お金でたどる震災3年

震災後、巨額の復興予算がつぎこまれている東北では、
公共事業や住宅・事業所再建の動きから景気が上向いているといわれる。
企業は震災の痛手から回復できたのか。
岩手・宮城・福島の3県に本社がある約3万6千社のデータから、
「復興景気」の影響をたどる。
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1.はじめに / 売り上げの増減

 民間調査会社「帝国データバンク(TDB)」から、岩手・宮城・福島に本社を置く企業データの提供を受け、売り上げ・従業員数の変化を分析した。1~6月に決算のある約3万6千社をみると、売り上げ・従業員数ともに2013年は震災前の10年の水準を上回る。

 しかし地域や業種、企業規模によって「復興景気」の影響には差がある。個別企業の売り上げを、10年を基準とした増減で色分けすると、増加に転じていない企業もまだ多数ある。また福島県沿岸部では企業活動そのものが止まっている様子も浮かび上がる。

 全町民が避難生活を続ける福島県浪江町は13年4月、避難区域の見直しで一部事業所の再開が認められた。しかし同町によると、震災前町内にあった約1000事業所のうち、14年2月時点で町内で再開できたのは7事業所だけ。「除染が進まず町内のインフラが復旧しないと一般的なサービス業は難しい。町外に移転しようにも、もともとある事業所と競合する。現在町内で営業しているのは採算度外視でやっているところばかりだ」

2010年と比較した企業の売り上げ増減

売上増  売上減 

2011

2.復興景気はどこに

宮城・建設業の売り上げ1・4倍

 どのような業界が「復興景気」の影響を受けているのか。売り上げを大きく伸ばしたのは建設業だ。

 宮城県の建設業の売り上げは、2012年には前年比1・4倍に跳ね上がった。TDB仙台支店の遠峰英利情報部長は、「震災前の10倍以上の売り上げを記録した企業も。採用も少しずつ増え、百貨店でも高級宝飾品の売り上げが好調など波及効果も出ている」と話す。

 一方、内陸の都市部と沿岸部が100㌔以上離れる岩手県では、復興事業が業界の3割程度の沿岸部企業に集中しつつあるという。同社盛岡支店の豊山智支店長は「人件費や資材が高騰し、遠方の工事は利益が出ない。逆に沿岸部では震災前の年間受注額の5倍以上といった仕事を請け負い満腹状態。県立高校の新築工事が何度も入札不調に終わるなど、復興計画の遅れにもつながっている」 

「遊興飲食店」が好調

 復興工事の関係者らの流入によって好調と言われる飲食業。しかし、「食堂・専門料理店」と料亭やバー・キャバレーといった「遊興飲食店」をみると、大きく売り上げを伸ばしているのは宮城県の遊興飲食店だけだ。

 TDB福島支店の渡辺経司支店長は「福島から仙台までバスを出して、キャバクラの従業員を集めているという話も聞く」。岩手銀行のシンクタンク「岩手経済研究所」の佐々木久雄事務局長は「沿岸部に近い遠野市が一時ボランティアや復興作業員の拠点となったが、被災地の宿泊施設が復旧すると人口が分散していった」と話す。

3.地域産業はいま

福島の畜産業が大打撃

 福島県内では農業の売り上げが激減している。中でも大きな割合を占めていた畜産業の落ち込みが激しい。関連する食肉の販売業や乳製品の製造・販売なども同様に売り上げが落ち続けている。

 TDB福島支店の渡辺支店長は、「畜産の中でも、成長に時間のかかる牛は敬遠されるようだ。一方、震災前にブランド化に成功していた一部の豚や鶏は売り上げを減らさずにいる。野菜も風評被害の影響が根強く残る。露地物の野菜は売れないが、もやしなど一部の野菜は好調のようだ」と話す。

漁業・従業員が3分の一に

 漁業の売り上げは震災後に回復傾向にあるものの、従業員の減少が深刻だ。特に岩手県では震災前の3分の一程度に減った。岩手経済研究所の佐々木事務局長は「原因の一つは慢性的な人不足。被災した沿岸部から人口が流出したうえに、わずかな労働力も賃金の高い建設業に流れている」と話す。

 漁獲量の減少も追い打ちをかける。岩手県漁連によると、年間の取扱金額は2010年度の約94億円から11年度には約29億円に減った。13年度も約80億円で「震災前の水準には全然戻っていない」という。

骨材「まるでゴールドラッシュ」

 3県の全売り上げの1割を占める製造業は、宮城県で伸びる一方、岩手・福島では減少傾向が続く。個別の業種ごとに見ると、震災の影響が色濃く表れている。

 建設資材の生コンクリートや骨材セメント製品は売り上げが急増。TDB仙台支店の遠峰情報部長は「宮城県では運送業者が採石業に参入した例も。以前は環境悪化を心配する住民の反対運動があった土砂採取だが、震災後は県が積極的に認可している。配送費と合わせ高値で取引され『ゴールドラッシュのようだ』という声も聞かれる」。

 ただ、建設資材の製造も、需要が大きく伸びるのは復興期間だけ。業者もそれを見越し、従業員の増加にはそれほど結びついていない。

 一方、沿岸部でこれまで主要産業だった水産食料品の製造は大きく売り上げを落とす。「水産加工場では設備の復旧に時間がかかっている間に取引先を取られてしまったという話も。人手不足に資源不足が重なって、補助金で購入した最新設備を遊ばせているところも少なくない」(岩手経済研究所・佐々木事務局長)という。

4.生活に変化も

首都圏のお金も流入

 信用金庫・銀行の売り上げが伸びている。国から自治体に投入された多額の復興予算は、公金預金となって金融機関に入る。被災地では住宅や事業所の再開のためローンや融資の需要が高まり、金の流れが活発になっている。

 また仙台市では、都内で利回りが稼ぎにくくなった不動産投資信託用の物件取得など、一部首都圏のお金も流れ込み「プチバブルの様相」(TDB仙台支店の遠峰情報部長)という。

パチンコの純利益54%増

 宮城・福島では遊技場の売り上げが増えている。TDBが東北6県のパチンコ経営主要50社を対象にした調査では、2012年度の前年度比売り上げは6・4%増、純利益も54・8%増えた。特に福島県の企業が好調で、県内の15社だけで50社全体の売り上げ・純利益の約半数を占めているという。

 宿泊施設は、被災した人の避難先や復興作業員の宿泊場所として、震災直後は満室状態が続いた。震災から3年が経ち業種全体の売り上げは増加傾向にあるが、地域や規模で二極化が進んでいるようだ。

 内陸からアクセスの悪い岩手県沿岸部では、営業を再開した宿泊施設が復興需要を受け好調だ。一方「福島県会津地方の旅館では放射能汚染の直接的な被害がなくても風評被害で利用客が減少している」(TDB福島支店の渡辺支店長)という。

5.東北大アンケート

 東北大の西山慎一准教授(金融論)は、2012、13年、岩手・宮城・福島の3県と青森県八戸市の企業3万社に景気の状況を示す業況感や復興への課題を聞くアンケートを行い、約7千社から回答を得た。

 産業別・地域別にみると、売り上げを伸ばしている建設業や製造業でも業況感は頭打ち、宮城県内では12年から13年でわずかに落ち込んだ。「急激な好況感が13年には落ち着いた。資材の高騰や人手不足が深刻化し、復興需要はあっても供給側の能力を超え、ハイペースで物事が進まなくなったことが背景にある」と西山准教授はみる。

 アンケートでも、12年から13年にかけて全ての業種で正規従業員の人手不足が深刻化。非正規従業員については12年から13年に農林漁業で急速に不足している。

 業況感と資金繰りは、比較的好調な建設・不動産などの業種と、低調な農林漁業・製造・情報運輸などに二極化。復興景気は特定の業種にとどまる。西山准教授は「阪神大震災では復興後に建設業の倒産が相次いだ。もともと目立った成長産業のない東北では、このまま復興期間が終われば全業種共倒れになりかねない」と懸念する。「現在好況感のない業種も復興景気の続くうちに、販路の回復や新産業の創出など自立的な業績回復に積極的に取り組んでほしい」と話している。