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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第2局 >
先手 ▲ 中村太地 四段   対   後手 △ 加藤幸男 アマ

朝日アマ名人対新鋭

対局日:2007年07月07日

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■緊張

 中村四段は1988年6月生まれの19歳。今年4月に早稲田大学に入学した大学生棋士である。早稲田大学の同学年に「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹投手や卓球の福原愛選手がいる。中村四段は180僂猟洪箸鵬辰─端正な顔立ちで女性に人気が出るだろう。将棋世界誌の「名局コレクション」のコーナーで好局譜を解説するなど普及活動にも熱心だ。対アマ戦の成績は3戦全勝。

 加藤さんはNECに勤務する25歳。高校2年のときに高校選手権戦で全国大会初優勝。立命館大学時代に学生三冠を達成し、社会人になってからは2004年にアマ竜王を、06年3月に朝日アマ名人を獲得した。今年6月に朝日アマ名人の初防衛を果たす活躍。加藤さんのプロアマ戦の成績は4勝4敗と五分。

 中村四段は本局がアマプロ戦の上に公開対局とあって、対局前は緊張していたと言う。しかし、対局が始まると普段通りに指せたそうだ。盤上没我の境地だったのだろう。

■予想外の相矢倉

 局面は相矢倉から「森下システム」と言われる形に進んだ。振り飛車党の中村四段にしては意外な作戦選択だ。加藤さんも「予想外だった」と語っている。森下システムは一時期廃れていた戦法だったが、名人戦や竜王戦などのタイトル戦で採用されて、その優秀性が見直されている。

 第1図(42手目△2四銀)で▲4六銀と銀を繰り出せば定跡形に戻るが、中村四段は▲4六歩と突いて、▲5七銀型を生かす構想に出た。

 対する加藤さんは△9五歩と端歩を伸ばした。△9五歩の代わりに△8五歩と突くと穴熊にされるという。「短い持ち時間で穴熊に組まれるのは嫌でした」と加藤さん。本譜は△9三桂から△8五桂の攻めがあるので、先手は穴熊に組みにくい。

■無理攻め

 水面下での駆け引きが続き、両者持ち時間を消費していく。第2図の△6二飛(48手目)の局面を考慮中に、中村四段は早くも秒読みに入った。加藤さんも残り時間は8分だ。中村四段は天を仰ぎ、意を決したような手つきで、▲4五歩と突き出した。

 本譜は攻めの棋風の中村四段らしい手順だが、桂損をするので無理筋だった。「悪いですよね、さすがに」と中村四段は局後に反省していた。

 ▲4五歩では▲7五歩△同歩▲6六銀右△3五歩▲同歩△3六歩▲7五銀と進めた方が良かったようだ。「自信ないです」と加藤さん。この進行なら後手の駒がぎこちない。

■先手、チャンスを逃す

 第3図の△3七桂成(70手目)から先手の飛車を押さえ込んだが、▲4六金と攻め駒を足されてみると思いのほか難しい。感想戦で△2七歩に変えて、△2八歩なども検討されたが、明快な順がなかなか見つからなかった。「考えている以上に難しかった」と加藤さんは言う。

 数手進んだ、第4図の△2四銀(80手目)の局面はむしろ先手にチャンスが訪れていた。▲5九飛では▲2五歩と飛車を逃げずに攻める手があった。玉の近くを攻められ、飛車を取る余裕のない後手は△2七成桂と粘りにいくが、▲2八飛△2六成桂▲同飛となれば駒がさばけて先手が良かった。「(▲2五歩で)非常に困りますね」と加藤さんが言えば、中村四段も「こうするに決まっていますね」。

■疑問手を重ねる

 第5図の▲5八飛(89手目)と歩を取った局面からの数手がポイントだった。まず、△2六成桂(90手目)では単に△5四歩▲1一香成△3四金とするべきだった。「駒を渡してから手を戻すのでは調子がおかしい」と加藤さん。また、△2六成桂と取ったなら△5四歩(92手目)では△3四玉▲1一香成△2五玉と入玉を目指すべきだった。

 そして、△6九銀(94手目)が「ひどかった」と加藤さんは悔やむ。先手に▲2五銀と上部を押さえられてしまったからだ。これで後手は入玉ができない。△5八銀不成と飛車を取っても先手陣は響かない。△6九銀では△2五金と先に受けて、▲3五桂△3四玉▲4三桂成△同玉と進めば「まだまだこれから」と大盤解説の木村一基八段は言う。前後するが、中村四段も▲1一香成では先に▲2五銀とする方が良かった。加藤さんは勝負所で疑問手を重ねてしまい、形勢を損ねた。

■粘りを欠く

 しばらく進み、第6図(117手目▲5二金)は中村四段が小駒だけで攻めているところだ。同時に行われていたほかの3局はすでに終局し、残っている対局は本局だけとなった。20人を超える観戦者が固唾(かたず)をのんで見守っている。その中に先崎学八段の姿もあった。

 第6図から△7一玉(118手目)は粘りを欠いた。△7二玉と上がり、▲5三金に△6一飛とかわす手を局後に中村四段が指摘した。それでも先手が優勢だが、これなら飛車を逃がしつつ、△1一飛から△1九飛成と大転回する筋を狙って、まだアヤがあった。

 ▲6一飛(131手目)が激戦を締めくくる華麗な捨て駒だ。▲5二とを見て加藤さんの投了となった。終了図以下は△7一玉▲7二銀△同玉▲6一角以下詰みとなる。

 「熱戦になって良かった」と中村四段はホッとした様子。一方、加藤さんは「出来が悪すぎた。迷ったときに全部悪いところに手が行ってしまった」。悔いの残る1局となったようだ。次の対局で捲土重来(けんどちょうらい)を期待したい。

(君島俊介)
(2007年12月26日 更新)

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