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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第1局 >
先手 ▲ 豊島将之 四段   対   後手 △ 開原孝治 アマ

「期待の新人」登場

対局日:2007年07月07日

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 「9歳でアマ六段の少年が奨励会入会」。そんなニュースが将棋界で話題を呼んだのは平成11年の夏だった。それから8年がたち、少年は、いまだ少年だった。しかし彼は将棋の棋士となっていた。豊島将之。高校2年生。「期待の新人」という言葉では片付けられない大器が、新設された「第1回朝日杯将棋オープン戦」開幕局に挑む。

 対戦相手の開原孝治アマは、広島県福山市で整体師として開業する40歳。学生時代から広島県代表としてアマ全国大会に出場する強豪だったが、一気に有名になったのは平成12年、アマ名人戦全国大会で優勝した時だ。今回は朝日アマ名人戦全国大会でベスト8に入ったことで、朝日杯への出場権を得た。

■公開対局

 7月7日午後2時に対局開始。アマプロ戦全10局はこの日、公開で行われ、大阪会場では本局と並んで糸谷哲郎四段―中野博文アマ戦も行われた。糸谷四段は18歳で大学1年生、中野アマは40歳ということで、大阪の2局はくしくも似た構図の対決になっている。

 さて本局は振り駒の結果、歩が5枚出て豊島の先手と決まった。対局開始から両者ともスイスイと指し進め、開始30秒ほどで第1図(20手目△5四歩)。この早指しの理由を豊島は「序盤は研究していましたから」と話した。「持ち時間が短いので、研究から外れるところまではノータイムで指そうと思っていました」

 豊島は、開原アマが得意としている菊水矢倉を中心に研究していたが、開原アマは銀冠に組みなおす順を選び、豊島に若干の戸惑いを与えたようだ。

 しかし豊島が形勢を損ねたわけではない。がっちりと矢倉に囲い、▲3五歩(51手目)と突っかけた。△3五同歩▲同銀△同銀と先に銀損をしながら▲7一角(第2図・55手目)が狙いの一手。△7二飛▲3五角成と進んだ本譜は損した銀を取り返し、なおかつ馬を作ることができた。

 その頃、大盤解説場では阿部八段がうなっていた。△7二飛では△3六歩と打ち、▲8二角成△3七歩成と指さなければいけない、と。飛車と銀桂の二枚換えで、後手はと金を作っている。

 「びっくりしたけど、馬を作れて手ごたえを感じた」と豊島。開原アマは「▲3五歩の仕掛けがないものと思っていた。少し悪くしたかな」。しかし、厚み重視の棋風の開原アマは続けた。「こういう押さえ込む形なら自分の持ち味が出せそうとも思い、悲観はしませんでした」。

■土俵際の力

 事実、ここから開原アマが力を発揮する。

 交換したばかりの銀を4四に打ち、馬を撤退させる。他の金銀も徐々に前進。少しずつ先手の攻撃陣を圧迫していく。土俵際に追い詰められた力士が、突っ張りを繰り出して逆に土俵際まで追い詰めようとしているかのようだ。豊島も局後「優勢は意識していたが、実際にどう指すか難しかった」と振り返った。

 やがて千日手模様に。第3図(80手目△2三玉)の局面は、土俵中央でまわしを取り合っているようなイメージか。

 豊島は85手目▲6六銀から一分将棋になった。ここで驚くほど華奢(きゃしゃ)な体つきの豊島が、時間の使い方で老練さを見せた。

 開原アマが悔やむ。「私の方が時間を余分に残していたはずですが、こちらの時計だけ少しずつ進み、結局変わらないくらいになってしまいました」

 一分将棋の豊島はぎりぎりまで打開のチャンスを狙い、まだ10分以上残していた開原アマはミスをしないようにと、少しずつ時間を使う。みるみるうちに開原アマの残り時間は減り、まもなく1分将棋になった。

■千日手模様を打開

 結局、開原アマが106手目、△7四歩(第4図)で千日手模様を打開した。本譜の▲7四同馬△3六歩▲同金△4七角に期待したものだ。開原アマは「勝負になった」と感じ、大盤解説会で解説していた阿部八段、阪口四段も「これは大変なことになってきた」と混戦をうかがわせた。

 △4七角以下豊島は、▲6四歩△同歩▲4一馬△3二歩と進め、▲2七銀(第5図・115手目)と打った。途中▲6四歩には△同金と取り、▲同飛△同歩▲4一馬△3二歩▲3一馬△3五金と進めたほうが後手は頑張れたが、開原アマは本譜である一手を見落としていたという。

■空中要塞崩壊

 後日の電話取材で豊島に「大盤解説会では▲2七銀の評判が悪かったですよ」と言うと、「でも……」。間髪入れずに反論された。この時、彼の背筋はまっすぐ伸びていただろう。「▲2七銀で後手は入玉が難しくなり、攻め合いも先手の一手勝ちです」。事実、開原アマは攻め合いにしようと△7三桂と跳ねた。しかしこれが次の▲2二歩(第6図119手目)を見落としたポカ。次の▲2一歩成が受からず、開原アマが作り上げた空中要塞(ようさい)はあっけなく崩壊した。終了図は△3六銀には▲3五金からの詰みがあり、他に▲4三角、▲2五金などの詰み筋が受からない。

 糸谷―中野アマ戦は糸谷四段の大逆転勝ち。阿部八段が「見ていて楽しい、盛り上がる内容」と評したハラハラドキドキする対局だった。

 開原アマは「自分らしく指せたので満足しています」とメッセージを寄せてくれた。近いうちにアマプロ戦に戻ってきてもらえるだろう。

 豊島の印象を開原アマに聞くと、「まじめな好青年で、将来本当に名人をとる人かも」と語った。本局でも実力を見せ、ますます期待が高まる豊島。当の本人は「勝ち上がって、トップの人と当たりたい」とまずは目の前の対局に集中する。これからの活躍に期待したい。

(諏訪景子)
(2007年12月26日 更新)

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