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第71期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)が9日、東京都で開幕する。昨年と同様、森内俊之名人(42)に羽生善治三冠(42)が挑戦する。名人戦では8回目の顔合わせとなる勝負の行く末を探った。
■森内俊之名人 時機捉え秘策出す
今期のA級順位戦は羽生さんの独走だった。何局か接戦があったが、ことごとくものにしたのは実力の証明だと思う。30年以上のつきあいで、互いに知り尽くしている相手。ずっと目標にしてきたので、自分の力を試しやすい。
昨年の七番勝負は開幕前、(負けがこむ)厳しい状況で不安があった。しかし、初戦に勝った後は理想的な展開で戦えた。自分は終盤に難があると思っているが、追い込まれても悪手が出なかった。
防衛できた後は勝ったり負けたりで、調子は良くも悪くもない。「それが実力かな」と思う。ただ、名人戦になれば経験があるので、プラスアルファの力が出せるのではと考えている。
40代になり、自分がこれからどれぐらい活躍できるかという意味で、「残り時間」を感じることもある。たくさんの手を読むことができた20代の頃と違い、今は感覚を重視している。しかし、感覚だけでは羽生さんに勝てない。9時間という持ち時間を生かして、目先の手に飛びつかず、しっかり考えて戦いたい。
羽生さんは最近、振り飛車を採用することもあるので、どういう戦型になるかはわからない。しかし、この1年間で色々な新しいアイデアが浮かんだ。タイミングよく、秘策を出せればいいなと思う。去年とは違った、新しい将棋を作るシリーズにしたい。
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もりうち・としゆき 横浜市生まれ。1987年、16歳でプロ入り。02年、名人を獲得して初タイトル。07年、永世名人(十八世名人)の資格を得る。タイトル獲得は名人7期を含む計10期。現在、2連覇中。
■羽生善治三冠 今年は結果を残す
2012年度は勝ち数が久しぶりに50勝を超え、十分だと思っている。A級順位戦は苦しい将棋が多かったが、挑戦者になれて良かった。
印象に残っているのは初戦の深浦康市九段戦。何回か形勢が入れ替わり、はっきりと負けだと思う局面があった。深夜まで1分将棋が続く戦いに勝って、いいスタートが切れたのは大きかった。
森内さんは一局一局の出来不出来の差が小さく、安定している。前の2年は負けているので、結果を残したい。小さなミスがシリーズ全体の勝負を決めることがあるが、昨年の七番勝負がそうだった。今年は勝負するべき場面、我慢をするべき場面で、それぞれ正しい決断ができるかどうかが課題だ。
どういう戦型になるかは展開次第。ただ、後手番が苦しいという状況は去年と変わらないので、後手番でどんな作戦をとるかということは意識している。近年は序盤の研究が進んでいるので、定跡を無視して指すのは難しい。前例がある局面までは、速く進むこともあり得ると思う。
40代になり、今までやってきたことをどう生かすかということを考えるようになった。パッと手が見える若い人に勝る「何か」を見つけないといけない。一回一回の機会を大切にしたいという気持ちは、昨年の七番勝負より強くなっている。
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はぶ・よしはる 埼玉県所沢市生まれ。1985年、15歳でプロ入り。96年に史上初めて7タイトルを独占。08年、永世名人(十九世名人)の資格を得る。タイトル獲得は名人7期を含む計83期。現在、王位、王座、棋聖を保持。
■両者の力が突出 アイデアに注目
今期A級で羽生さんは苦しい将棋が多かった。しかしそれを勝ちきる強さを感じた。ここ数カ月の将棋界は渡辺(明)さん=竜王=の一人勝ちだが、順位戦では羽生さんが渡辺さんに勝った。ここ一番での勝負強さは変わらない。
近年の森内さんは、名人戦に合わせて調整するというスタイルを徹底している。(負けがこんでいた)昨年の七番勝負開幕前は不安だったと思うが、最近は調子が悪いとは感じない。今年は違う気持ちで臨むのではないか。
昨年の七番勝負は、最先端というよりも独自の研究に基づいた作戦がどちらも目立った。互いに意表をつかれたと思う。両者の「これでいける」というアイデアがどんな形で出るのかに注目したい。
一つのタイトル戦で8回も対戦するのは両者の力が突出しているから。本人の中での重みもあるはず。「新しい歴史を作ろう」という気持ちのこもった戦いになるだろう。(談)
■顔合わせの多さ 大山―升田に次ぐ
3年連続で同じ顔合わせとなった。名人戦での対戦は8回目。大山康晴十五世名人と升田幸三実力制四代名人の9回に次ぐ多さだ。
対戦成績は羽生の65勝52敗。昨年の名人戦以降の対局は1局(NHK杯)だけで、羽生が勝った。昨年度の成績は羽生の51勝17敗(勝率・7割5分)に対し、森内は13勝12敗(同・5割2分)。勢いでは羽生に分がある。共に通算8期目の獲得を目指す。
羽生が勝てば、7タイトルの過半数を手にすることになる。森内が勝てば2度目の3連覇だ。(村瀬信也)
■ファン代表観戦記執筆
今回の七番勝負の観戦記は、「見る将棋ファン」代表として、第1局を編集者の加藤貞顕(さだあき)さんに、第7局をコンサルティング会社社長の梅田望夫(もちお)さんに、担当していただきます。2人に期待と抱負を聞きました。
■強くない人にも魅力伝えたい 加藤貞顕さん(編集者)
学生時代に将棋にはまりました。将棋年鑑のバックナンバーを集めて、全局並べたこともありました。プロの将棋を見ていると、「天才の頭脳のきらめき」に触れる喜びを感じます。実力はアマ三段です。
一昨年に会社を立ち上げ、インターネットでコンテンツを配信するサービス「ケイクス」を展開しています。ダイヤモンド社に勤めていた頃は、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」などを手がけました。自分の根本にあるのは、「面白いものをより多くの人に知ってもらいたい」という気持ち。観戦記を通じて、将棋がそれほど強くない人たちにも、その魅力を伝えられればと思っています。(談)
■後手番の戦略、テーマになるか 梅田望夫さん(コンサルティング会社長)
主に準備をしたいのは、後手番の戦略について。現代将棋では主導権を握りやすい先手番の勝率が高く、最近の名人戦も例外ではない。第7局までもつれ込んだ場合、第6局まで両者が先手番でどれだけ勝っているのか。できれば、第6局終了後、このシリーズの後手番戦略の準備と成果について、両者に話を聞いたうえで第7局に臨みたい。
第7局の後手番は乾坤一擲(けんこんいってき)の後手番の勝負手を繰り出すだろう。それがどんな作戦なのかも注目したい。
そういったことがテーマになるかと漠然と考えているが、実際に勝負が始まれば、そんな準備が吹き飛ばされる将棋になる可能性もある。最終的には、その一局に身をゆだね、一番感じたことを軸に観戦記を構築したい。(談)
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第1局 4月9、10日 東京都文京区
第2局 4月23、24日、静岡県富士市
第3局 5月9、10日、岩手県宮古市
第4局 5月21、22日、大分県日出(ひじ)町
第5局 5月30、31日、名古屋市
第6局 6月11、12日、兵庫県宝塚市
第7局 6月26、27日、甲府市
持ち時間は各9時間。4勝すれば七番勝負を制する。
■両者のタイトル戦
1996年 名人 羽生4―1森内
2000年 棋王 羽生3―1森内
03年 名人 羽生4―0森内
竜王 森内4―0羽生
04年 王将 森内4―2羽生
名人 森内4―2羽生
王座 羽生3―1森内
05年 王将 羽生4―0森内
名人 森内4―3羽生
06年 棋王 森内3―1羽生
08年 名人 羽生4―2森内
11年 名人 森内4―3羽生
12年 名人 森内4―2羽生
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名人戦の棋譜は、朝日新聞デジタル(有料会員)や、有料の名人戦速報サイト(http://www.meijinsen.jp/)などで見られます。
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