首相がガソリン税の一般財源化の方針を決めたのを見てもわかると思うが、そうしろと言えば、やるだけの度胸も度量もある。ただ、国会には最後は決めないといけない宿命がある。その仕組みがないことが国民にとって不幸です。与野党協議でも連立でも政界再編でも部分連合でもいい。仕組みが必要だと思います。
菅 ものごとは決まらないのではなく、ちゃんと決まる。つまり変化が進む。暫定税率の期限が切れて、絶対下がらないと言われたガソリン価格が下がったでしょ。日銀総裁は与党が思っていた人にならないことが決まった。いまは大改革の突破口でせめぎ合っているところ。あとは、どちらの中身がいいかです。
川本 ねじれ国会に対応する仕組みがなかったので多少の混乱は仕方ないが、議論の質を高めてほしい。
片山 国会がすごくニヒリズムですね。先日の衆院予算委に公述人で出て、道路特定財源を一般財源化すべきだと述べたら、終わったあと自民党の人が何人も来て「あなたの言う通り」と言う。では結論を変えるんですかと聞くと「いや私らはもう決めているから」と。議論で物事が決まるという議会制民主主義が空洞化しちゃっている。
川本 そうなの。国会でちゃんと議論してほしい。
若宮 多岐にわたる議論をありがとうございました。未来の世代のために政治がちゃんと動き出すよう願っています。
◇「考える力」取り戻せ 慶大教授(前鳥取県知事)・片山善博氏
提言で二つの点が印象に残る。一つは日本社会の「考える力」が低下していること。戦後は効率を重視するあまり、みんなが物事を考えなくていい仕組みをつくってきたのではないか。
例えば農業。市場で売れる農産物をいかにつくるかを考えなくても、コメをつくれば政府が全部買ってくれた。農家が消費者を見る作業を怠り、農業がだめになってしまった。
もう一つは「本来の使命」が忘れられてしまったこと。官僚が国民への奉仕という使命を二の次に、自分たちの利益確保に走っている。政党も国民のための政策を掲げ実行するために多数派を形成するはずなのに、政権を取ることが自己目的になっている。この二つを取り戻すことが大切です。
私の専門だが、地方自治はもっと多様化しないと。例えば首長を選挙でなく議会で選出する自治体があってもいい。議会も地域に合わせて大胆に変える。その点で提言に賛意を示したい。
◇未来の世代を育てよう 早大教授・川本裕子氏
「税金を大事に使ってほしい」ということを、いろんな角度から書いたシリーズでした。分配ばかりを論議しがちな朝日新聞がやっと少し脱皮して、経済成長という元手がないと何もできないことにも焦点を当てた。
構造改革で格差が広がったというのは、幻影のもとでの議論。昨年の参院選で格差が焦点と位置づけられ、既得権を持つ人の不安をかきたてた。しかし、与野党がバラマキ競争へ向かっても、弱者の仮面をかぶった政治的な強者にお金を配るだけで、格差の是正にならない。是正の方策はほかにある。これでは経済発展ができない。
いちばん共感したのは「こども特定財源」のアイデアです。どうしてこんなに未来に希望がもてないかというと、子供たちを社会全体で育てる姿勢がこの国では決定的に薄いから。子供への支援はきわめて少ないのに、一方で道路ばかりつくっている。未来の世代を育てていかないといけません。
□提言のポイント
●地域連合国家と地方の府 分権を徹底して、住民の暮らしにかかわることは地域ですべて決め、地域ではできないことだけを中央政府に委ねるのを原則にする。そのため、自治体の行政、税財政、立法の自立度を高め、中央政府と対等な「地域政府」と呼ぶべきものへ進化させる。
一方、地域政府の立場を国政に反映させるため、参院を地域問題を優先的に扱う「地方の府」とする。地域間の財政調整機能も持たせる。
●安心勘定と我慢勘定
国の借金を増やさぬよう厳しく管理しつつ、増える社会保障の費用を賄うため、財政を二つに分ける。「安心勘定」は医療や年金・介護・生活保護・子育て支援など社会保障部門をまとめて管理する。教育を含めてもよい。増税はすべて「安心勘定」へ繰り入れる。
それ以外は、国債の管理も含め「我慢勘定」に。ここでは増税せず、徹底した歳出カットで臨む。
●年金は税と保険料で
基礎年金の財源は現行通り、保険料と税を併用する方式を維持する。高齢化が進み、医療や介護のために増税していかざるを得ないので、年金を全額税方式にすると税負担が重くなりすぎ、現実的ではない。
パートや派遣も厚生年金に入るよう改革し、保険料を払わなくても基礎年金がもらえる第3号制度を廃止して、実質的な年金一元化をめざす。
●こども特定財源
この調子で行くと、100年後の人口はいまの3分の1になってしまう。だが、若い人の結婚したい、子供が欲しいという希望がかなえば、出生率は1.75まで上がるという。
そのために、少子化対策を「未来への投資」と考え、思い切って財政資金を投入する。「こども特定財源」を設けるくらいの覚悟でやるべきだ。
●農業を成長産業に
世界の食料需要が膨らみ、穀物が急騰して食料争奪戦が激化しているのに、国内農業の衰退が著しい。発想を大転換してコメの生産調整をやめ、米価を下げてコメを増産すべきだ。用途を飼料やバイオ燃料へ広げる。
米価が下がって農業がつぶれないよう、所得補償も必要だ。穀物高騰で輸入米との価格差は小さくなっている。農業が成長産業をめざす好機だ。
*
社説シリーズ「希望社会への提言」の執筆者は以下の通りでした。
遠藤健 大軒由敬 尾関章 梶本章 川戸和史 川名紀美 隈元信一 国分高史 駒野剛 高成田享 中村正憲 原真人 山之上玲子 喜園尚史 脇阪紀行