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プロの語りごと

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色のない世界にアートを展開する色彩プロデューサー

稲田恵子 〜前編〜

» 達人プロフィール
医療や教育、工場地帯など色のない空間にアートを提案し、現場や地域の人々に「癒し」を提供する色彩プロデューサーの稲田恵子さん。石油タンクに絵を描いたり、保健室をペイントしたりと、その大胆にして斬新な活動で注目を集めている。自ら道を切り開き、次々と新しいアートを生み出す稲田さんに、この仕事を始めたきっかけや、思い出深い作品、そして今後の展望について話を伺った。
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「自由な発想ができなくなったら、この仕事は辞めどき」と斬新なアートを仕掛け続ける。

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企画を行った黒田征太郎氏の「水の記憶」

「色彩プロデューサー」への道

「色彩プロデューサー」と聞いて、皆さんはどのような仕事を想像するだろうか。ファッションなどの華やかな分野で活躍する「カラーコーディネーター」を連想する人もいるかもしれない。しかし、稲田さんのフィールドは、あくまで「色のない世界」。教育や医療、工場などの無機質な現場に、人々の視覚に訴える色彩を提案し、快適な空間へと再生させるのが彼女の仕事である。

「私の仕事は営業が第一。まずはプレゼンをして仕事を取ります。アーティストやテーマを決めるのも私の仕事。そして現場に行き、監督をする。絵を描くのはアーティストですが、色の提案は私がします」

もとは専業主婦だった稲田さん。当時、まだ目新しかった色彩の講座に通ううちに、色の魅力に開眼。修了後は色彩の講師を務めながら勉強を続けた。そんな折、バブルが到来。カラーコーディネートが注目を浴びるようになる。

「当時の主流はファッションやインテリア。でも私はこれがすごく苦手だったの(笑)。オリジナリティに富んだことをやりたかった。その頃から、色のない世界に色彩を提案するのが夢だったんです」

石油タンクにイラストを

その後、持ち前の努力と意志の強さで、自ら道を切り開いていく。そのきっかけとなったのが、13年前、「街の中の環境色彩」として初めて提案した作品だ。石油会社と組み、石油タンクにイラストレーションを展開。作品の評判は上々だった。しかし、組合から「金の無駄遣い」だと猛反発を受けたこともあり、完成後も「本当に役に立てたのだろうか?」と悩む日々だったそうだ。そんな折、街の人の声に彼女は救われたという。

「ある若いお母さんが、嫁姑問題で悩んで実家に帰りたいなと思うと、いつも子供を連れてここへ来ていたそうです。一緒にボンヤリとこの絵を見ているうちに、『もう少しがんばろう』という気持ちになれたって……」

この絵のテーマは「家族」。「20年後も新鮮なものを描いてほしい」との要望を受け、稲田さんが選んだテーマだった。今ではすっかり街のランドマークとなっているこの作品が、彼女の「色彩コーディネーター」としての原点でもある。

お気に入りの一冊

色彩プロデューサーにとって、アーティストを選ぶのも重要な仕事の1つだ。これまで、黒田征太郎氏や沢田としき氏、ふくだとしお氏など、数々の著名なイラストレーターとタッグを組んできた稲田さん。黒田氏とは、広島市の中電病院内の壁面イラストを依頼したことが縁で、彼の絵本『水の記憶』の企画も手掛けることに。水色の表紙が印象的な同書は、稲田さん自身も大変気に入っているそうだ。

「黒田征太郎と聞けば、アクティヴで動物的なイメージを持つ人がほとんどでしょう。しかしこの作品では、イラストもコメントも静かで、優しく、はかなささえも感じられる。水のせせらぎの音にも似たこの本は、心に水分を補給し、ゆっくりと元気を与えてくれます」

発想が止まったら終わり

稲田さんが仕掛ける斬新なアートは、今や全国からも注目を集める存在となっている。そんな彼女が今、全精力を注いで取り組んでいるのが、とあるコンビナートを舞台とした空前絶後のアートプロジェクトだ。

「仲間から『いいね』と言われたことは、あえてやりません。『アホか』と言われたら儲けもの。自由な発想ができなくなったら、この仕事は辞めどきだと思っていますから」

色彩プロデューサーの先駆者として、時代を切り開き、果敢に前進し続ける稲田さん。この先も、彼女の大胆なアイデアから生まれたアートが、日本中の「色のない世界」を次々と明るく照らしていくことだろう。

取材/文 高間裕子

(11/11)

達人プロフィール

稲田恵子

兵庫県姫路市出身、広島県廿日市市在住。有限会社 稲田恵子オフィス代表。興亜石油2号タンク(1993年、山口県和木町)や、広島市立幟町小学校の保健室(2001年)など、工場地帯や教育分野に色彩を提案、アートを展開して注目を集める。また、中電病院1階放射線科通路壁画(2002年、広島市)など、医療の現場における「ホスピタルアート」にも力を入れている。

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