現在位置:asahi.com>将棋>朝日杯将棋オープン戦> 記事

< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第13局 >
本戦1回戦 先手 ▲ 深浦康市 王位   対  後手 △ 行方尚史 八段

行方、王位を破る

対局日:2007年12月23日

棋譜再生 別ウインドウで開きます | 使い方

棋譜

棋譜

棋譜

棋譜

棋譜

棋譜

■重量級ブロック

 行方は2次予選からの出場。川上六段、高橋九段を破っての本戦進出。深浦は第25回朝日オープン将棋選手権でベスト4に入ったため、本戦シードで本局からの登場だ。

 深浦は開始の20分前、9時40分ころには到着し、身の回りの品を整え一度席を立つ。10分前には準備万端で正座し、目をつぶって開始時刻を待っていた。行方が早足で到着したのは開始3分程前のギリギリだった。青白い顔ではれぼったい目はいつものことだ。駒を並べる時間や振り駒があるので、開始時刻は定刻の10時を少し過ぎていた。

 隣で行われているのは佐藤康光二冠−郷田真隆九段戦。勝者同士が4強入りを懸けて午後の対局で対戦する。重量級のブロックだ。

 この日は日曜日で、研修会も開かれていた。研修会は有段の少年少女が参加する連盟公認の教室だ。対局開始時には子供たちの声が響いたが、しばらくしてふすまが閉められ、静かになった。こういう環境で公式戦が指されるのは珍しい。

 開始時刻の遅れを取り戻すためか、序盤は一手数秒でバタバタ進む。もっとも持ち時間40分というスピーディーな将棋ではゆっくり考えてはいられない。

■相矢倉に

 深浦は昨年、王位を獲得したばかり。行方はA級棋士1年生だ。鍛えの入った居飛車党同士の戦いは相矢倉に進んだ。2人の戦いは過去11局ですべてが相居飛車。行方が6勝5敗で勝ち越している。相矢倉に限れば6局で、逆に深浦が4勝2敗と勝ち越している。

 △7三銀と後手番ながら積極的に銀を繰り出した行方に対し、深浦は▲5七銀から▲8六銀(第1図)と工夫。第1図の局面は本局がはじめて。新手だ。「こういう手もあるかなと思って」と深浦。ただ本譜のように△8五歩と突かれたら▲7七銀と引くしかなく、2手損になる。深浦は▲5九角から▲3七角という形を目指した。

 △7五歩から行方が先攻した。▲7五同歩は△同銀▲6五歩△6四歩▲6六銀右△6五歩という決戦の変化になる。先手としてはこの順の方が、後手の中途半端な玉形をとがめてまさった、と両者の意見は一致した。本譜は銀交換後、先手が5七の銀を7七に移動させて矢倉を作り直した。深浦はこの味のよい組み替えにほれていた。

■B面攻撃

 矢倉の再構築を終えた瞬間に、△3五歩(第2図)が飛んできた。手にした銀で角をいじめる、いわゆるB面攻撃だ。「後手番としてはこの展開は満足」と行方はいう。

 深浦は後手の言い分を通して5八にと金を作らせ、その反動で襲いかかる。手順中、4三の地点をはさんで金銀を打ち替える千日手の権利が深浦に生じたが、深浦は角を切ってなおも踏み込んだ。結果的には千日手に逃れるべきだったかもしれない。だが切り込んで勝利をつかみにいったことでキビキビとした面白い将棋になった。

■急所の銀

 受け将棋の棋士が攻めるときは重いパンチになる。行方陣の金銀が見る間にハガされていく。しかし角取りの▲3四歩に構わず△6九銀(第3図)が鋭かった。「手応えを感じた」と行方。▲3三歩成にはその瞬間に△7八銀成が利く。▲7八同玉は△6九角▲8八玉△7八金▲9八玉△8八金打▲同銀△同金▲同玉△8七角成で以下詰む。△7八銀成に▲9八玉なら詰まないが△3三桂と手を戻して後手が勝つ。

 先に40分を使い切ってしまった行方だが、秒読みでも指し手は乱れない。眠そうだった目も、鋭く輝いてきたように見えた。深浦は終盤に顔が赤くなるので「アカオニ」とからかわれるという。確かに紅潮している。必死で読みを入れているのだろう。

■攻守交代

 猛然と攻める深浦。観戦中はどちらが勝ちか判断できなかったが、局後深浦は「この攻めでは足りない。余されています」と語った。金を手放したのが大きく、また後手の攻め駒が急所に迫りすぎていて、一手空いただけで先手陣は寄せられてしまう形なのだ。

 第4図から▲4五銀と角を払ってついに後手に手番が回った。

 優勢の局面を着実に勝つプロの技術は参考になる。行方は鮮やかに決める。△8六飛(第5図)と飛び出したのが美しい手で、以下は詰んでいる。

 深浦は敗戦の後はいつも落胆が大きい。感想戦ではがっくりと肩を落として言葉少なく、何度も首を傾げていた。勝者の行方は謙虚で、深浦の読み筋に感心しつつ、しきりに自分の指し手を反省していた。

 タイトルホルダーを破った行方がベスト8進出を決めた。

(水沢桂介)
(2008年02月13日 更新)

このページのトップに戻る