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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第3局 >
先手 ▲ 瀬川晶司 四段   対   後手 △ 山田洋次 アマ

瀬川四段、アマを迎え撃つ

対局日:2007年07月07日

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■見慣れた光景

 瀬川四段と山田アマが盤をはさんだ光景には、会場に詰めかけた関東近郊の多くの方にとって既視感があっただろう。瀬川四段はご存知の通り、2年前に35歳でプロ編入試験に合格するまでは、アマトップとして活躍していた。アマ時代の瀬川さんは全国有数の激戦区である神奈川県の代表として、また社会人の名門チームNECの主力メンバーとして知られていた。一方の山田アマも神奈川県に長く在住。勤務先はやはり社会人名門チームであるリコーで、個人戦でも団体戦でも、両者は幾度となくアマチュア日本一を争ってきた。過去の対戦では山田アマの方に若干分があるというから面白い。今回はプロとアマの立場に分かれての再戦。瀬川四段に精神的プレッシャーがかかる一方で、山田さんは「瀬川さんがどれぐらい強くなったのか楽しみでした」と余裕のコメントを残している。持ち時間の短い対局条件なども含めて、アマにはいくつかのアドバンテージがあった。

■珍しい序盤

 記録係は知花賢二段(20歳、所司和晴七段門下)。振り駒の結果「歩」が5枚出て、先手は瀬川四段に決まった。4手目△3三角(第1図)はやや珍しい序盤作戦。定跡形からはずれた力戦で実力を発揮するのが山田アマだ。対して瀬川四段も手の内は十二分に知っている。気合鋭くノータイムで、臆することなく▲同角成と換えた。

 瀬川四段のスーツの襟元や扇子には、スポンサーであるNECの社章が見える。本局の隣りで指しているのは、先日山田アマが挑戦した加藤幸男朝日アマ名人。現在NEC勤務で、瀬川四段とはチームメートだった。

 本局から一番離れた席で伊藤真吾四段と対戦しているのは山田敦幹アマ。アマチュアで山田といえば、最近まではそちらトンカンさんの強さが目立ったが、最近ではこちらヨージさんも絶好調。ただし今回の一斉対局では、明暗が分かれることとなった。

■絶好の仕掛け

 序盤作戦で一本取ったのは瀬川四段。6六の好点に角を据え、山田陣をけん制した。第2図(28手目)は瀬川四段▲6六角に対して山田アマが△4三銀と上がったところ。ここで瀬川四段の目が光った。絶好の仕掛けがあるのだ。▲3六歩△同歩▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四歩(第3図・35手目)で早くも一本取った形。瀬川四段は自身のブログで「飛車切りの仕掛けのところはゆっくり指す手もあって迷いましたが」と書いているが、プロ編入試験でも見せた、大一番での踏み切りのよさが身上だ。

 山田アマは△2四歩と飛車を取るよりない。以下▲3三歩成△4一飛▲3二とで、飛と金桂の交換となり、瀬川四段が二枚換えで駒得。さらに△3二同銀に▲2二角成と先手で馬を作って優位に立った。

 しかしここからしぶといのが山田アマ。△1四角(第4図・42手目)と攻防に打って、息の長い中盤戦に持ち込んだ。本局では盤上を駆けめぐる瀬川四段の馬と、1四に据えられ司令塔の役割を果たした山田アマの角が好対照をなした。

■怪しいムード

 山田アマは6月におこなわれた朝日アマ将棋名人戦三番勝負において、加藤幸男朝日アマ名人に中盤でリードを許しながら、地力を発揮して勝負形にまで追い上げている。本局もまたこの後見せ場が訪れた。3二にいた銀を最前線の4五にまで押し進め、ここではすでに怪しいムードだ。瀬川四段は持ち時間40分を先に使い切り、すでに一分将棋。ドラマが起こる条件は整っていた。じっと突き上げる▲8五歩(第5図・61手目)は後手玉の急所を衝いているが、ここは▲5五馬が優った。というのも(1)△5六銀とさばかれると、変化はあるにせよきわどい終盤戦になったであろうから。

 しかし出てみろと言われれば考えてしまうのが実戦心理。ここで持ち時間を使い切り一分将棋に入った山田さんは、代わりに(2)△9四歩と突いた。局面も時間も忙しいところで玉のふところをじっと広げ、山田アマの実力をうかがわせた一着である。しかし残念ながら、本局では敗着となった。第5図から△9四歩▲8四歩△同歩▲6四歩△同歩▲6三歩△同玉▲7五桂△5二玉▲6四馬△6三歩▲5五馬(第6図・73手目)と進んで、瀬川四段が再びはっきり優位に立った。後手玉が城外に追い出されてしまったのに対し、先手は5五馬が攻防に利いて磐石である。

■クライマックス

 第7図は最終盤。瀬川四段は毅然と▲5四馬と進み、決めに行った。観戦者が思わず身を乗り出した場面だ。山田アマは当然、△6九飛成▲同玉△5八とと詰ましにかかる。1四角が利いていて、相当にきわどい。しかし瀬川四段は読みきっていた。▲7八玉△6八と▲同玉で、手は続くものの先手玉は詰まない。山田アマは時間に追われ△6六金としばったが、▲6四飛(終了図・115手目)と打たれて肩が落ちた。以下は△8三玉に▲6六飛と金を抜いてもいいし、何より▲7二銀からの詰みがある。

 山田アマは終局後さわやかに笑って、瀬川四段の鋭い仕掛けで不利になったことを認めた。瀬川四段は「難しいと思いましたが……」。プロになってからは公式戦でアマに3連勝。謙虚な姿勢の一方で、厳しくプロの力を見せている。

(松本博文)
(2007年12月26日 更新)

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