暗闇を閉じこめた空洞は、残酷な神が戯れにしかけた罠のような正体を現そうとしていました。
ピンッ……ピンッと不気味な間をおいて岩がはじけ飛ぶ「山はね」の音が、闇を裂いて響きました。真正面に立ちふさがる岩盤は濁ったわき水をしたたらせながら、膨れあがるようにせり出しています。天井を支える鉄骨もたわんで、きしみ始めていました。
黒部ダム建設の命運をにぎっていた「関電トンネル」掘削工事の現場は1957年4月、とほうもない山脈の地圧に、いまにも押しつぶされそうでした。
この工事を請け負った熊谷組の下請け「笹島班」をひきいた親方の笹島信義さん(95)=現・笹島建設会長=は、映画「黒部の太陽」で石原裕次郎が演じた土木業者のモデルになった人物です。笹島さんは当時、坑内にテントをはって泊まりこみ、不吉な予感に青ざめながらも、ひるまず岩盤にとりついていました。
全長5.4キロの関電トンネルは、長野県大町市の坑口から北アルプスの横腹を富山県立山町までぶち抜いて、黒部峡谷のダム建設現場へ通じます。コンクリートをつくる約54万トンのセメントと約490万トンの砂利や建設機械を運びこむ唯一の大動脈の輸送路になるため、貫通しなければプロジェクトそのものが破綻することになります。
工期は56年8月から1年。年が明けてからは1日平均10メートルを超えるペースで掘り進んでいましたが、1.7キロに達したところで突如、異変にみまわれたのです。
(続きは7月27日付け朝刊の別刷り「be」をお読みください。)
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