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「好きなもの、趣味を持ち続け、それをトコトン追い続けたい」という林みちよさん。 |
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ご主人と珈琲店を始めた頃に、気に入ったシュガーポットがなかったことから陶芸を始めた。 |
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丸くかわいい銀色のボンボニエールは、最近の作品。 |
銀色の器
林さんの代表的な作品のスタイルに、白磁に銀を焼き付けた器がある。一般的な磁器とは違い、それには彫刻的な雰囲気があり、また銀食器とは違った柔らかな質感がある。
「器には多様性があります。私の器は、胡瓜やセロリなどを洗ってそのまま置いたり、時々の花木や、夏には石や貝殻を入れます」
石川県にある旅館『山代温泉べにや無何有』では、林さんが作った銀の深いボウルに氷を敷き詰めて、岩生牡蠣を宿泊客に出すのだとか。独特の銀の光に、乳白色の牡蠣はより映えて、美味しく見える。まさに、目で楽しむご馳走だ。
これらの器には、やはり緊張感がある。テーブルに銀色の小皿を置くだけで、周囲の空気に心地良い緊張感が生まれるのだ。美味しいコーヒーと共に、銀の小皿にお菓子が添えられて出てきた時には、「こんなおもてなしの仕方もあるのだ…」と、感嘆したほどだ。
自作のシュガーポット
林さんは、珈琲店を始めた頃に、気に入ったシュガーポットがなかったことから陶芸を始めたのだという。
「自分の納得ができるものが欲しかったのです。それで、器を作ることの難しさ、楽しさに目覚めてしまった(笑)。シンプルなものほど難しい。それも、お茶碗などのごく身近で簡単なものほど、作るのが難しいのです」
そんなこだわりのシュガーポットは、今でも巴有吾有で実際に使われている。彫刻のような、どっしりとしたシュガーポット。まるで溶岩のようだ。蓋を開けてみると、真っ白な砂糖が顔を覗かせる。コーヒーに砂糖を入れること忘れてしまうぐらい、その白と黒の鮮明なコントラストに惹きつけられる。
イギリスの陶芸家、ルーシー・リーに影響を受け、オブジェのような作風の器を作っているという林さん。器という人為的なものに、どこか大自然の躍動を感じるのは、決して気のせいではないはずだ。
このシュガーポットがあるだけで、空間に自然の空気が生まれると言っても、過言ではないだろう。空間の空気さえも変える器。静寂ながら存在感のある器。それが彼女の器なのだ。
「器はお料理の引き立て役です。使ってこその美、まさに用の美ですね。野菜やお花を飾っても良い。概念にこだわることはないのです。自分が使いたいように使い、また色々なものを見て、お気に入りを探してみれば良いと思いますよ」
女性が器にこだわることは、美へ対する情熱と生活の余裕の現れではないだろうか。
そのこだわりは、歴史の中でもポンパドール公爵夫人が特に有名だ。ルイ15世の愛人かつ、才色兼備のポンパドール侯爵夫人の手により、セーブル窯で誕生したのが「ローズ・ポンパドール」というシリーズだ。彼女のように華やかで繊細、そんな器が世に生まれた瞬間だった。
写真を見ても分かるように、林さんの作品は、いわゆる女性的な雰囲気ではない。けれど、ティーセットの納得の形と色を求め続けたポンパドール婦人、そしてシュガーポットにこだわり、それを自作した林さん。方向性は違っても、器に対する情熱には変わりがない。
器は単に食材を盛るだけではない。気持ちの余裕、心を満たす器でもあるのだ。
用の美と無用の美
「ジノリもマイセンも嫌いではないですよ。世界各国で流通している焼物は、作りも絵付けもしっかりとしています。けれど、ギャラリーで置くような一点物とは相容れないんじゃないでしょうか」
買い物が好きと笑う林さん。けれど、その衝動買いも我々のそれとはちょっと違う。
「先日、ラムネの瓶を買ったんですよ! イギリスのアンティークなものでね。そろそろ届くので楽しみです」
ラムネの瓶の話をする林さんは、とても嬉しそうだった。物の価値は、定義することが難しい。自分にとって無用ならば価値がないのかというと、そうではないことが多々あるだろう。インターネットのオークションを覗いても、何万点というアイテムが取引されている。その多くが、個人が無用と感じた物が、他人にとっては必要とされているからだ。
「用の美と無用の美があると思います。でも、本当に美しいものは使えなくても側に置いておきたいもの。使えても使えなくても美しいものを作っていきたいですね」
林さんの最近の作品に、銀色のボンボニエールがある。これは、フランス語でボンボン(砂糖菓子)を入れる小箱のこと。ヨーロッパでは、子供の誕生祝い、結婚式などで幸福を彩るものとして砂糖菓子が祝いの場に添えられることがあり、記念にこの小箱を購入したり、オリジナルのものを作ったりするのだ。
「お菓子の他にちょこっと珍味を入れたり、オブジェとして飾っておいたりしても良いでしょう」
ボンボニエールを必要として生きている人はそうそういない。しかし、この丸いフォルムに惹かれ、蓋を開けたらお菓子がちょこんと入っていたら、心が和む瞬間があるはずだ。これぞまさに用の美と無用の美を兼ね備えたものではないだろうか。
生涯現役であるために
「よく生きる、楽しく生きるということは、好きなもの、趣味を持ち続け、それをトコトン追い続けることではないでしょうか? そういったものがあれば、生きていくのが楽しくなると思いますよ」
林さんは、これからも土を捏ね、ろくろを引き、そして色々な物を作っていきたいそうだ。勿論、創造は器だけではない。絵画、彫刻、焼き物と、感性が求めるまま美を追究していくのだろう。そして、世界中を巡り、その土地の空気や匂いを感じたいのだという。
「生涯現役」。まさにそんな言葉が相応しいと感じた。
取材/文 フリーライター 吉岡美那子
(02/21)