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「日本人はやはり、日本でできたものを食べるべきだと思いますよ」と食へのこだわりを語る安藤氏。 |
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「オレンジのテーブルで」 |
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安藤氏の手による、温かみのあるやさしいラインの木製ロボット達。のみ1本と紙やすりだけで作られている。 |
愛車選びは“バランス”がポイント
元はファッション・イラストレーターとしてキャリアをスタートさせた安藤氏。ひょんなことから車のイラストをメインで描くようになり、その後、徐々に車にも興味を抱くようになったという。車のスペシャリストに囲まれて仕事をしているうちに、知識もどんどん豊かになるが、同時に車の所有欲も膨らむことに……。
「作りや歴史を知るうちに、欲しくなってしまうんです。例えば昔のメルセデスなんかは、丁寧に手作りされていて、シート1つとってみても、すごくお金がかけられていたんです。そういったバックグラウンドを知ると、生きているうちにどうしても乗っておきたいなと思ってしまって。それで、製造が機械化される直前に、思い切って購入したんです」
車そのものに対する純粋な好奇心と愛情。さらに、メルセデスを選んだ大きな理由がもう1つ。それは安藤氏なりの美学に深く関係している。
「その頃のメルセデスって、カッコ悪かったんですよ。いかにもドイツ車という感じで、ゴツゴツとしてブサイクなの(笑)。でも僕は無骨な車が好きでね。僕みたいなチャラチャラとした人間が、カチッとした車に乗っていると、バランスが取れるでしょ。その組み合わせが、かえっておもしろいんじゃないかと思って」
このように、車選びには一家言ある安藤氏だが、車好きが高じて、10年間で7台の新車を買い替えていた時期もあったそうだ。
「今になってみれば、なんてバカなことをしたんだろうと思いますね。その教訓を生かして、今度は壊れるまで乗ろうと決めています」
そんな氏の現在の愛車は、97年式のミニケンジントン。付き合いはもう9年になるそうだ。
「車を描いている人間が、ミニに乗っているなんて、なんだかいかにもな感じでしょ。それがイヤでずっと敬遠していたの。でも、製造がこれで最後になるって聞いたんで、迷ったけど買うことにしたんです」
そこで、誰よりも“バランス”にこだわる彼がとった選択は、ミニに対して「あえて何もしない」ことだった。
「日本人はみんなオプションを付けたり、かわいく改造したりして、ピカピカに磨いて乗っているけど、僕はあえて何もしない。ヨーロッパ風に、わざと洗わないで乗ってる(笑)」
一見、無頓着なようでいて、実はこだわりに溢れたミニへの愛情。地味目なホワイト・ベースの車体であるにも関わらず、ミニと安藤氏とのコンビネーションは人目を引くらしく、街中で声をかけられることも多いそうだ。
「すごく気に入っていますよ。買い替えるつもりはありません。ラッキーなことに、今はほかに欲しいと思えるような車がないですしね(笑)」
食生活の基本は「野菜中心の日本食」
「仕事は午前中に始めて、夜はほとんどしませんね。この業界、みんな活動時間が遅いじゃないですか。だから、周りからは『じいさんみたいだ』って言われてますよ」
そう言って笑う安藤氏。奥様で料理家の知代さんの影響もあり、ここ数年は規則正しい生活リズムが習慣化しているという。そしてもう1つ、知代さんの影響によって、安藤氏の生活の中で大きく変化を遂げたのが、“食”に対する認識だ。
「今はもう、完全なオーガニック・ライフですね。食材はもちろん無農薬で、添加物もいっさい入ってないものを選びます」
玄米に、味噌汁、そして、煮浸しなど野菜中心のおかずで構成された安藤家の食卓。もともと夫婦そろって体が丈夫な方ではないというが、こうしたシンプルな和食を基本とした食生活へと変えてから、高血圧気味だった氏の血圧も下がり、調子も良くなったそうだ。
「うちは本当に素食ですよ。野菜がメインですからね。でも、ちょっと焼いただけといったシンプルな料理でも、野菜の味がしっかりしていれば、とてもおいしいんです。だから食材選びには特にこだわりますね」
食材選びと調理は主に知代さんが担当。買い物に行くと、野菜や魚を見極めるのに相当の時間をかけ、じっくりと選び抜くそうだ。
「心がけているのは、日本人が元来食してきた食事です。食材も、日本でとれたものを主体にしています」と語る安藤氏。しかし現在の日本はというと、食料の6割を海外からの輸入に頼っているのが現状。食料自給率は主要先進国の中でも最低のレベルだ。その要因は、戦後大きく変化してきた日本人の食生活にある。日本では昔から、ごはんを中心とした食生活が行われてきた。しかし、戦後は食生活の洋風化が急速に進行。自給率の高い米の消費が減り、自給率の低い畜産物や油脂の消費が増えてきたことにより、食料全体の自給率が低下してきた。日本の将来の食料供給に対して不安を抱く人は多いが、行動を起こしている人はまだまだ少ない。
「日本人はやはり、日本でできたものを食べるべきだと思いますよ。外国にばかり頼っていては、日本の将来はあぶないですよね。日本は農業国に戻るべきです。今は国産の安全な食材というと、少ないから高いし、高いから買うのをやめる人もいる。でも、みんながきちんとしたものを買うようになれば、値段も安くなるというものです」
昨今話題の“メタボリック・シンドローム”も、焼肉やステーキなど、動物性の食品を食することが多くなった生活習慣の変化が原因の1つとされている。内臓脂肪を減らすには、脂肪分の摂取を減らし、野菜や豆類を積極的に取り入れたバランスの良い食事を取ることが大切。まさに安藤家の食卓は理想的と言えよう。
「でも、うちの食生活をいきなり真似るのは、かなりハードルが高いと思いますよ。徹底していますからね(笑)。でも、とっかかりとしてオススメしたいのは、食生活を和食中心に変えることかな。朝のパン食を、ごはんに変えるとかね。さすがに、いきなり玄米にしろとは言いませんが」
日ごろ、忙しくてつい手軽に食を済ませがちな人は、少し立ち止まって自身の食生活を振り返ってみてほしい。生命を維持している食を、いかにおろそかにしているかという事実に気付くはずだ。食と真摯に向き合うこと――安藤氏の実践していることこそ、豊かな暮らしの必要条件かもしれない。
趣味は「食べ歩き」
もともと食べ歩きが趣味だったという安藤氏。かつては蕎麦好きが高じて、蕎麦屋めぐりにかなり熱中していた時期もあったという。蕎麦ブームの到来前、もう10年以上昔の話だ。味からインテリアに至るまで、すべて点数をつけてオリジナルのランキングを作っていたというから、相当の凝りようと言える。
「そのときに一位になったお店が、当時、埼玉にありまして。そこのご主人で、日本でも5本の指に入ると言われる蕎麦打ち名人の細川さんと、仕事がきっかけで仲良くさせていただくようになり、道具一式をいただいたんです。最高級の粉も一緒に」
以後、自分で蕎麦を打つようになってからは、あまり食べに行く気がしなくなったそうだ。
「そこらへんの蕎麦屋さんより、自分で打った蕎麦の方がうまいんですよ(笑)。そば粉と水まわしで蕎麦は決まりますからね」
以後、蕎麦屋めぐりはひと段落ついたものの、食べ歩きは今でも大切な趣味の1つだそう。しかし、食生活にこだわるようになってからは、行く店が少なくなってしまったと嘆く。
「有名店でもちゃんとしていないところはありますから。クオリティを維持しているところは少ないですよ。最初は良くても、金儲けに走るあまりどんどん支店を出して、崩れていく。オーナーの目の届く範囲でやっていないと、やっぱりダメになっちゃうんですね」
少しでも古い油を使っていると、すぐに体に反応が出てしまう。そのため、レストラン選びはいつも慎重だ。しかし会食となると、そうも言っていられない。
「パーティーに行っても、添加物だらけで、食べられるものがなかったりして……無理して食べても頭が痛くなってしまうしね。僕ら夫婦はつらいところです」
かといって、夫婦2人だけで突き進むことはしない。誘いがあればできる限り応じ、友人たちとの食事会も楽しむ。あくまでも周囲との“バランス”を重視するところが安藤流だ。
「前も誘われて中華を食べに行ったのだけど、帰ったら2人そろって喉は渇くわ、頭痛はするわで、大変な目に遭いましたよ(笑)。でも、誘いを断ってばかりいると、孤立しちゃうじゃないですか」
日本人として正しい食生活を送っているはずなのに、現代社会ではかくも生きづらいという矛盾。世間の人にもできるだけ食に関心を持ってもらい、社会全体から食生活を変えていけたらと安藤氏は願っている。そんな彼が、現在密かに考えているのが、奥様とレストランのガイド本を作ることだそうだ。
「僕ら2人で、料理はもちろん、ギャルソンの態度から店のインテリアに至るまでチェックを入れて、本にしたらおもしろいかなと思って。フード・ジャーナリストの人たちは店の人と仲良くなりすぎてしまって、厳しいことが全然言えなかったりしますからね。僕らは飲食店をやっている知り合いからも、『厳しすぎる』と言われるほど。中身は文句の嵐になりそうだけど、出したら売れるんじゃないかな(笑)」
料理のプロである知代さんと、アートのスペシャリストの安藤氏。その厳しくも確かな舌と審美眼で、本当に信頼できるガイド本を世に送り出すとともに、おいしく美しい食生活を日本中に伝道していただきたいものだ。
取材/文 高間裕子
(09/19)