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いつもがA面の自分だったら、B面の自分を発見することが豊かな暮らしの鍵と、わたせ氏。 |
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「ハートカクテル」より「Vol.144 KenとMarryのラブソング」 |
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「今―君の声を」 |
自然の色は“感嘆詞”
わたせ作品に触れた人は、何よりもまず、その瑞々しく洗練された色使いに心を奪われることだろう。我流で描き始めたからこそ、既存のスタイルにとらわれることなく、新鮮かつオリジナルな配色を作品に取り入れることができたというわたせ氏。その豊かな色彩感覚に影響を与えているもの――それは「自然の色」だという。
「自然の色には感服しますね。それこそ、感嘆詞としか言いようがない。“どうしてこんな色になるんだろう、負けたな”と思います。それと同時に、感動もしているんでしょうね。“こんな色があるのか。ならば、この色を何とか表現したい”と思うわけです」
緑だけでも2000種類あるとも言われる日本の豊かな色彩。俳句を読んだり、ガーデニングに凝ったりと、自然と向き合う日々の中で、その自然の恵みから刺激を得ることにより、また新たな作品が生み出されていくのである。
感動こそがアイデアの源
では、ストーリーのアイデアはどのようなところから生まれるのだろうか。それにはやはり、自分自身がまず心を動かされないと始まらないとわたせ氏は言う。
「感動することのできない人間が、人を感動させる作品を作ることはできないでしょう。いろんなものに感動することが、アイデアの素になる。感動するという感情が、何より大切なのです」
「感動」と言っても、何も大げさなものでなくていい。街で見かけたちょっとした光景から、物語が生まれることもある。
「街で見かけて、気になるものを見つけると、そこからストーリーが勝手に膨らんできますね。カフェにいるカップルや、雨の日に自転車に乗る母子……ストーリーを感じさせる人や光景が街には必ずあります。“アレ?”と思うシーンにぶつかったときに、反応して、よく観察することによって、作品のイメージが作られていくのです」
世代を超えて愛される作品
最新作『HEART COCKTAIL eleven』も、まさにこうして誕生した作品の1つである。ある晩、仕事場から自宅へと帰る途中に見た光景が、すべての始まりだった。
「閉店後のほの暗いレストランで、ウェイトレスの女の子が1人、テーブルクロスを替えていたのです。その光景は“都会の孤独”を感じさせるものでした。しかし、彼女は明日の準備をしている。その健気な姿にとてもひかれたんですね。時計を見たら午後11時だった。1人と1人、その2人がどこかで出会うというストーリーは、この瞬間に誕生したのです」
この『HEART COCKTAIL eleven』をめぐる心温まるエピソードがある。ある日のサイン会に、往年の『ハートカクテル』ファンであった方の息子さんが並んでいたそうだ。聞けば、父親は2年前に亡くなったという。生前はめったに足を踏み入れなかった父の書斎に入ってみると、何度も引越しを経験したにも関わらず、『ハートカクテル』のハードカバーがそろって並んでいた。気になって見ているうちに、息子さんはとても温かい気持ちになったそうだ。「父がファンであったと同時に、僕もファンになりました」。彼はわたせ氏にそう言ったという。
都会のどこかで様々なすれ違いを繰り返しながらも、最後にようやく出会う運命のカレとカノジョ――『HEART COCKTAIL eleven』には、往年の『ハートカクテル』ファンを懐かしい気持ちにさせる要素がそこかしこに盛り込まれている。その一方で、作品のテーマとなっている「出逢い」は、初めて彼の作品に触れる若い読者の心にも、爽やかな風を送り込むことだろう。世代を超えて愛される作品――“eleven(11)”には、1つと1つ、その2世代を結ぶ力がある。
“オシャレ”であることのこだわり
わたせ氏の作品を読んだことがある人なら、一度は登場人物のファッションを真似ようとトライした経験があるのではないだろうか。まるで洋雑誌から抜け出してきたかのようなハイセンスな服や小物が、さりげなくも随所に登場する彼の作品を、オシャレのお手本としている人も多いと聞く。
当然、作者のわたせ氏自身も、ファッションにはかなりこだわりがあるそうだ。この日も、オフホワイトのシャツに、ピンク地に紺の細いボーダー入りネクタイ、そして黒のハーフ丈ジャケットに濃紺のジーンズと、遊び心と洗練さを兼ね備えた抜群の着こなしを披露してくださった。そんなわたせ氏に、センスアップの秘けつを聞いてみることに。
「まずはオシャレに関心を持つこと。先輩でも友人でもいい、“この人オシャレだな”と思う気持ちがないとね。あとは、オシャレを“消費”ではなく、自分をアップすることだと思えばいいんです」。
服装をバッチリ決めたら、靴もきちんとしたものを履きたくなる。髪型にも気をかけるようになる。頭のてっぺんからつま先まで満足のいく格好ができれば、自然と自信も沸いてくるというものだ。
「営業マンでも、ヨレヨレの服を着て大切なお客さんのところに行くと、どうしても引け目を感じてしまうものです。でも、頭からつま先までオッケーだったら、自信をもって話ができる。そういう意味でも、オシャレはとても大切なんです。だから『オシャレになれ』と声を大にして言いたいですね」。
組織に所属していても、いいことばかりがあるわけじゃない。つらい思いをすることもあれば、腹が立つことだってある――そんなサラリーマン時代にも、ファッションは重要な役割を果たしてくれたという。
「いやなことがあった翌日も、クリーニングしたてのYシャツに腕を通した瞬間に、不思議と気持ちが切り替わるんです。“今から新しい一歩だ”と思えるんですよね。着た瞬間に、スイッチがオンになるんです」
仕事や自分に自信が持てなかったり、気持ちがうまく切り替えられないときは、試しにおろしたてのシャツをパリッと着こなしてみよう。できればおニューのネクタイも添えて。クヨクヨと考えていたことが嘘のように、きっと気持ちも前向きになっているはずだ。
「いつもがA面の自分だったら、B面の自分を発見すること」。これが豊かな暮らしを送る鍵だとわたせ氏は言う。オシャレをする。興味のあるものに次々とトライする。こうすることで、今まで知らなかった新しい自分が見えてくる。B面の自分をうまく見つけられたら、私たちの日常も、もっと色鮮やかに輝いてくるに違いない。
取材/文 高間裕子
(07/18)