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つめ切り――プロも欲しがる切れ味

 新潟県栄町

【イラストより】名人は5ミクロン以下のすき間も見逃さずにぴったりと合わす。
【イラストより】名人は5ミクロン以下のすき間も見逃さずにぴったりと合わす。

つめ切り
  

 つめ切り職人、小林英夫さん(71)は、人柄温厚で、眼光鋭い。一日暗い作業場の隅に座って、仕上がってくるつめ切りを一本一本、明かりにかざして刃の合わせをチェックする。その目は、わずか1000分の5ミリのすき間さえ許さない。

 「ヤキを入れると、薄い刃に伸びたり縮んだりの狂いが出る。普通に見ても分からないけど、明かりに透かして見ると、かすかなすき間が分かる。それを研いでぴたりと合わせてやる」

 手作りされる道具には、一本一本に個性や癖がある。小林さんには、その出会いを楽しんでいるようなところがある。「SUWADAの爪(つめ)切り」はいまやプロの美容師やネール・アーティスト垂涎(すいぜん)の逸品になっている。

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 新潟県三条市は古くから刃物の町として知られる。町の真ん中を流れ、信濃川に合流する五十嵐川には九つの橋がかかり、木製の橋も残っている。しっとりとした風情がある町だ。雪国独特の素朴な人情と、負けず嫌いの気風が優れた職人を育てる。諏訪田製作所の工場は、その三条の隣の栄町にある。

 1926(大正15)年の創業の諏訪田製作所は最初、針金などを切る「食切(くいきり)」を作っていた。昔は、この食切でつめを切った。当時、日本にはいいつめ切りがなかった。

 つめ切りは、ドイツのゾーリンゲンで作られた物が有名だ。作りが精巧で、丈夫だが、ヤキを入れたあとの超微細な狂いまで手を入れていない。つめを切るだけなら、それでも十分使える。

 だが、越後鍛冶(かじ)は手抜き仕事を嫌う。負けず魂にも火がついた。試行錯誤の末、徹底した職人の手仕事で、ついにゾーリンゲンを超えるつめ切りを作り上げた。

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 素材は炭素鋼と、高級ナイフ用のステンレス鋼。作業は150工程におよぶ。切れ味がよく、刃の消耗が少ない。刃だけでなく、組みたてる前に、見えない部分まで磨き上げられているので、操作が滑らかでよく切れる。

 刃がカーブしたフォルムが美しく、つめの形にフィットし、巻きつめや、ささくれの処理も楽。赤ちゃんや女性の柔らかい肌を傷つけない。いいつめ切りは、手になじんで扱いやすく、切れ味鋭い刃が、つめにスッと食い込んで切れる。切ったつめが飛ばない。

 「何でこんなところまで手をいれるの、っていわれるけれど、職人の性(さが)かな」

 名人がちょっと照れるように笑った。 (11/30)

(朝日マリオン提供)





遠藤ケイ遠藤ケイ(イラストレーター、作家)
 1944年、新潟県三条市に生まれる。長年にわたり、人と自然との関わりを見つめながら、民俗学をライフワークとして活動している。
 全国の山村漁村の生活や労働習俗、職人の手仕事を訪ね歩き、絵と文で記録しながら、自らも自然の中に身を置き、手作りの暮らしを実践している。「男の民俗学」「日本の知恵」「熊を殺すと雨が降る」「こども遊び大全」「秘伝かくし味」など著書は多数。





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