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「仕事には集中して取り組む。そしてアフター5はきっちりと楽しむ」と葉加瀬さん。 |
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葉加瀬さんにとってのコーヒーは、“リラックス”というよりも“覚醒”を促すもの。サッと一杯飲んで気合を入れるという。 |
基本は朝型生活
1年のうち半分は仕事で東京を離れるという葉加瀬氏。いったんツアーに出ると、数週間は「旅人」として、新たな土地で新しい1日を迎えることになる。変化に富んだ目まぐるしい毎日。その分、東京にいる間は、早寝早起きを基本とした規則正しい「朝型」生活を貫いているという。
「睡眠時間は最低でも8時間。若い頃はスタジオにこもって朝方までがんばっていたこともあったけど、年を重ねるごとにそれが“無駄”だと思うようになったんです。早く切り上げて、次の日に効率良く仕事をした方がいいということに気付いたんですよね」
そう言って大らかに笑う葉加瀬氏。そのはつらつとした笑顔が、今日も朝の太陽をしっかりと享受したことを物語っている。
音楽も絵も、作業は午前中から始めたい。ただ、ミュージシャンは圧倒的に「夜型」が多いのが現状。音楽は1人で作るものではないため、仕事は午後イチからということも少なくない。しかし、氏には譲れない理由がある。
「お酒が好きなんですよね。ディナーにはお酒をゆっくり楽しみたい。その後に仕事となると、どうしてもお酒をセーブしないといけないわけでしょ」
ごはんの後には仕事をしない。それが彼の信条だ。
「家のスタジオで午前中から仕事をする。家内の『ごはんですよ』の声が聞こえたら、そこでいっさい仕事は終わりです」
遅くまで職場にいることが仕事熱心とみなされることも多い世の中。しかし、大事なのは「どれだけの時間を費やしたか」ではなく、当然ながらその中身だ。仕事の時間を決め、その枠の中で終えるよう集中して取り組む。そしてアフター5はきっちりと楽しむ。仕事上手は遊びの時間も大切にする。息の抜き方をきちんと心得ているのだ。
リラックスは「水中」で
アーティストとして多忙な日々を送る葉加瀬氏だが、旅の間になるべく欠かさないようにしていることがあるという。
「旅をしているときには、必ずプールのあるホテルを選びますね。顔を洗うよりも先にウェアに着替えて、プールに直行するんです。普段、ジムに出かけるとなるとなかなか億劫だけど、すぐそこにプールがあれば泳がずにはいられないでしょ。1時間ほど自分でプログラムを組んで泳ぎますね」
さらに、日々の生活にも驚きの「習慣」が…
「極めてお風呂好きですね。プールもそうなんですが、水にまつわるものが好きなんです。水の中にいると、それこそ“極上”の気分ですね」
なんでも、たっぷりと時間をかけ、1日に5〜6回(!)は湯につかるのだとか。行動の節目にこれを取り入れると、気分の切り替えに有効なんだそう。さすがに我々の普段の生活において、そこまで頻繁に風呂に入るのは難しそうだが、例えばこれを「顔を洗う」ことに置き換えて実行してみるといいかもしれない。それだけでも気分をずいぶんとリフレッシュできそうだ。
オフの過ごし方
では、貴重なオフの時間は、どのように過ごしているのだろうか。
「ツアーの途中で1日オフがあると、健康ランドに行きます。午前中から、夜に仲間と飲みに行く時間まで、それこそ1日中いますね。お風呂、サウナ、水風呂と楽しんで、出てきてゴロンとする。あとは文庫本1冊もあれば、1日を完璧に過ごせるわけです」
ちなみに他のツアー・メンバーはパチンコなどで時間を潰しているそうだが…
「僕はギャンブルが嫌い。というか怖いんです。お金を払ってまでドキドキしたくない。人生そのものがギャンブルみたいなものだから(笑)。健康ランドはいいですよ。1日5,000円もあればたっぷり楽しめるしね」
今や全国の健康ランドに行き尽くしてしまったと笑う葉加瀬氏。コンサートのMCでも話のネタにしているため、ファンも楽屋前ではなく、健康ランドで出待ちや入り待ちをしているという逸話も飛び出した。
「ホッピーを飲んでいたりすると、不意にサインを求められたりもしますよ。逃げ場がないので、応じないわけにはいかないですよね」と楽しそうに話す葉加瀬氏。ダークスーツをエレガントに着こなしたその上品なたたずまいからは、ホッピーをかたむける氏のムームー姿はまるで想像し難いのだが…こうしたギャップやそのざっくばらんな性格が、また彼の底知れぬ魅力の一つでもあるのだろう。
珈琲は「覚醒」のための一杯を
コーヒーをテーマとしたセレクション・アルバム『Coffee Break』を5月末にリリースする葉加瀬氏。というわけで、ご自身の「珈琲休憩」について伺ってみた。
「僕にとってのコーヒーは、“リラックス”というよりも“覚醒”を促すものですね。これから何かを始めようというときに、サッと一杯飲んで気合を入れる感じです」
イタリアの街角にあるカフェで、うんと濃い目のエスプレッソをグッとひっかけ、颯爽と街に繰り出していく。葉加瀬氏にとって、コーヒーとはそんなイメージだという。
オフからオンへ――コーヒーというアイテムを効果的に利用し、限られた時間にメリハリを持たせることで、ここぞというときの集中力が増幅する。それがクリエイティヴな作品を生み出す力となっているのだ。
幸せな顔を見たいから
プロ顔負けの料理の腕を持ち、食べることも大好き。「ヴァイオリニストになっていなかったら、シェフになりたかった」というほど(今もその夢は諦めていないのだとか)の料理好きとしても知られる葉加瀬氏。最近のお気に入りのメニューは「鳥のすき焼き」だという。
「牛肉の安いものを買うのなら、高級なとり肉を買ったほうが、楽しいし、おいしい思いもできるでしょ」
食料品店での買い物が大好き。高級食材店から庶民的なスーパーまで、目的に応じて食材の調達に出向く。音楽や絵と同じく、料理も1つの表現の場である。作品に合う素材を選び、プレゼンテーションする。時には大掛かりなホーム・パーティーも主催する。それで人が喜んでくれれば何よりうれしい。人を楽しませるのが大好きなのだ。大阪生まれの血がそうさせるのか、「性分なんでしょうね」と氏は微笑む。
「そもそもコンサートや絵画展はパーティーだと思っていますからね。来て下さった方がニコニコして楽しんでいるのを端から見ているのが一番楽しい。それはつまり、自分の表現を褒めてくれているということですから」
幸せな顔やおいしい顔に囲まれている限り、氏の表現に対するモチベーションは決して枯れることはないだろう。
日常を楽しむ極意
多忙な中でも理想的なライフスタイルを築き上げている葉加瀬氏から、「旅の多い生活をしているからこそ気付いた」という人生の楽しみ方を教わった。
「例えば旅に出たとき、ちょっとした小道に入ってみる。そして小石を見つける。きれいだなあと心をひかれるわけです。でも実際は、家の周りにそんな小道はありふれているし、小石だってどこにでも落ちている。じゃあ、どうして普段は目にとまらないのか。それは気分の問題だけだと思うんですよね。日常の生活に飽きてしまったときには、その中に“非日常”を少しだけでも取り込めばいいんです」
職場に行く電車を1本遅らせる。思いきって自転車で行ってみる。山手線を逆に乗ってみる。「どうせ同じ場所に着くからいいじゃない」と氏は笑ってみせる。こうしたほんのささいな行動によって、今まで見えていなかったものが、視界に飛び込むようになる。
「気分転換を自発的にできるようになると、日常がうんと楽しくなるよね」
その1つの手段として、音楽を有効に使えばいいと氏は提案する。
「朝起きて、大好きなボサノヴァをかけると、窓を開けたくなる。掃除もしたくなる。『今日は会社行くの、ヤーメタ!』ってなっても、いいじゃない。有給だってあるわけだし」
日本人の性質に深く根付いている「まじめさ」というアイデンティティ。仕事柄、外国人と接する機会の多い葉加瀬氏も、「日本人ほどまじめな人間はどこにもいない」と太鼓判を押す。それゆえ頑張りすぎてしまいがちな人々に、伝えたいメッセージがあるという。
「みんな、やらなきゃいけないことを、やりすぎているんだと思うよ。もっと気楽に生きればいいじゃん。ちょっとぐらいルーズなのが、ちょうどいいくらいじゃないのかな」
本人が輝いているからこそ、発言も説得力を帯びるというもの。その言葉に促され、緊張気味に話を伺っていた筆者の肩の力がスーッと抜けた瞬間、それを察したかのように気の利いたジョークが飛び出す。
「だから彼女の原稿が締めきりに遅れても、みんな許してあげてね」
周りにいたスタッフもどっと笑う。常に人を楽しませることを忘れない、根っからのエンターテイナー。自信と余裕があるからこそ、太陽のように堂々と周囲を照らすことができるのだ。その姿勢、ぜひとも見習いたいものである。
取材/文 フリーライター 高間裕子
(05/02)